第3話 沈黙の生徒会

 翌日、放課後の校舎は異様に静かだった。

 神谷凌と結城真帆は、ため息をつきながら生徒会室の前に立つ。

 そこには、あの氷室透がいた。

 生徒会室の扉は半開きで、透の姿は中に沈んだ影のように見える。


「神谷くん、真帆、来たのか」

 透は静かに立ち上がる。生徒会副会長らしい背筋の伸びた姿だが、瞳には何か隠された色があった。

「昨日の事件……また、放送室に行ったんだろう?」


 凌は息を整え、返す。

「ええ。テープのコピーを取ったんです。録音された声は、事故ではない可能性があります」


 透は眉をひそめ、何も答えずに席に座りなおした。

 そしてゆっくりと、低い声で言った。

「放送室には、触れるなと言ったはずだ。警察が調べているのに、余計な手出しは――」


「誰かが消そうとしているんです。テープの声も、足跡も――何かを隠している」

 凌は一歩前に出る。

「あなたは、知ってるんじゃないですか? 彩音さんのことを――」


 透は無言で凌を見つめ、長い沈黙を置く。

 その間、真帆は生徒会室の机に目をやる。

 パソコンの画面が薄暗く光り、削除済みのフォルダがいくつか表示されていた。


「……あれ、これ、消された放送データ?」

 真帆が指を差すと、透は肩をすくめた。

「……見つけたか」


 凌はそのフォルダに目を凝らす。

 名前はすべて、放送部関係者の録音ファイル。

 彩音の声も、削除される前に残されたコピーがある。


「氷室先輩、どうしてこれを消そうとしたんですか?」

 透は立ち上がり、窓の外に視線を向けた。

「学校にとって、放送部は……ただの部活動じゃない。あの声が表に出れば、いろんなことが壊れる」


「壊れる?」

 凌の疑問は大きくなる。

 透は少し間を置き、口を開いた。

「彩音……あの子は、知りすぎた。放送室で録音していたのは、事故や噂話じゃない。ある“秘密”を……偶然聞いてしまったんだ」


 真帆は息をのむ。

「秘密……って、学校の?」


 透は静かに頷く。

「……そうだ。神谷くん、真帆、これ以上深入りすれば、お前たちも巻き込まれる。だが、彩音の死を無駄にはさせない……」


 その言葉の裏には、警告にも似た重みがあった。

 凌は拳を握る。

「わかりました。けど、必ず真実を突き止めます。あなたの言う“秘密”も、全部」


 透は微かに笑みを浮かべたが、それは温かさよりも冷たさに近かった。

 生徒会室の空気は、沈黙のまま凌たちを包む。


 部屋を出ると、夕焼けが校舎の壁を赤く染めていた。

 放送室で聞いた声、足跡、削除されたデータ……

 すべてが、一つの方向に向かって繋がり始めている。


 そして凌は、確信する――

 この学校には、誰も知らない秘密がある。

 その秘密は、彩音を死に追いやった犯人の影とも、深く結びついているのだ、と。


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