第2話 ダンジョンボス

「各個に応戦!」


 セシルが剣を構えて叫ぶと、クシィとルナマリスが杖を構えた。


氷河の大牙フロストデンテス

聖なる光槍ホーリーランス


 地面から強大な牙のような氷柱が飛び出して長い胴を貫き、ルナマリスが放った光の槍が鱗に刺さった。


 達人級の魔術師のみが使える準二級魔法と聖女の力が宿った三級魔法だが、あまり効果がない。深淵大蛇アビスサーペントが激しく動き続ける。


「胴体よりも頭を狙うんだ!」

「うん、わかった――おととっ!?」


 セシルに頷いた直後、深淵大蛇アビスサーペントの尻尾に叩かれ、クシィは魔法で空中を飛んで回避した。


「援護する! 怨霊展開グロストムプラッツ!」


 俺は魔力の煙で出きた頭蓋骨を自分の周囲に作り出し、それを突撃させる。蛇の頭で怨霊が弾け、深淵大蛇アビスサーペントが若干よろけるがあまり効果がない。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 深淵大蛇アビスサーペントがとぐろを巻き、口に黒い炎を溜めた。


「させるか!」


 足に雷の魔法を使って、セシルが高速で動いた。雷の魔力の爆発力で空気すら蹴って移動している。セシルのスキル、雷迅移動ライトニングムーブだ。空中すら駆けるそのスキルを巧みに使って急接近すると、蛇の頭めがけて剣を振るう。


雷光一閃フィロブリッツ!」

「シャアアアアアアアアアアアアアアア!」


 雷の魔力をまとった一撃を浴び、深淵大蛇アビスサーペントが仰け反る。


幽々たる流星ネクロウェーブ


 クシィが空中を飛びながら魔法を放った。黒い魔力光線が蛇行し、蛇の頭に直撃して弾けた。


「グッ、ガァアアアアアアア!」


 苦悶を上げながら深淵大蛇アビスサーペントが口から黒炎をまき散らす。

 俺はルナマリスに魔力障壁で護ってもらう。セシルは雷を足に纏わせて高速で避けたが、クシィに黒炎が直撃し、その威力に押されて床に落下した。


「大丈夫か!? クシィ!」


 俺が駆け寄ろうとしたところで、深淵大蛇アビスサーペントが体勢を立て直した。


「ちょっと痛いけど平気だよ――」

「シャアアアアアアアアアアアアア!」


 クシィに向かって深淵大蛇アビスサーペント大口を開けて迫った瞬間、セシルがクシィを抱えて飛び上がった。


 深淵大蛇アビスサーペントが黒炎を吐いて追撃するが、セシルは空中で雷迅移動ライトニングムーブを発動する。空中を蹴って移動し、セシルが動く度に雷がバチバチを光った。


「世話の焼ける奴だね、君は」

「早い早いよ……ッ! ううっ、こんなに動かれたら酔いが回るってぇぇぇ!」


 高速で動いているセシルに抱えられているからクシィが苦悶の叫びを上げていた。


(あんなに酒飲んだやつを高速で動いてシェイクするなんて鬼畜だな……)


 俺がそう思ってると、ちらっとセシルがこちらを向いた。


「ロア、さっさと変身するんだ!」

「私があなたを護るわ! その間に一気に決めなさい!」


 ルナマリスが床を焼く黒炎から俺を魔力障壁で護りながら言ってきた。


「わかった!」


 俺は腰に携えた勇者の剣アルブスを握った。


「兄貴、力を貸してくれ」


(やっと出番か。待ちくたびれたぜ)


 頭に直接聞こえてくるような声がした。これは降霊術師のスキルで故人が使っていた物に触れることで死者と会話する能力だ。


 俺は今、千年前に魔王を倒した初代勇者リオン・エヴァンスと心を通わせている。彼は俺の兄貴分でもっとも信頼できる仲間だ。


「行くぞ兄貴! 魂魄融合ソウルフュージョン!」


 俺がそう言った直後、一瞬だけ視界が白く染まると、身体の所有権が移った。

 身体が勝手に動き、俺は収納魔法を使って黒い空間に杖を仕舞う。思考はそのままだが、兄貴と一体化してるから自分の身体が勝手に動くし、何だが自分の身体から一歩離れたところから見ている感じだ。


「そんじゃ一気に決めるぞ」


 兄貴が深淵大蛇アビスサーペントに向かって手をかざす。


業炎の大蛇ブレイズサーペント!」


 手の前に魔法が展開され、そこから赤い大蛇が炎を纏いながら飛び出し、深淵大蛇アビスサーペントに絡みついた。


「シャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 深淵大蛇アビスサーペントが苦しそうに叫ぶが、赤い大蛇は黒い胴を焼きながら締め上げる。これで奴の動きは止まった。


「セシル、今だ! 一気に行くぞ!」

「ああ、わかった!」


 セシルが床にクシィを置くと、飛び上がった。兄貴も勇者の剣アルブスを構え、それに続く。


雷光一閃フィロブリッツ!」

聖極一閃ヘルトブリッツ!」


 セシルが雷の刃で深淵大蛇アビスサーペントの喉を斬り、その傷口に兄貴がさらに斬りつけた。


「ガッ…………」


 深淵大蛇アビスサーペントの首が飛び、胴体が水路に沈むと業炎の大蛇ブレイズサーペントも霧散するように消滅した。


(次回に続く)


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