19曲目 おねーちゃんとお布団“連番”
「柚季さん。ごめん!俺の妹はコノミ。みんなのおりひめで俺らの推しのコノミです!」
「!!??」
雪さんが目を真ん丸にして、俺の顔と恋乃実の顔を行ったり来たり――次第に冷静になる。
「あの……、わたし……大ファンです。いつもありがとうございます」
雪さんが推しに会った時にこうなるのかと思いながら様子を微笑ましく見守った。
「こちらこそ!応援ありがとうございますっ!!そして、おにぃの彼女さんなんですね? いつも、おにぃがお世話になっていま~す!私も、お姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいです!!」
「おねえちゃん……コノミちゃんが、おねえちゃん……だってさ。孝晴君……私、今日死んじゃうのかな?」
「いや、強く生きてください。マジで。これからも妹の応援をお願いします」
意外と推しに会った時の準備はできていたらしい雪さんの様子に安堵した――
それからというもの。
俺らは、母ちゃんお手製の美味しいディナーに舌鼓を打った。
その間、雪さんとコノミは既に柚季と恋乃実として打ち解けてきたようで安心した。
そうだ。
ひとつだけ、柚季さんを家族として迎え入れるための儀式を忘れていた。
「柚季さん、言い忘れたけど、これから恋乃実と外で会っても関係者だって秘密にできる?」
俺は何気なく予防線を張っておく。
いつの日か、必ずやこの仕掛けはきっと役に立つ。
彼女が出来て早々に、妹の心配をして申し訳ないがコノミの為だ。柚季さんもきっとわかってくれる。
「そうだよ?おにーちゃんが決めた家族ルールっ!!!もう柚季さんは私のおねーちゃんだからねっ!!ごめんねっ!」
元気ハツラツな恋乃実が柚季さんにウインクながらに言う。
「ぶふぉぁ……!!!はいっ!!!勿論ですともっっ!!!ファンである事は隠さないけど、お、お、お、おねっ、おねーちゃんである事は秘密にしますっ!!!!」
恋乃実……コノミの前ではとことん不審者、犯罪予備軍の我が彼女が宣誓してくれた。
くすくすと笑っている母ちゃんもまた、柚季さんを大崎家の一員として温かく見守ってくれていることがわかって、俺は心底嬉しい。
夕飯を終えた後、柚季さんに母ちゃんがお風呂を勧める。
恋乃実が「柚季さん!一緒に入ろ!!!」と愛嬌の暴力をかましていたが、ファンとして一線を越えるわけにいかなかったのか「ごめん!流石に心の準備ができてない!」と頭を下げた彼女を見るなり「また今度ね!」と声をかけていた。
俺も、風呂に入る。
まさか彼女が出来た初日から「彼女と推しで出汁を取った風呂」に入ることになるとは思わなかった。
少しだけ興奮してしまったことはここで諸君に謝っておく。すまん。
風呂上がりの団らんの事。
今日は帰りの遅い父さんとの挨拶は明日ということになり、就寝の準備をする。
「柚季ちゃんは、みーちゃんと一緒に寝る?」
次は母ちゃんが柚季さんを殺しにかかる。
「女子会しちゃう?」
恋乃実がたまらず、柚季さんに話しかけると彼女はのぼせたような顔になった。
「流石にマズいです!!大好きな推しと寝るなんて、できません!!」
「女の子どうしだし大丈夫だよ~?」
恋乃実の顔がちょっと照れてる。可愛い。
「いや、ほんっ!!うっ!!……ほんとうにまずい!!!」
焦った柚季さんが舌を噛んだ。可愛い。
確かに、雪さんとコノミを同じ部屋に寝かせるわけにもいかない。
明日の朝、
「じゃあ、やっぱりおにぃの部屋に布団敷いてあげるべきだよ、お母さん!」
「そうねぇ。彼女さんなんだし、一緒に寝たいわよねぇ?」
えっ――
どうして、こうなった!!??
彼女になった柚季さんと一つ屋根の下――
初日から突然、一部屋で夜を明かすことになった。
どうなる、俺ぇ!!??
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