単に禍々しいばかりではない、二重三重の人間の闇を描いた、
秀逸な作品。
あとあじは良いはずもないのに、読後に残るこの静謐な、
まるで、暗闇のエンドロールを眺めるような気持ちは何なのだろう。
狂気は、誰にでも眠っていると、実際にある学者は説明している。
私たちはただ単に、きっかけに出会わなかっただけであり、
これも偶然に、まだその毒牙にかかっていないだけなのかもしれない。
潜在する意識に恐怖しながらも、その恐怖がどこか遠い。
これは、この歪でいて純血のごとく滴るこの物語に対する、
私たちの防衛本能なのかもしれない。
その危険を、ぜひ味わっていただきたい。