第6話 魔王討伐後の混乱と再編成
勇者崩れの襲撃が完全に止んだ俺達は、黙って瓦礫にころがってる物資やら使えそうなものを拾っていた。
「お、奴らの馬が残ってるじゃないか。状態はこれなら、馬車も使えそうだ」
俺は、二頭の馬に残った食料の一部で餌付けして警戒心を緩めてから馬車へと誘導してつなぎ留める。
その最中に、俺は瓦礫の中から気になるものを見つけた。
「なんだ、こりゃ? 古代兵器か? 随分小さいライフルだな」
ウェンブリンライフルの三分の一ほどの大きさで、真っ黒に塗装されている。握ると手にぴったり収まった。
「交渉にも武器にも使えそうだ」
一つは腰のホルスターに、残りはリュックにしまい込む。
こうしているうちに、俺の所にみんなが集まっていた。
「で、俺達これからどうする? どうなるんだ?」
ひとりの勇者が口を開くと、俺はすかさず状況を推察する。確か、こいつの名はロドリパーティーのロドリだったかな。他のパーティーよりも鎧や武器の損傷は比較的少ないが、頭部の飾りに大きな穴が目立っていた。
「多分、ローレンスの野郎は今頃王国を乗っ取る準備をしているか、もしくはもう乗っ取っている可能性がある」
「⋯⋯そうなったら、俺達はお尋ね者か勇者崩れ扱いになってるだろうな」
俺とフルトが呟くと、みんなの表情が暗くなる。
「クソ! だいたい、こうなる前に、フィンジャックと勇者アルベドがキチンと話せばこうなる事はなかったんだ!」
ロドリが俺の方を指差して激昂する。いるよなぁ、こういう奴は⋯⋯正直面倒だな。ロドリのパーティーらしき魔法使いと弓使いのコボルトも頷く。
「いやぁ、勇者ロドリさんはさすがですよ。昨日までの自分をここまで綺麗に忘れられるのって才能だなって」
一瞬、周囲の空気が固まった。ロドリの眉間に青筋が浮かぶ。
「あ!?」
「いやいや。つい昨日までローレンス二世の勇者連合にノリノリになって賛同したお前らが、あの場で俺とアルベドの話しを真剣に聞くわけないかなぁって。⋯⋯特に女性陣らはさ」
「ぐぬぬぅ」
俺の指摘に、みんなが口をあんぐりと開けていた。心底呆れた表情でため息をつく。
「特にお前、俺が反対した時に『ローレンスは強いし、うちの女性陣も賛同してるからいい奴だよ。それとも、あいつの美貌に嫉妬しているのか?』と言ってなかったか?」
フルトの指摘に、他の勇者連合の面々が俯いていた。
「お前らが言うように、”ローレンスはいい奴”なんだろ? もしかしたら頼み込めば、ワンチャン助けてくれるんじゃないか?」
「う、うるさい! フルト! お、お前達が何とかしろよ!」
「ロドリパーティーは置いといて、俺達で勇者ローレンス討伐パーティーを組まないか?」
「お、おい! 荷物管理人の癖に無視するな!」
狼狽しているロドリを無視して皆に呼びかけるが、黙ったまま目を合わせない。
「悪いが賛同できない」
ロドリとは別の魔法使いが一歩退く。
「わりぃが、手持ちの銀貨が四枚しかねぇ。おいらがあんたに前金支払ったら、安宿すら泊まれねぇ」
「フィンジャック。君は一級荷物管理人として尊敬していますが、ここまで運が悪いのは呪いレベルですよ。正直、巻き込まれたくないです」
「そうそう、僕は人も魔族も殺したくないから弓矢は狩猟のために使うよ」
後ろの戦士と荷物管理人が肩をすくめ、弓使いが目を逸らす。
三人の間に、言葉ではない拒絶の空気が広がった。
あぁ、これはまずい!
このままだと俺は、護衛も無しに馬車と馬で帰らなきゃいけなくなる。⋯⋯もしもそうなったら、盗賊や勇者崩れの餌食になっちまう!
「は! 戦闘に参加しない荷物管理が偉そうにするからこうなるからだ! 俺らは個別でローレンスを倒す計画を立てる!」
ロドリの掛け声に、ロドリパーティーと何人かが集まって急いで東側の方へと逃げていく。
残ったパーティーも次々と出ていった。
リリアーナは最後の食料袋を結び、フルトは剣を背に固定した。
「じゃあな、フィンジャック。ここからは各自だ」
その言葉は、出会いの終わりを告げる鐘の音のように冷たかった。
「頼む! フルトにリリアーナ嬢! タダで良いから、俺の仲間になって奴の討伐に参加してくれ! お前たちがいないと、王との約束が果たされないし、姫様の命が!」
俺は二人にひざまずく。
「悪いが断る」
「そこを何とか頼む! 俺の話を聞いてから考え直してくれ! 悪いようにはしない!」
フルトが淡々と答えるも、俺は必死に頼み込む。すると、リリアーナはフルトの目を見る。
「あの、少し彼の話しを聞いてから判断しましょう」
「リリアーナさん。どうせ、俺達の事を散々利用して途中で見捨てるつもりだ。完全に信用できん。なんせ、護衛無しでここを突破するのは無理だ」
「あぁ、その通りだ。護衛無しでここを突破するのは無理だ。でも、絶対に見捨てたりはしないと約束する!」
「行こうか、リリアーナさん」
「待ってくれ! 確かに、魔王城跡を勇者崩れの襲撃に耐えるのは不可能だ。だが、ふたりも同じだ!」
「なんだと?」
無視して荷物をまとめようとしていたフルトの手が止まる。
ゆっくりと顔を上げ、氷のような瞳が俺を射抜いた。
「お前達の実力なら、勇者崩れの連中や魔王軍残党を蹴散らして突破して北方諸国の山脈地帯にたどり着く事は出来る。だが、突破した先でふたりは一ヶ月以内に野垂れ死ぬのは確実だ」
「何が言いたい? フィンジャック」
フルトは真っ直ぐに俺の顔を見て問いかける。やっと、フルトが交渉のテーブルに着いた。
さて、ここからが正念場だが、交渉の材料は幸い、いくらでもある。さっき、荷物を確認した時には、まだとっておきの品がある!
とはいえ、失敗をするわけには行かない。俺は、一級荷物管理人だ。王族や貴族の交渉をいくつもこなしてきたベテランだ。やれば、できる。
そう言い聞かせて目の前のフルトの目を見返す。
――ここから先は、俺が最も得意とする言葉の戦場だ。
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