第22話 静かな怒り
アティナ様が急に私を置いてきぼりにした時は、一体何事かと思った。
私、捨てられた!? って嫌な考えが頭を過ぎったけど……アティナ様に限ってそんなはずないって言い聞かせて、すぐに後を追うことに。
冷静に考えれば、同じように置いてきぼりにされたメイドさんに話を聞くべきだったかもしれないけど、コミュ障の私にそんな選択肢が取れるわけがない。
「アティナ様!!」
「っ……!! メアリア……」
というわけで、ちょっとばかり魔法を使って足を早め、アティナ様に追い付いた。
今はあなたと話してる場合じゃないの!! なんて言われたら、その場で平伏して一夜を過ごそうかと思ってたけど……幸いにして、そんなことにはならなかった。
むしろ、アティナ様は自分の行動を省みてハッとなったのか、申し訳なさそうに足を止める。
「ごめんなさい、急に……」
「その……一体、何があったんですか?」
私が問い掛けると、アティナ様は少しずつ事情を話してくれた。
……正直、無関係の私ですら、耳を覆いたくなるような内容だ。
インラオン連合国との小競り合い。
いつもより激しいその衝突の後始末のため、屋敷を出発したサンフラウ公爵と夫人両名が魔物に襲われて死亡。
しかも、時を同じくして魔物の大量発生が西方一帯で起きて、町に大きな被害が出てる。
だというのに……ここで先頭に立って西部を纏めないといけない立場の臨時当主が、サンフラウ家の責任を追及してアティナ様の弟を捕縛したという。
どう考えても、今はそんなことをしている場合じゃないのに。
こんなの、ほとんどクーデターだよ。
……いや、もしかして……本当に……?
「だから、私……早く、サンフラウ領に帰らないといけないの!! このままじゃ、カリルが……街が……!!」
堪えきれなくなったのか、アティナ様が泣き崩れる。
……普通の馬車で、今からサンフラウ領まで向かうとなれば五日近くかかってしまう。
軍用の魔導馬なら飛ばせば一日で辿り着けるけど、あの馬は王族以外だと騎士団しか持っていないし、そもそも素人が乗りこなせるようなものじゃない。
それが分かっていて、でも一刻も早く帰らないと取り返しがつかないことになりそうで……どうしようもない現実に打ちのめされて、パニックになってるんだ。
「アティナ様、落ち着いてください。すぐに……今日中にサンフラウ領へ向かう方法に、心当たりがあります」
「今日中に……!? ほ、本当なの!?」
「はい。ルルーナ様に、何とか相談してみますので……ひとまず、アティナ様は学園に休学届けを。話が纏まったら、ご連絡します」
「分かったわ。……ありがとう、メアリア」
感極まった様子で一度私を抱き締めると、学園に向かって駆け出していくアティナ様。
それを見送った私は、すぐに人目につかない路地裏へ向かい……懐から、魔道具を取り出した。
遠く離れた場所だろうと、対になる同じ魔道具を持った人と会話が出来る、通信魔道具だ。
“緊急通信”を示す合図をまず送り、遮音結界を張って返信を待っていると……さほど間も置かず、声が聞こえて来た。
『やあ、メアリア。君から連絡してくれて嬉しいよ……と言いたいところだけど、そんなことを言っている場合でもなさそうだね』
「もしかして、ルルーナ様も、サンフラウ領のことを既に把握しておられますか?」
『もちろんだ。こちらでも、大問題になっているよ。……そうだね、整理のためにも、少し腰を据えて話そうか』
ひと呼吸置いてから、ルルーナ様が語り出した現状は、私がアティナ様から聞かされたものとほぼ変わらなかった。
ただ……そこに王家の視点が加わると、状況は更に厄介なことを嫌でも分からされる。
『サンフラウ家の当主が亡くなられ、領内にも大きな被害が出ている。となれば当然、王家としてもすぐさま支援するのが道理というものだが……代理当主となったラットンは、これを拒否したんだ』
「拒否!? な、なんで……どうしてですか!?」
『一応、表向きの理由としては……状況の把握が正確に出来ていないまま、無理に中央の支援を受け入れたとしても、更なる混乱を呼び起こすだけであり、それを防ぐためにもある程度落ち着くまで待って欲しい、とのことだ』
しかし、とルルーナ様は真剣な声色で続ける。
『あくまで予想だが……僕はこれが、インラオン連合国が進駐するための時間稼ぎではないかと考えている』
「進駐……!? この混乱に乗じて、侵略しに来るってことですか!? しかもそれを……公爵家の代理当主が手引きしていると!?」
『君が考えているほど、過激なことにはならないだろう。あくまで人道支援の名の下に、連合国の兵士達が西部地域に展開するだけだ』
王国の支援がない中で、インラオン連合国の兵士達が魔物に襲撃された町や村を訪れ、救援作業に入る。
当然、そこの人達は何もしてくれない王国よりも、連合国に対する心象が良くなるだろう……ということらしい。
虐殺とか、そういうことが起きる可能性は低いと言われて、私はホッと胸を撫で下ろす。
『そこで、ルミア・アーカディアの負傷も、実は王家の陰謀だ……などという噂が流れれば、もはや評価は完全に逆転するだろうね。代理当主のラットンが連合国に歩み寄れば、もはや僕達王家にも何も出来ない。西部地域一帯は、そのほとんどが連合国の手に堕ちるだろう』
「まさか……その“歩み寄り”の証に、アティナ様の弟の首を差し出すつもり、なんてことは……ありませんよね……?」
『……既に捕まっているのかい? だとすれば、間違いなくそれが狙いだろうね。民衆の前でサンフラウ家の直系の首を落とすことで、完全に王国と決別する腹積もりだろう』
どうやら、弟さんのことは王家もまだ把握していなかったみたい。
私の口ぶりからそこまで察してみせたルルーナ様は、いともあっさりと最悪の未来を想像してみせた。
あまりにも酷い展開に、私は歯を食い縛る。
「いくら大きな被害が出たからって、そんなこと許されるんですか!? 領主の直系だとしても……弟さんは、何も悪いことはしてないんですよ!?」
さっき目にしたアティナ様の泣き顔が、頭の中に鮮明に浮かび上がる。
アティナ様の両親が亡くなられて、魔物まで出現して、領内がめちゃくちゃで……そんなにも大変な時にまで、政治の争いだなんて。
今はそんなことより、苦しんでいる人達を助けるのが先決なんじゃないの!?
『君の言いたいことは分かる。王家としても、この状況を座して見ているつもりはないが……無理やりにでも介入するには、大義名分が必要だ』
「大義、名分……?」
『たとえば……代理当主のラットンが、連合国と通じて今回の一連の事件全てを主導した証拠、とかだね。それがあれば、国家反逆罪の調査を名目に動けるだろう』
当たり前のように語るルルーナ様に、私は言葉を失った。
“一連の事件全てを主導した”って……じゃあ、アティナ様の両親を殺したのも、西部地域をめちゃくちゃにした魔物被害も、全部その、ラットンっていう男が……?
『とにかく、まずは現地に行かなくては始まらない。……こうして連絡してきた以上、君も“仮面の魔女”として動くつもりなのだろう? 一時間後、寮にある君の部屋で待ち合わせよう、いいかな?』
「……はい。待っていますね」
通信が切れたのを確認した私は、それを懐に仕舞い込む。
……私の実家、アースランド家は、一応西方貴族ということになっているけど、地理的にはかなり中央寄りだ。だから、インラオン連合国との争いや、併合の是非について語る資格はあまりない。
だけど、もし本当に……その男が、全てを承知した上でアティナ様の両親を殺して、西部地域の人々を傷付けたんだとしたら。
「私は……絶対に許さない」
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