第12話 犯人の輪郭


 放課後の校舎は、依然として静まり返っていた。

 凌、真帆、瑠奈は、資料室から持ち出した封印テープを前に、深刻な表情で話し合っていた。


「……彩音さんを突き落としたのは、生徒会の中の誰かに違いない」

 凌は慎重に言った。

 しかし、資料室の情報を整理すればするほど、犯人は極めて狡猾であり、誰も疑わない人物であることがわかる。


「テープには、『氷室先輩の影に隠れた人物』って書かれてた」

 瑠奈が声を震わせる。

「……つまり、氷室先輩は直接手を下していないけど、計画を知っていた、ということ?」


 凌は頷く。

「そうだ。直接の犯行者は別にいる。でも、氷室透も、少なくとも黙認していた可能性が高い。

 そして、被害者に近い人物で、普段誰も疑わない……」


 真帆は資料の中から、生徒会メンバーの行動記録や出席データを洗い出していた。

「犯行時間は放課後。彩音が録音した夜……その時間に校舎内で動けた人物は限られてる」

 机の上には、出席簿や監視カメラのログが散らばる。

 その一つ一つを照合することで、候補者は徐々に絞られていった。


 凌は封印テープをもう一度再生し、彩音の声を聞き直す。

 声の中に潜む恐怖、焦燥、そして微かに見え隠れする“人物の特徴”。

 それは、犯人の性格や行動パターンを示す微細な痕跡だった。


「……手口も巧妙だ。彩音が足元をすくわれた瞬間、事故に見せかけるために細工されてる」

 瑠奈の目には恐怖と怒りが入り混じる。

「……まさか、こんなことを生徒会が……」


 真帆が冷静に資料を整理し、口を開く。

「候補は三人……行動範囲と証拠のつじつまが合うのは、この三人しかいない」

 名前を出すと、瑠奈は顔を青ざめさせた。

 「……その中に、あの人が……?」


 凌はゆっくりと頷いた。

「……そうだ。でも、今はまだ確定できない。ここから一歩ずつ証拠を積み上げる必要がある」


 部屋の静寂の中、三人は一斉に資料に向かう。

 封印テープの声、監視カメラの映像、日誌の断片……全てを総合して、犯人の輪郭を浮かび上がらせる作業だ。


 夜の校舎に響くのは、紙をめくる音、指先でログを追う音、そして三人の息遣いだけ。

 だが、その静寂の中で、犯人は確実に、影のように彼らのすぐ近くにいる――。


 凌は拳を握り、心の中で誓った。

「……絶対に、彩音を守る。そして、この学校の真実を暴く」


 その決意が、冷たい夜の校舎に確かに刻まれた。


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