百鬼徒然

葛葉龍玄

第1話 快哉──カイサイ──

 その音怪しきに候。しかしながら姿形何処にも見えず。


 ただただ、暗闇にのみその音現れ、人皆姿探せども何処にも在らじ。


 尊き僧、これに出くわしてわ、クワイサイと名付けたり。いま怪哉といふなり。




─みしり─と音で目を覚ます。


 そんなものただの家鳴りのはずなのに、なぜか気になってしまう。


 


 祖父曰く。


 家鳴りしか聞こえない中に奴らはいる。


 哉は感嘆の意味もあるが、始まるという意味もあるんだ。


 怪哉とは怪しい何かが始まるっつーことかもしれんな。




 であるならば今まさに、この家のこの暗闇の中でなにかが始まろうとしているのだろうか。


 もし始まるとすれば、一体何が始まるのだろう?


 そんなもの、きまっているではないか。


 怪しきことがはじまっているのだ。


 いや。もしかしたらもうすでに始まっていたのかもしれない。


 幼き日のあの夜に。




 ならば、ソレは今、どうなっているのだろうか。


 後ろになにかいるような気がして、体が動かない。


 動かないのではない。動かせないのだ。


 肌を指すような気配は、在る本能を刺激する。


 恐怖という原始的なものだ。


 動いてはいけないという強迫観念にも似た思いに駆られ、体が硬直する。


 そうこうしている間にも、恐怖は足下から這い上がってくる。脚から胸へと少しずつ上へと上がってきたそいつは耳元で呟く。


─ミツケタゾ─


 生家から出た俺を探してここまできたのだろうか?


 いくつもの夜を越えて、成長しながら?


─みしり─


 一際大きな音がする。


 その音を聞いて、意識が途切れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る