第3話 初恋の夢
目を開けると、俺は十一年前のシルヴァンディア王国の晩餐会にいた。
「フィンジャック、くれぐれも荷物を落とすなよ。今日はイゾルデ姫の誕生祭なんだからな」
「は、はい!」
十五歳だった俺は、ブロンズバルドさんたちの手伝いに駆り出されて世界各国の王族用の荷物の搬入をしていた。
俺は木箱を運びながら、王族たちの様子を眺めていた。
あぁ、一度でも良いからあんな暮らししてみたいぜ。
木箱を抱えながら、ふと一人の少女の横顔を見て「綺麗だ」と胸をざわつかせた瞬間――。
「お願い、匿って!」
少女が慌てて駆けてきてと囁く。
咄嗟に空箱の中に押し込めてやった俺は、ただ訳も分からず心臓が跳ねていた。
わけもわからず呆然としていると、少女と同い年くらいの十歳の他国の王族の姫がやってきた。
「さっき、女の子が通らなかった?」
「あぁ、さっきその道ですれ違ったよ」
俺が適当に誤魔化すと、王族の姫が礼を言わずに走っていった。この時の俺は、かくれんぼしているんだなと思った。
「ありがとう。私、あの子に追い回されていたの。……しばらく、ここにいていいかな」
「あぁ、良いぜ」
晩餐会の少女が微笑んだ瞬間、胸が締め付けられるように跳ねた。
(この笑顔……どこかで……?)
見慣れた天井だった。いつの間にか、秘密基地の俺の部屋のベッドで寝ていた。
「はぁ……。結局、あの子は誰だったんだろうな」
「あの子って誰の事だ?」
「うわぁ!!」
突然声をかけられて、驚いた拍子にベッドから落ちそうになった。よく見ると、フルトだった。
「全く、みんな心配してたぞ。あの後大変だったからな。二日も寝てたんだぞ」
フルトはため息をついたが、どこか嬉しそうだった。……二日も寝てたのか?! 俺。
「あのゾンビエルフをみんなで倒すのに、時間がかかったよ」
「そっか。……皆に迷惑かけたな」
「リリアーナに感謝しとけよ。幸い、鎧のおかげでゾンビエルフのナイフが肋骨あたりで止まってて軽傷だったよ」
「なんだ、軽傷だったか。て事は毒か」
「いや、お前が食べたカビ肉がうまい具合に相殺して――」
こいつはフルトじゃないな。フルトだったら、リリアーナの事を”リリアーナさん”って呼ぶ。となると、カティか。……念の為、トロッコで決めた暗号を使うか。
「そういや、ロドリは今何してるんだっけ?」
「さぁ、知らんな」
やっぱ、フルトじゃねえ。俺達が決めた暗号は”カビ肉を食べている”だ。他の話題を振ったら、フルトっぽい返答はするが、リリアーナを呼び捨てにしたままだ。
「どうした?」
「お前、カティだろ? 可愛いものとか癒されるものが好きなフルトが、恋バナに食いつかない訳がねぇ」
「ふ、意外と深い絆で結ばれてるじゃない」
カティが変身魔法を解除すると、にっこりと笑った。
「でも、意外ね。あの男、そんな趣味あったなんて」
ちなみに、恋バナとか可愛いもの好きとかは、暗号の存在を隠すための俺のでまかせだ。
俺が安堵の息を吐いた瞬間、扉がそっと開いた。
「……フィンジャック」
そこに立っていたイザベルは、目に涙をいっぱい溜めていた。近寄ると、ポタリと雫が落ちる。
「よかった……本当に、目を覚ましてくれて」
声は震えていたが、笑顔を崩すまいと必死に堪えているのが分かった。
胸が痛む。あの晩餐会で、空箱に隠れたあの少女の笑顔が、ふと頭をよぎった。
(いや……偶然だろう。まさかな)
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