彼女に浮気され裏切られた俺は自殺したのだが過去に戻ったらしい。そして彼女だった女は彼女になる前に戻り挙句の果てには...

楽(がく)

第一章 逆転

繰り返す世界

第1話 自殺

心底全てが絶望だった。

付き合っている彼女に浮気された。

魅力が無かったのだろうか俺は。

全てをやってきたつもりだったのにな。


俺はテストのストレスもあった。

進学のストレスもあった。

だけど。

何よりも彼女だけには裏切られたくなかった。


だから俺は...全てが嫌になって勢いよく快速列車に飛び込んだ。

筈だったのだが。

いや。

何故なのか。


「...なんで...」



俺、佐藤梶(さとうかじ)は快速列車に飛び込んで自殺した筈だった。

間違いなくホームを過ぎる列車に靴を揃えわざわざ飛び込んだ。

全ては計画通りだった筈だった。

そして死後の世界に来たものと思ったのに。

何故こんな事に。


「えー。みんな。もう直ぐ学園祭だからな。楽しみになぁ」


担任の男性教師の榎本がそう言う。

俺は自殺した筈なのに何故か1年前に帰って来ていた。

把握した限り1年前の9月である。

清水高等学校2年生になっていたから。

俺が自殺した時は高校3年生の6月だった。

今は1年前の9月だ。


何がどうなっている。


「佐藤くん」


そう声をかけられて俺はビクッとする。

それから周りを見渡す。

ぼやっとしている中でホームルームが終わったらしい。

俺は声をかけた主を見る。


「...どうしたの?」


浮気した彼女だった筈の村上香織(むらかみかおり)が俺に声をかけている。

俺は全身を見る。

黒髪の肩までのヘアに...相変わらずの顔立ち。

まあアイドル級に可愛い女だ。

クラスメイト...だが。


「なあ。村上さん」

「うん。どうしたの?」

「今は2024年で間違いないな?」

「間違いないって。さっきも聞いてたよね?」

「...」


俺が列車に飛び込んだのは2025年の6月24日。

間違いなく俺はタイムリープした。

何故こんな事になっているんだ。

本当に頭が混乱する。

頭が痛い。


「それはそうとさ。ね。中学時代からの関係のよしみでプリント運ぶの手伝ってくれない?」

「プリント?」

「うん。次の英語で使うプリント」

「...成程な」

「ごめんね。急で」

「いや。別に構わないが」


それから俺は教室を後にして村上香織の後ろから付いて行く。

窓から外を見る。

間違いなく9月の景色だ。

というか快速列車に飛び込んだのに死んでないのはおかしいだろ。

無傷なのはおかしいだろ。


「佐藤くん」

「あ、ああ」

「大丈夫?ぼんやりしていたみたいだけど」

「...悪い夢でも見たのかもな」

「悪い夢?」

「ああ。...ちょっと悪夢を見ている」


電車に跳ねられた時に起こった激痛といい。

夢じゃない。

間違いなく死んだ。

だが...。

そう考えていると「あの」と声がした。


「あ。萩原さん」

「萩原」

「先輩がた。どこに行かれるんですか?」


萩原由佳(はぎわらゆか)。

2...じゃなかった。

1年生の少女。

クリッとした目が特徴的な女子。

身長は低めだが間違いなく可愛い。

俺達によく中学時代の先輩後輩の間柄で居た女子。


「えっと次の英語の授業で使うプリントを取りにね」

「そうなんですか?」

「あ、ああ」


俺は俺自身を振り返って見てきている村上香織を見る。

それから俺は「萩原はどこに行くんだ?」と聞いてみる。

すると「はい。ココアを買いに」と笑顔になる。

俺はその言葉に顎に手を添える。

そういやココアが好きだったなコイツ。


「でも相変わらずですね」

「相変わらず?」

「はい。佐藤先輩と村上先輩ってなんだか夫婦みたいです」

「よしてくれ。...俺は香織とは中学時代からの腐れ縁なだけだ」

「アハハ。だね」


それから俺達はくすくすと笑う。

萩原は「じゃあまた後で。先輩方」と手を振ってから去って行く。

俺は「ああ。じゃあな」と萩原を見送る。

すると香織が「しかし恋人に見えるのかな」と苦笑い。


「...まあそうだな」


俺は何も言えないまま肩を竦める。

正直、村上香織に裏切られた事実はある。

だがコイツが今から裏切るとは限らないしな。

ただし、今のところ、はだが。


「佐藤くんはどう?私と恋人になりたい?」

「なるとかならないとかそういうのよりかは。ほら。早くしないと」

「あ。はぐらかしたね。アハハ」

「...」


村上香織と一緒に歩きながら俺は職員室に行く。

すると英語教師の山下が大量のプリントを渡してきた。

イライラする。

1年前に帰っても相変わらずだなハゲネズミが。


そう思いながら俺は顔を顰めつつプリントを運んだ。

運んでいると村上香織が「後で飲み物奢るね。しかし多いよねぇ。プリント」と汗を滲ませながら言う。

そうだな。


「香織」

「ん?何?」

「運ぶから。お前の分も」

「え?そんな。いいよ」

「良いから」


正直、今、感情を逸らさないとなんだかモヤモヤするしな。

女子にそんな多く持たせる訳にもいかない。

そう思いながら村上香織からプリントを受け取って歩く。

すると村上香織が「ありがとうね。そういう男子はモテるよ」と笑顔になった。

ズキッと胸が痛んだ。

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