最期の恋愛事情
青芭 伊鶴
プロローグ
私とあなたが出会ったから、
最期の最後に、最高の恋をすることができた。
夢でもいい。女としての喜びを――
ずっと我慢してきた気持ちを吐き出せる相手を――
若いころから探し続けて、
ようやく見つけた。
親からの虐待なんか吹っ飛ぶほどの――
一生分の幸福をもらえたのだ。
幸せすぎるなって思う、今も昔もそうだ。
今思えば、遠くの記憶に消えてしまった結婚生活。
誰かと一緒になることを望んでも叶わず、
トラウマだけが先行した結果……。
なんでも理由をつけて
人を傷つけるようになってしまった。
迷惑な婆さんだと思う。
でも、私は苦しんでいた。当時からずっとね。
社会人になってから
メンタルクリニックに通うようになって、
もう既に数十年と時が経っている。
体調は治ってきたのに、
心にぽっかりと穴が開いたような感覚に
慣れずに過ごしていた。
そもそも慣れるような症状でもないんだけど……、
グレーゾーンの障害を抱えてきたせいで
私自身を理解してくれる人は、
圧倒的に少なかった。
むしろ『いない』と言った方が
正しいのかもしれない。
そのたびに、脳内にチラつく両親の奇行や言動。
周りに助けを求めて、詳しく話したって
他人からは『親に愛されてる』の一言のみを返された。
どう考えても、外面の良い親のせいとしか思えなかった。
両親に説明した時だって
「私のせいって言いたいの?」って母が言い返してきたから、
私が反論せずにいれば、
「お母さんがいなかったら、
お前が生まれてくることもなかったんだぞ!」
と父に怒鳴られてしまった。
確かにそうなんだろうけど、
生まれるとか生まれない以前の問題を話してる。
なのに、話を聞いてもらえなかった。
とても――悲しかった。
そういう過去を抱えていたから、
夢の中で会った彼と過去についてたくさん話した。
以前から知っていたかのような安心感の中、彼は言った。
「俺は君が頑張っているのは分かってた。
でも俺自身が助けになれなかったのも事実で……
本当にすまなかった。
お父さん、お母さんのこと、今も憎んでいる?」
「うん。許さないと思う、多分ずっとね」
「そっか」
ただただ二人並んで、空を眺めていた。
過去を話すのは苦しいけど、
何も言わず認めてくれるのは本当に嬉しいこと。
彼が実際にどう思っているのかを知りたかったけど、
本当の意味では必要ないのかもしれない。
本物の愛は、言葉以外で伝わるものなのだから。
いや、言葉はどうしても必要なんだろうけど、
それだけじゃないんだと死ぬ前に知ることができた。
それだけでも私は幸せ者だったと思う。
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