太陽ノ國—エピソード00—
ゆきだるま会長
=兆し=
ピッ…ピッ…ピッ…
天体広域観測用PCから静かに機械音が響いている。
「…なんということだ!」
突然白衣の男性が静寂を破った。
川崎は淹れたてのエスプレッソが白衣を汚したことにも気付かない。
ただ、モニターを睨みつけている。
色黒の恰幅の良い男性が目を丸くする。汗をかいたコーラを持つ手から水がしたたっていた。
「落ち着けよカワサキ。俺のコーラまでこぼすつもりか?」
男性はさも驚いたというように大袈裟に肩をすくめながら白い歯を見せて笑う。
「ああ、なら俺は研究所中のコーラを弁償しなきゃならないな。俺のPCを見てみろウィル。」
PCの画面の前で手を強く握りしめたまま答えた。
ウィルと呼ばれた恰幅の良い男性は
椅子ごとこちらに体を向け、川崎のデスクのビスケットに手を伸ばす。
だが、ビスケットが口に入ることはなかった。
「…今日はエイプリルフールじゃないぞカワサキ。」
ウィルの頬をゆっくりと流れた汗がキーボードの上で跳ねた。
画面に映し出されていたのは——
赤い光点。
そしてそれが描く軌道は真っ直ぐに地球を貫いていた。
無機質な音がカウントダウンのように不気味に響いている。
川崎は眉間に皺を寄せ、
絞り出すように声を出した。
「見つけてしまった、な。」
息ができない。
まるで大気が凍りついてしまったようだ。
デスクの上の家族写真を手に取り眺めると、悔しさに顔が歪む。
娘の入学式から二年…。
誕生日の電話すら出られなかった。
救いを求めるようなウィルの視線が、氷の刃のように川崎の胸に沈み込む。
写真を伏せて勢いよく立ち上がると、
彼の椅子は大きな音を立てて倒れた。
「各所に連絡だ!!急げ!!」
研究室のドアが壁にぶつかり、金属音が廊下に響く。
それは、第五のラッパのように感じられた。
聞き終わるかどうかのうちにウィルも立ち上がり、研究室の時代遅れの電話機のナンバーを震える指で叩く。
同時に館内に警報が鳴り響いた——
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