第16話 組み分け会
「全く、冷や冷やさせおってからに」
「不戦敗なんぞ初めて聞いたぞい」
「だから流浪者なんぞに任せるのは反対だったんじゃわい」
ネズミのくせに顎鬚を蓄えた爺ちゃんネズミたちがわいのわいのと文句を言ってくる。
「長老方、流浪者ショー、組み分け会が始まります」
「あ、じゃあ行きます」
下流種族の戦いで一位になった鼠族は次に中流種族の地位をかけて上位種族との本戦に挑むことになる。上位14位までの種族と各グループで一位になった鼠族と土竜族が合流しての本戦だ。ここからは上位勢と対戦することになる。
「なんじゃ、まだ話は終わっとらんわい!」
「人の話は最後まで聞くもんじゃぞい!」
「だから流浪者なんぞに……」
ちなみに、俺はサフラとの戦闘を終えてからずっとこの調子で髭ネズミたちにウザ絡みをされている。本当ならこういう時に精神的にも物理的にも盾になってくれるのがマダランなのだが、今は髭ネズミたちの向こう側でヘソ天でイビキをかいている。あの疾走で相当に疲れたらしい。
俺はグチグチ言い続ける髭ネズミをおいて案内係のネズミについていく。途中、様々な種族を見かけたが、敗退した下流種族の姿はもう見えなかった。どこかに隠れているのかもしれない。
「今回の22位は兎族となりました。なので兎族の都の兎谷は明日取り潰されることになってます」
俺の様子で察したのか、案内ネズミが下位戦の結果を教えてくれる。
「本来、外界族の助けを得た蝙蝠族は本戦に出場して中流の地位を得るはずでしたが、今回は17位となり下流種族となっています」
サフラを負かした俺のせいだという事はわかってる。蝙蝠族には悪いことをしたという思いも過るが、サフラと企んで俺を砂漠に置き去りにしたのだから、これくらいは受け入れてもらうしかない。
案内ネズミからその他の下位戦の結果を聞きながら会場に向かう。
今回の順位は22位兎族、21位狸族、20位狐族、19位蜥蜴族、18位鳥族、17位蝙蝠族となった。これに本戦で最も負けた下位二種族が今世代の下流種族となる。
土竜族に関しては未だに何も起きていない。禁忌を犯したことには全く触れられていないようだ。
「こちらでお待ちください」
仕切りネズミに連れられて玉座の孤島に到着する。
玉座の横には王杖の返還式を仕切った黒服のゴリラが腕を組んで立っている。周りをサッと見ると、既にほとんどの種族が揃っているようだ。
「時間だ。それではこれより代表戦本戦の組み分け会を行う」
黒服ゴリラはそう言って胸を激しくドラミングする。すると、ゴリラの大猩猩族が一斉にドラミングを始める。
「……重い音だな」
その胸を叩く重苦しい音が、俺にはこれから始まる激闘を暗示するファンファーレのように聞こえた。
…
「では、第1位獅子族から」
軍服姿の獅子族から先の白ライオンが玉座の前に進み出る。
玉座の前には小さな枝が数本置いてあり、そのうち1本だけに葉がたくさんついている。残りは枝だけだ。
白ライオンはその葉のついた枝から葉を一枚ちぎり取る。すると、そのちぎり取られた葉が光を放ち、白ライオンの手を離れて空中へと舞い上がった。
ヒラヒラと落ちてくる輝く葉。下まで落ちて来ると最後にヒラリと揺れ、並んでいる枝の1本にくっついた。
「獅子族、第三組!」
黒服ゴリラが叫ぶ。
「次、第2位蛇族」
ゴリラが蛇族の名を出すと、会場が俄かに殺気立つ。どうやら前回騙し討ちしたらしい蛇族は相当な怒りを買っているらしい。
蛇族から出てきた真っ黒なヘビのちぎった葉が光を放つ。そして舞い上がりヒラヒラ落ちてきて枝にくっつく。
「蛇族、第一組! 続いて第3位河馬族」
大きな体にその体程大きな顔を持つ河馬族から赤い体に斑点のある個体がのっしのっしと前に進み出る。その巨大な口先を器用に使って一枚の葉をちぎると、同じように輝いた葉が小枝にくっつく。
「河馬族、第三組!」
河馬族が獅子族と同じ第三組に入ったことで、すべての種族からどよめきが起きる。蛇族がイカサマして2位なら本来の2位は河馬族。実質1位と2位がいきなり同じ組になったということを考えると、このどよめきも当然なのだろう。
「次、第4位象族」
河馬族より二回り大きな体、マダランよりも大きいかもしれない象族の中から耳がやたらとデカい像が進み出る。そして鼻で葉をちぎるとヒラヒラ小枝にくっつく。
「ぞ、象族、第三組!」
ゴリラの発声と同時に会場が静まり返る。実質一位から三位までが同組になった。つまりこれは、この三種族のうち一種族は上流を落ちることを意味する。会場が静まり返るのも当然と言える。
「次、第5位犀族」
河馬族程の大きさだが、その鼻先に巨大な角を持ち、体に鎧のような皮膚を持つ犀族から大小二本の角を持つ個体が進み出て葉をちぎる。するとその葉が宙を舞い枝に付く。その瞬間に会場がざわめき始める。
「さ、犀族、第三組!」
ざわめきがどよめきにそして歓声に変わっていく。歓声はこれまで呼ばれなかった種族からだ。前回の実質1位から4位までが同じ組で戦うことになった。それはつまり、それ以外の種族の上流入りの可能性が飛躍的に高まったという事だ。
「つ、次、第6位熊族」
どよめきと歓声が冷めないうちに片腕が赤色の毛に覆われた熊が前に進み出る。爪でひっかくようにして切りとった葉がヒラヒラと舞う。
「熊族、第二組!」
そうして落ち着かない空気の中、最後の鼠族まで順番が回って来た。
だが、最後の一枚となった葉。それがどこに行くのかは誰もが分かっている。俺は冷めた気持ちで葉をちぎり、空中へ舞い上がろうとする葉から手を放した。
「鼠族、第一組!」
鼠族からはため息が漏れ、蛇族からは笑う声が聞こえてきた。
…
「な、な、なんということじゃ、まさか蛇族と猫族と土竜族と同じ組とは」
「くじ運が悪いにも程があるぞい!」
「土竜も蛇も猫も鼠族を好んで食す種族ばかりじゃわい!!」
鼠族の元に戻ると顎髭トリオがやかましくせっついてくる。だが、これは俺のくじ運ではない。俺は最後の残り物をちぎっただけだ。それに本当にくじ運がなかったのは第三組に入った奴らだろう。実質上位4種族が予選で削り合うのだ。こっちよりよっぽど頭を抱えているだろう。
「蛇族は殺されかけたんで少しはわかるんですけど、猫族ってどんな種族なんですか?」
「ね、猫族は、我らをおもちゃ代わりにして最後には食らうという獣の風上にもおけぬ奴らじゃ」
「あやつらは我らを食べられるおもちゃくらいにしか見ておらんぞい」
「食前運動と食事の一度に二度おいしいお得な種族じゃわい」
顎鬚トリオがそれぞれに話してくるが、参考にできる情報が何も出てこない。
「ふわああああああああ」
そんな中、マダランが咆哮のようなただの欠伸を放ちつつ目を覚ました。
「ああ、よく寝たあ。あ、ショー、どうだった? 間に合ったかあ?」
起きて直ぐ俺を発見したマダランが目を丸くして聞いてくる。そうだよな、マダランはずっと寝てたもんな。
「ああ、マダランのお陰でギリギリ間に合ったよ。で、勿論勝った。これから本戦に入るところだ」
「ああ、そうかあ、よかったあ。あの外界族はなにか怪しかったんだあ。鼻先がチリチリしてたからあ。蝙蝠族とは関係ない方角からショーを連れずに蝙蝠たちとやって来たから絶対にショーに何かしたんだと思って」
そうか、マダランはそれで来てくれたのか。こんな巨体で勘がいいんだな。確かマダランの事、変異者って言ってたっけな、サフラの奴。
「で、マダラン。俺たちの組に蛇族と猫族と土竜族がいるんだ。猫族について何か知っていたら教えてくれ」
「えええ、なんだその組、蛇族が突出してるじゃないかあ。変な組み合わせだあ」
マダランがギョッとした顔で見てくる。そうか、確かに順位だけ見れば鼠族も土竜族も下流種族、猫族は12位。16種族中16位、15位、12位と2位の組み合わせは確かに変だ。組み分け方法が不思議だったことと第三組の異常さに気を取られて自分の組の異常さにまったく気づいていなかった。
「でも、光る葉っぱが決めたからな。誰かが仕組んだって訳でもないだろ?」
「あの光る葉っぱだろう? 前回の時にネザンがきな臭いって言ってたぞお」
「きな臭い? あのネザンがそう言ったのか?」
「ああ、組み分けの場を見ながらそう言ってた。なにか変な気の流れを感じたって」
「気の流れ?」
「ああ、ツボを押すと体が良くなるのはその気の流れを良くするかららしいぞお」
気の流れか。気功とかそんな感じのものなのか。
「でも、22種族には気の流れをどうにかするような種族はいないって。ネザンも小さい頃に鼠族の助っ人に入った外界族から教えてもらっただけみたいだからなあ」
「外界族から? サフラみたいな齧歯族か?」
「いや、あんなのじゃない。ネザンは飛べなくなった鳥って言ってた」
「飛べなくなった鳥?」
ダチョウとペンギンしか思い浮かばんぞ。
「ああ、ネザンも一緒につれてくればよかったなあ」
「いや、あの状態で連れて来るのは鬼だと思うぞ」
マダランはわざとなのか天然なのかが分からん時があるな。しかし、気になる。ダチョウかペンギンに気功がどう関係しているんだ?
「ショーさん、猫族との本戦始まります!」
案内ネズミが勢いよく俺を呼びに来た。
「じゃあ、ショー、話の続きは猫族戦の後で」
「……ああ」
……しまった。飛べない鳥と気功の話に夢中になってしまった。
こうして猫族の情報を顎鬚トリオからしか聞けないまま、俺は猫族との本戦の為に戦闘場に向かうのだった。
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