アウトレイジ・ファストフード
ちびまるフォイ
第三勢力の台頭
「それではマクド組とケンタ会。
兄弟の
シェイクの盃を飲み干しお願いします」
紅と黄の幕が貼られた会場。
指定暴力団マクド組と、指定暴力団ケンタ会。
その両ボスがシェイクをひと飲みして兄弟関係となった。
「みなさま、これからは兄弟として協力してまいりましょう」
かくして、ファストフード二大勢力の組同士が連合となった。
はずだった。
「兄貴! 兄貴ィ!」
「いったいどうした弟ぶん。
こちとらスマイルの提供で忙しいんじゃ」
「ケンタ会の若い奴らが……うちのシマでクーポン配りやがった!」
「なにぃ!?」
若い衆の手にはなんとチキンバーレル半額のクーポン。
こんなの渡されたら誰もマクド組の店に来なくなる。
「盃かわして停戦協定したってのに、舐め腐りよって……!」
「兄貴。どうするんです?」
「チャカ持てこい! 目にもの見せてやる!」
二人の若い衆は腰に28口径のポテトをぶら下げて殴り込んだ。
「なんじゃコラァ!」
「てめぇ、こっちのシマでクーポンさばいてんじゃねぇぞ!」
「そっちこそ、ことわりもなくドライブスルーはじめよって!」
「お客様の笑顔が第一なんじゃボケェ!!」
第一次大抗争の果てに兄弟の契りを交わしたはずだった。
しかし両陣営に根深い憎悪感情が消えることはなく。
第二次大抗争がはじまってしまった。
「兄貴、ケンタ会のやつブッつぶしてやりましょう」
「もちろんだ。アイツらこの街から追い出してやる」
「でもどうすれば?」
「おい、ちょっと耳をかせ」
「へい」
「ごにょごにょにょ」
「あ、兄貴! それ本気なんですか!?
そんなことしたらっ……!!」
「真っ当な勝負なんかやってる状況じゃねぇんだよ」
マクド組は禁じ手に打って出た。
厨房は大パニック。
「ぴ、ピクルス抜きオーダーを受けるって本当ですか!?」
「おう。抜いたピクルスは、ピクルス好きの客に入れてやるんだ」
「そんなことしたら……、ますます客が依存状態に!!」
「それだけじゃねぇ」
「えっ!?」
「コレでガキを中毒にさせんだよ」
「それは……おもちゃつきのハッピーセット!?」
「そう。これでガキを夢中にさせちまえ。
大人はガキの奴隷だ。家族ともどもハッピー沼に沈めちまうんだよ」
「こんなことしたらケンタ会が黙ってませんよ」
「好きにさせろ。もうこれは抗争だ。どんな手も使う」
マクド組はけして手を抜かず営業努力を重ねた。
さらには「受け子」を導入し、各家庭へフードデリバリーも始めた。
「わははは! 売上倍増じゃ! ケンタ会の奴らも破滅だ!!」
作戦は大成功で店舗の売上はうなぎのぼり。
けれど刺客は予想だにしない方向から現れた。
「兄貴!」
「どうした若いの」
「ニュース見てないんですか!?」
「はあ? ニュース?」
テレビでは繰り返し同じような報道が続けられていた。
なんと仕入先のお肉の工場が、動物インフルで休業中とのこと。
「なっ……なんてことだ。これじゃ美味しいバーガー届けらんねぇ」
「どの店舗もこのままじゃ赤字垂れ流しです。ケンタ会につぶされますよ」
「んなことさせるか。この街のスマイルはうちが独占するんじゃ。
おいいくぞ。営業できなくても、向こうの店舗は邪魔できる」
「嫌がらせしに行くんすね!」
どんな営業妨害してやろうかとケンタ会の事務所へ行った。
ただそっちもそっち閑古鳥がカラッと揚げられていた。
「兄貴、ぜんぜん客がいないっすね」
「どういうことだ……?」
いぶかしんだ二人は事務所に乱入。
ケンタ会の会長は一瞬驚いただけだった
「なんだマクド組か」
「てめぇなんだこのすっからかん具合は?
勝手にうちのシマでクーポン配布してたじゃねぇか」
「仕入先が政局不安で、スパイス届かなくなっちまったんだよ」
「なんだと?」
「いくらチキンがあっても、スパイスがなくちゃ作れない。
あの味付けじゃなくちゃお客様は納得しないんだよ」
「……」
「で、お前らは何しにきたんだ? 嫌がらせか?
嫌がらせする必要もないくらい、こっちはピンチなんだよ」
「うちも、実は肉の仕入先が病気のまん延で商売あがったりなんだ」
「ああそうかい」
「……」
お互いなにか言いたげにもじもじしている。
見かねた若い衆が割って入った。
「ああもう、じれったい!
腹ン中になにかためてるなら話してください!
相手が察するのを待つのはイライラします!!」
「「 じゃあ…… 」」
マクド組とケンタ会はおそるおそる話し始めた。
「ケンタ会。あんた肉はあるんだよな……?」
「ああ。実は同じこと考えていた」
「さっそくウチの事務所で商品開発じゃ!」
新商品が店頭に並んだのはすぐだった。
新しいバーガーは肉厚なパティと改良されたソースが大人気。
「いらっしゃいませ!
ご注文はケンタ・チキンバーガーですね!
かしこまりました!!」
ケンタ会の仕入れたチキンを挟んだバーガーは話題となり、
マクド組とケンタ会の両方に華を持たせる架け橋となった。
そして今。
第二次抗争を終えて盃を再び交わす。
「え~~。これまでお互いに何かとございましたが
清濁併せのむ覚悟で今一度、兄弟の盃を交わしましょう」
大きな盃にシェイクがとぐろ巻いて盛られる。
ふたりのボスはいっきに飲み干してしっかりお腹を冷やした。
「よこざんすね。よこざんすね?
盃を交わした二人はこれからは兄弟として、
手を取り合って頑張っていきましょう」
兄弟の契りを交わしたときだった。
会場のふすまが開かれ、おしゃれな別の会長がやってきた。
「あらあら。マクド組にケンタ会。
お二人がみっともらしく傷なめあう様を見に来たんどす。
でもちょっと遅かったようですね」
「なんだてめぇは!?」
「どこから入ってきやがった!」
「ほっほっほ。威勢だけは認めます。
うちもこのシマでの出店決まったから、
まあ挨拶でもと思ったんどす」
「なんだと!?」
「いつまでも油に頼った経営じゃうちには勝てまへんで。
まあ、今後ともよろしゅう」
はんなりと笑って去っていった。
会場はシンと静まりかえった。
「あ、兄貴いまの人は……?」
「お前ぇは若いからまだ知らねぇのか」
兄貴分は冷や汗をぬぐって答えた。
「ありゃ、指定暴力団ミスド連合じゃ。派手な戦いがはじまるぜ……」
そして、第3時抗争につづく
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