第4話 作業中といえば、セクハラだよなぁ!!

 街に買い出しに行こうと思う。


 このパーティーには戦闘以外にも役割分担がある。


 料理や資金管理はしっかり者のマルテさんが担当。

 洗濯や掃除は魔法が得意で綺麗好きなセフィアさんが担当。


 俺も料理や家事が得意だけど……なんというか、誰かにしてもらうのっていいなって思った。


 家に帰れば、温かいご飯と人が待っていて。

 服や部屋が綺麗にされていると心地よい。


 他の人にとっては両親がしてくれたことかもしれないが……俺にとっては、初めてのことだ。


 だから、ここは甘えようと思う。

 

 うん、第二の人生は思い切りが大事だよな!

 

 だけど、何かしらの役割はしたいので買い出し担当に立候補したのだった。


「えーと、マルテさんには付け合わせの野菜と卵を買ってきてと頼まれて……。セフィアさんには箒と掃除用洗剤が欲しいと。あとは……」


 それぞれに頼まれたものを再確認しつつ……。


 俺は最後の1人がいるところへ。

 家の隣にある防音が施された小型の建物へと足を進めていた。


 足音はできるだけ立てず……ゆっくりと扉を開ける。


 道具や武器、素材が綺麗に並べられていた空間が広がり……。


 カンッ!カァンッ!とつちを振るう甲高い音が響いていた。

 

 ここは鍛冶の作業場であり、目線の先にいる女性は黙々と作業をしていた。

 

 長方形の金属を適度に叩いては熱して……叩いては熱してを繰り返して、理想の形を作っていく。


 その丁寧な仕事ぶりと……外見にはギャップがある。


 燃えるような赤髪ショートに、キリリとした鋭い目つき。

 槌を振るたびに、ぶるんと揺れる大きな胸。筋肉がつき、引き締まっていてスタイル抜群。


 今は作業中で、ここの空気もむわっと蒸し暑いためか、着ている半袖を肩ら辺までガバッと捲り上げており、首元にはしっとり汗をかいていた。


 凛々しく端正な顔立ちも合わさり、思わず『姐さん!』と呼びたくなるような……絶世の美女がそこにいた。


 と……俺の視線に気づいたのか、ちらりとこちらを見た。


「……ん? って、ユーガ! いるんだったら声掛けやがれよっ!」

「声を掛けられなかったんですよ。ジーナさんの姿に見惚れていましたからね」

 

 キリッとした顔で即答する俺。

 いや、キリッとする必要はないんだけどな。

 

 だけど、見惚れていたのは事実。

 ジーナさんの作業している姿って、かっこいいんだよなー。

 しかも今は剣を作っているところ。

 男心をくすぐられる。


「あ、アタシの姿に見惚れてたってお前っ。しょ、正直すぎるだろうが!!」

 

 ジーナさんの顔が真っ赤に染まる。

 実は、照れ屋なのだ。


「ジーナさん、好きだなー」

「す、すす好きって! お、お前っ、大胆すぎるだろ!!」

「あ、ジーナさんの作業姿のことですよ? かっこいいです!!」


 ちゃんと言っとかないとな!


「そっちかよ! ア、アタシはてっきり……」

「てっきり?」

「ユーガがアタシのことを……って、言わせるなよっ! ばっ、ばばばばっかーー!!」


 近寄ってきたジーナさんが俺の肩をバシーン‼︎と叩く。


 それこそ、さっき金属を叩いていた力並に。

 

 俺は思わず、「ごふっ!」という声が漏れた。


「うわぁぁ! すまん、ユーガ! 力加減ミスった!! アタシ、人が相手だと加減が分からなくて……」

「《ヒール》 いや、大丈夫ですよ。俺、身体は頑丈で回復魔法も使えますから」


 痛みがあったら瞬間に回復魔法。

 うん、ちゃんと回復魔法が使えているな!

  

「ところで、ジーナさん? その様子だとまた朝から休憩なしで作業していたんですね?」

「いや、そんなことは……」


 口でそう言いつつも、図星なのか、ジーナさんは俺から目を逸らした。

 非常に分かりやすいな。


 作業中とはいえ……これは、セクハラだよなぁ!!


「それじゃあジーナさん。いつものやりますから」

「あ、アレをやるのか。ま、待て! こ、心の準備がっ」


 何やらごにょごにょ言っているジーナさんの手をぐいっと引いて、備え付けのソファの方へ一緒に向かう。


「お、おまっ。強引になったなぁ……」

「嫌でしたか?」

「い、嫌とかじゃねぇよ。ただ、男らしいと思っただけで……」

「? そりゃ、俺は男ですからね?」

「ばっかっ! そのままの意味じゃねーよ!」

「げふっ!?《ヒール》」


 また肩に衝撃があった瞬間に、回復魔法を唱える。


 最近、回復魔法の発動スピードが上がったのはこれのおかげかもしれない。


「うわわっ! すまん、ユーガ!!」

「大丈夫です! それより早く……やりますよ」

「っ!」


 俺はソファーに腰掛け……ポンポンと自分の膝を叩いて合図をする。


「ま、まあ……今はアタシとユーガ以外はいないしな……」


 ジーナさんは顔を染めつつ……ゆっくりと頭を俺の膝に預けてきた。


 そう、これがジーナさんへのセクハラ。

 

 作業中に膝枕である。


 ちなみに、日によってはジーナさんに俺が膝枕をしてもらっている。


 これは間違いなくセクハラだよなぁ!

 

 美女に膝枕するのも、作業を中断させてするのも最低行為だよなぁ!!


「どうですか? 俺の膝枕。少しは上達したでしょ?」

「膝枕に上達もねぇだろ。つか、ユーガ。お前、最近また筋肉ついてきたなー。前よりちょっと太ももが硬い」

「それって、膝枕としてのレベルは下がったってことじゃないですか」

「お前、別に膝枕マスター目指してるわけじゃないだろ……。で、でもまあ……居心地は悪くはないよな」


 そう言われて、俺はちょっと嬉しくなる。

 

 だが、ジーナさんからすれば、膝枕を強要されて……さぞ不機嫌だろう。


 居心地は悪くないと言うのは、せめてもの大人な対応だ。


 でもジーナさん。前はもっと膝枕するのは嫌がっていたはずだったんだよなー。 

 今じゃ、俺が声を掛ければスムーズに膝枕の流れになっている。


「なぁ……ユーガ」

「ん?」


 不意にジーナさんが口を開く。

 

「お前さ、こういうこと……」

「もちろん、膝枕はジーナさんしかやっていませんよ!」

「なんでアタシが言おうとしたことが分かった!?」


 ジーナさんが驚きの声を上げた。


 二度あることは三度あるというが……まさかあるとは。


 ジーナさんは俺がこういうことを他の人にもやっているのかと聞こうとしたみたいだ。


 嘘はついていない。


 膝枕というセクハラ行為は、ジーナさんにしかやっていないのだから。


「それならいいんだがなぁ……」


 ジーナさんはいつもの凛とした表情に戻る。


 それからは他愛のない話をしていたけど……。


「だからよぉ……アタシは……」


 段々とジーナさんの瞼が落ちていき……ついには瞼が閉じ切った。


 眠ってしまった。

 やっぱり疲れていたみたいだ。

 

 ひとまず体力回復魔法を掛けておくとして……しばらくはこのままだな。


 まあ俺としてもセクハラできていいけど!


 数分後に目が覚めたジーナさんに欲しいものを聞いて、俺は街へ買い物に出かけた。


 さて、先ほどのジーナさん。

  

 別に、雇った鍛冶師でもなければ、不良たちの姉さん女房という訳ではない。


 ジーナ・アルフレッド。

 彼女もまた、パーティーメンバーの1人だ。


 そして、名を馳せている凄腕の母親である。



◆◆


 ユーガが買い物に出かけた頃。

 

 ジーナはまた鍛冶の作業に没頭……とはいかなかった。


「ユーガのやつ今日もまた……。アイツに膝枕された後は頭おかしくなるっての……」

 

 ジーナはソファに未だ腰掛けていた。

 

 そうして思い返すのは、先ほどユーガに膝枕されたこと。


「ったく、アタシを甘やかしやがって……! あんなのされたら、そりゃもう……集中なんて無理に決まってんだろ!」


 いつも鋭い目をしているジーナだが、その目は今は微かに潤んでおり、頬は赤くなっている。


「……ノルマはもう終わってるし、いっか。今日はもうサボってやる……。それに、ユーガにはちゃーんと責任、取ってもらうけどな♡」


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