昼休憩とストロー

南條 綾

昼休憩とストロー

 チャイムの余韻が、まだ机の中で震えている。

彼女は窓の欄にもたれて、紙パックのストローをくわえた。

目が合う。すぐ外す。喉が、ひとつ鳴った。


「飲む?」

首を横に振ると、彼女は笑って、ストローをこちらに向けた。


 触れない距離。

机の角が冷たい。息を吸って、吐いた。それだけで胸が忙しい。


 窓の外、風が旗を揺らす音。

返事の代わりに、私はストローの影だけを指でなぞる。


 彼女の笑みが、午後の光に溶けていく。

ストローの先が、わずかに濡れて揺れる。

私の指が影をなぞるたび、

それは彼女の唇の輪郭を、そっと借景のように描き出す。


「触ってみなよ」

耳元で囁くみたいな、低い声。


 窓ガラスに映る私たちの影が、重なる。

旗の音が、遠くで波のように寄せては返している。


 私は息を止めて、指を伸ばす。

触れるか、触れないか。

その狭間で、心臓が彼女の鼓動を予感する。


 ストローが、私の唇に届く。

甘酸っぱい、彼女の味。


 目が合う。今度は、外さない。

教室の空気が、二人だけの秘密で満ちていく。


 外の風が静かに止む。

チャイムの余韻がようやく机の中に沈むころ、

私たちはただ、互いの温もりを指先で確かめ合う。

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昼休憩とストロー 南條 綾 @Aya_Nanjo

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