勇者(仮)の俺の話

@mohityan

第1話

俺の名前は村谷朝日(むらたに あさひ)。24歳、独身、童貞、社畜。現在、ブラック企業で絶賛人生消費中。趣味は「無言で上司を睨むこと」。特技は「魂を飛ばしながら残業すること」。あと、なぜか昔からちょっと運がいい。ガチャはよく当たる。でも出会いは当たらない。はい現実!

で、この日も残業帰り。時間は深夜1時。「今1時ってことは、家着くの2時……飯作って寝るの3時……あのクソ上司、もういっそ会社に住もうかな。家賃浮くし。はぁ……」

そんなことをぼやきながら、夜道をトボトボ歩いていた。でもその夜、いつもとは少し違った。急激に眠気が襲ってきて、体が言うことをきかない。

「あ、やば……ねむ……」

気がついたら、俺は道路の上に立っていた。前を見ると、トラックがこっちに突っ込んでくるのが見える。

「あ、死んだなこれ」

そう呟いて、俺は目を閉じた――。


――気づいたら、俺は道路に倒れ込んでいた。顔を上げたら首あたりが痛い。引かれたのか俺。よく漫画で「死ぬときは痛くない」って言うけど、あれマジだったのか?トラックの方を見ると、運転手らしき男がトラックに乗ってどこかへ走り去っていく。

……うわ、マジか。ひき逃げされたんだけど。

「最悪……絶対にあのヤロー呪ってやる……」

やばい、意識がだんだんなくなってきた……



でもまだだ、俺はまだあのクソ上司を殴って……


……もう無理。


***


気がついたら俺はベッドの上にいた。

「どこだ、ここ?」

目の前には、背中を向けて話す男女の姿。(まだ気づかれてないな)そっと耳を傾けてみると――

「ねぇ姉様、後ろに寝てるやつ全然起きないし、待つのめんどくさいから地獄送りにしない?」

ん?後ろで寝てるやつ誰だ?辺りを見回すと俺しかいない。……もしかして俺のこと?


ヤバくない?


でもなんでかもう少し話が聞きたい。

「待ちなさいアキス。あの男は一応“神の加護”を持っているのよ? 簡単には地獄送りにできないわ。でも確かに起きないし……私たちもう3時間待ってるしね。待つの嫌だし、見たいアニメあるし……うん、もうめんどくさいから地獄送りにしましょう。アキス、地獄送りの紙持ってきて」

もう黙ってられない

「ちょっ、ちょっと待って!起きてます!起きてるから地獄送りはやめてください!お願いします!」

ビクッと2人の肩が動いた。こっちを向いて、女の子の方が近付いてくる。めっちゃ怖い顔で睨まれてるんだけど。俺なんかした?

「今の聞いてた?」

「い、いえ、なにも聞いてません」

棒読みだったかな? 冷や汗ダラダラで答えた。そしたら女の子、めっちゃ可愛い笑顔になった。変わり身早くない? あと、けっこう可愛いなこの子。

「私は神官セットウ。こっちは弟で同じく神官のアキス。よろしくね」

弟の方もイケメンじゃねーか。なんかイラつく。

「あっ、どうも」

アキスが口を開く。

「あなた、自分の死因って分かってますか?」

「え? あぁ……ひき逃げ……ですよね?」

「違います。あなたは“大量のバイク”に轢き殺されました」

「え? トラックじゃなかったんですか?」

って言ったら、「はぁ? 何言ってんのコイツ」って顔された。なんかムカつくんだけど、なにこの殴りたくなる顔。ていうか轢き逃げと轢き殺すって何が違うんだよ? ぶっちゃけ一緒じゃね?

「説明めんどくさいんで映像見てもらいますね」

右側の壁になんか映った。俺だ。え? ヨダレ垂らして寝てるんだけど。どゆこと? 歩道で寝てる。あっ、寝返り打った。道路の真ん中行っちゃったよ!

コンクリの上で普通寝れる?床固くないの?

……あっ、俺だったわ。そこに向こうから大量のバイク集団が突っ込んできた。やばいんだけど、100は余裕で超えてるんだけど! めっちゃ轢かれてんだけど!

「なんで誰も止めないの?」

って聞いたら、

「みんな“めんどくさくて”見なかったんですよ」

「…………」

なんなんだこの世界。めんどくさいと何もしないのか?ペラッペラになってる俺が映像に映ってる。最悪なんだけど。何あれ、原型ないじゃん。ていうかなんか恥ずかしい。なぜだろうなんか恥ずかしい。

姉の方が言った。

「あなたはこうやって亡くなりました」

「俺、トラックに轢かれたと思ってたんですけど。あのトラックは?」

「それがですね、あの時あなた急に飛び出したけど、ギリギリでトラックは止まりました。あなたは轢かれてないんです。ただ、びっくりしてショックで気絶。その後、運転手さんが親切に歩道まで運んでくれたんですよ。そして寝返りを打って……ああなったと」

……え、俺轢かれてなかったんか。そりゃ痛くないわけだ。首痛かったのも、気絶して倒れたときにぶつけたってことか。

なんかめっちゃ恥ずかしい。呪ってやる!……とか言ってごめんなさいトラックの運転手さん。許してくれるかな。俺可愛いから許してくれるよね? ……やば、やっぱナシ。読んでるみんな、今の見なかったことにして。じゃないと君の夢に出るよ〜。

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