第6話 少年の心はいつまでも

 連れてこられたのは、白を基調とした落ち着いた部屋。机や本棚があるところ見ると、書斎のようなところか。並べられた本は子供向けのものが多いから、僕を拉致したこの子の部屋かもしれない。


「これをやってみろ。王は賢くなければいけないからな。これは少しお前には難易度が高いかもしれない」


 机にあった一冊の問題集らしき本を渡される。それ、学校の宿題ですよね。君がやるべきものでは?


「何だ。やっぱりできないのか。大したことないな」ふふん、と鼻で笑われる。あのね、僕は大人なので、そんな安い挑発には乗りませんよ? でも、幼馴染のところに戻るには、これをクリアにないといけないのかな?


「じゃあ…」ため息ともともに、僕はノートを受け取る。まあ、計算は割と得意なんで解けると思うよ。


 10分ほどして解いた問題を見せると、オウマは「う…全問正解だ…やるな…」と悔しそうに顔を歪めた。うん、まあ、僕、大人だしね?


「ならば、これはどうだ」


 オウマの前に靄の塊みたいな物が現れる。彼は、その中に魔石を放り込み、何かを形作り始めた。


「王は、自分を守る使い魔を自分で創る。人間に恐れられるように、かっこよくないといけない」


 ちょっと言ってることがよくわからない。けど、へー、使い魔ってそうやって生まれるんだ。魔物とどう違うのかな? なんて、僕は靄の塊を指先でつついてみる。何か粘土みたいだな。触っても靄に汚染されることはなさそうだ。


 僕は思い切って靄の塊を捏ね始めた。わ、子供のころに戻ったみたいで、ちょっと楽しいかも。どうせ作るなら、やっぱりドラゴンかな。鼻歌を歌いながら、ドラゴンの形を作る。


「すげー、かっけー…」


 いつの間にかオウマは自分の制作をやめて、キラキラした目で僕の作るドラゴンを見ている。やっぱり男の子だね、こういうの憧れるよね。わかるよ。うん、我ながらいい出来だ。


 そういえば、これ、どうやって動かすんだろ。魔力でも与えればいいのかな? 思いつくまま、僕はドラゴンに自分の魔力を注いだ。するとゆっくりとドラゴンが動き出した。頭を持ち上げて僕を見ると、頭を擦り付けてくる。なにこれ、可愛い!


「ずるい…羨ましすぎる…」


 あ、オウマ、いじけちゃった? しょうがないな、もう一体作ってあげよう。僕は同じようにもう一体作って、彼に魔力を注がせた。すると、ドラゴンは彼を見て、頭を擦り付ける。


「…‼」


 オウマの顔が満面の笑顔になった。


「お前、凄いな。どうしたらそんなに器用なことができるんだ?」

「うーん、とりあえず、いろいろ試してみることかな?」


 僕だって、はじめから何でもできたわけじゃないからね。たくさん失敗もしたよ。その度に、次は失敗しないように、いろいろな人の方法を見て、自分にできる方法を見つけていった感じかな。だから、はじめから上手くやろうなんて思わないで、いろいろ試せばいいんだと思うよ。


「なるほど! 完敗だ! お前を俺の伴侶にしよう!」


 おう、突然何を言い出すのかな? まだまだ子供だね、伴侶の意味とか分かってないでしょう。


「よし! そうと決まればお祖母様に報告しなくては! ほら、一緒に来い!」


 腕を掴まれて飛び出すと、王様に謁見するような広い場所に出た。

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