2曲目 二つ目のお約束ごと
二つ目のお約束――
必要以上に自分たちが「コノミの家族や関係者であると口外しない」こと。
これは妹のアイドル活動そのものに悪影響が出ると思った俺が勝手に決めた自分ルール。
余程、ルールを熱弁した時の俺の顔が怖かったのか、父さんやおっとりした母ちゃんにまでもこのルールは波及して今や家族ルール化した。
兄としても鼻が高いが、先日あの
葡萄館といえば、アイドルの目標。到達地点。
妹を中心にKARENが中央円形ステージで歌い、踊り狂う様――
壮観!絶景!大喝采!だった。
どこかで聞いたリズムなら、クスリと笑ってほしいところだ。
さすがに調子に乗り過ぎた。この程度にしておく……ごめん。
俺が叫ぶと同時に会場内は、ファン仲間たちや自分の推し色を纏った見知らぬファン、カップル、友達連れ達までが、サイリウムを振りまわしていた。
素晴らしきこの世界な光景を今でも鮮明に思い出すことができる。
俺を葡萄館に連れてきてくれた妹には感謝したい。
真夏の高校球児はたまた、子牛園かよって言うツッコミはやめてくれ。
ありきたりで、恥ずかしいから……。
余談だ。
兄の
――いや、半分くらい赤色かもしれない。
他のメンバーカラーに比べて、サイリウムの赤色が、発色がいいからそう見えるのかもしれないし、本当に妹を溺愛しているから、俺に幻が見えているのかもしれない。
今度、妹のことを知らない遠めの友達をそれとなくライブに誘って、聞いてみることにする。どの色が一番多い?って。
その時までは、妹がグループ内人気ナンバーワン!ということにしておいてくれると助かる。
話が逸れたが二番目のルールについて詳細だ。
まさか、ファン仲間の間でも熱狂的なファンである俺が、「コノミを妹に持つ兄」とほかのヲタクにバレると非常にまずい!!!!
めっちゃ妹好きじゃん!とかシスコンかよ!とかで馬鹿にされるならまだいい……。
他のヲタクにバレて、今の俺個人の交友や、他のヲタクとの楽しい関係性にヒビが入ってしまったり、余計な
現場で気の合う、いい意味でヤバいやつらを減らしたくないし、何より俺のせいでコノミのファンを減らしたくない。
妹は明日、
さっき、妹は純真無垢な笑顔とともに感謝を忘れず「ありがたい!」と言ってた。
人間がデキている。
なので、さっきからキャリーケースに詰めに詰めている荷物の大半は、練習着と休憩時間に食べるおやつセットらしい。
「可愛い」かよ……。
マジ勘弁してくれ、俺の推し……。
”KAREN”で明日、ファンに初披露する新曲があるそうで、本番前に念入りに練習するため、練習着は三着らしい。さっき、晩飯の時に教えてくれた。
「可愛いは正義」とか「媚び売ってます」とか「酒は我がガソリン!」とかプリントされてるヘンテコなTシャツだ。
私汗っかきだしね~って笑う妹。大丈夫だ、妹よ……。
トップアイドルの妹よ――
君の汗の匂いはきっとフローラル――
兄貴より先にヲタクが出る。
もう一回謝る、すまん。度が過ぎてキモかったのは自覚がある。
……。
……って、ちょっと待て、妹よ。
晩飯の時は笑顔に騙されていたが――
俺もファンの一人だ。
新曲が出るなんて、まだ、微塵も聞いてないぞ!!??
噂すらないし、この前ニューアルバム出したばっかりじゃん!
KARENまとめサイトのSさんだって、情報更新してないスーパー最新情報だ。
嬉しいけど!!!
今夜眠れなくなりそうだけどっ!!!!!
きっと、いつもの「まだ喋っちゃいけない情報」だよ、それ!
最新情報解禁は今じゃないし……家じゃないし……晩飯の時じゃないし――
まして兄の前じゃない。
「ファンの前、ステージ上で」が最速解禁であってほしい。
まあ、俺もファンだけど。
落ち着いてきた妹の準備を横目に、就寝の準備を俺は始める。
夜更かしは美の大敵だぞ?って恋乃実をいじってやりたかったが、妹は真剣な表情で身体のストレッチを始めた。
これは、邪魔してはいけないやつだ――
空気を読んで、アイドルのプロ意識を心の中で拝んでおく。
俺は自室に戻り明日のファンクラブイベントに向けて携行品を確認して床に就く。
きっと目が覚めると、先に家を出発してるんだろ?
今のうちに言っておく――
明日も頑張れ。
いつも応援してるぞ――
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