BL作家 太刀柳先生の悲劇

朽木桜斎(くちき おうさい)

仕事終わりにイケメンとデートとはよくいったもの

 あるところにね、太刀柳たちやなぎさんっていう、BL小説家の先生がいたんですね。


 で、太刀柳先生、締め切りをかかえた仕事が終わって、「うーん、終わったー」なんてね、背伸びをしてたんですよ。


 そしてね、2階にある仕事部屋からね、何気なにげなーく、外の景色をのぞいたんですね。


「おや――」


と思ったんです。


 眼下がんかの道路を、上はパーカー、下はピーッチピチのジョガージャージをいた青年が、てくてく~ってな感じで歩いてるんですね。


 でも後ろ姿だし、ちょうど夕暮れどきだったから、顔はうまく見えなかったんです。


「わーっ、さぞイケメンだろうなあ。あんな子と、デートなんかできたらいいなあ」


 なんて考えてね、先生、いてもたってもいられなくなって、部屋を飛び出してね、その美青年のあとを、追いかけたんですよ。


   *


 先生、その子の後ろから、そーっとあとをつけた。


 でね、少しずつだけど、距離をつめていったんです。


「いったいどんな顔なのかなー」


なんて考えながらね。


 そしたら、妙なことが起こった。


 ネコの鳴き声が聞こえるんです。


「にゃーお」


ってね。


 先生、あたりを見回した。


 でもね、どこをどう見ても、ネコなんて一匹も、いやしないんですよ。


「おっかしいなあ、確かに聞こえたのになあ」


 するとまた、


「にゃーお」


って聞こえたんですね。


「あれー、おかしいなあ」


と思いながらも先生、その子のすぐうしろまで近づいた。


 すると、フッと、その子が振り返ったんです。


 ネコだったんですね――


 先生びっくりして、気を失っちゃったんです。


   *


 先生が目を覚ましたら、自分の部屋の中で寝てたんですね。


「あれー、おかしいなあ」


とか思って、


「夢だったのかなあ」


って考えてたら、先生、気づいたんです。


 太刀柳先生、ネコになってたんですね……

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