第7話 お祭り前夜 6 宮廷晶角士

ちょうどその頃、マレーン城の謁見の間の左方にある、討議の間では、王、そして、公爵と宮廷晶角士の三人が席について何事化を話し合っていた。

王宮で行う会議にしては、かなり寂しい感じがするのだが、各々は、真剣な面持ちで臨んでいることは、すぐにわかった。


公爵は、昼間の闘技場にも現れた、キムエラ・ウアラであり、その横の宮廷晶角士は、イクスレンザ・エンジシだった。


「で、エラン、お主、偶然のいきさつとはいえ、昼間のガリエンローグ、率直なところどう思う?」


エランと幼名で呼ばれたのは公爵。


「なにぶん、見るといっても、一瞬で勝負は決まってしまいしたからな。一つ言えることはレパッタナーグの剣技は、そんなにあっさり負けるほどのものではござらん。どんな手を使ったのかは想像できかねるが、少なくとも護士としての力は十分に持っているものとは推察いたす。」


「ふむ。」


王が相槌を打ちながら話を進める。


「そもそも、あの者の武芸の程は定かではないが、晶角士としては極めて優秀なのは既にわかっているのだ。護士のことがなくとも、あの者は、早かれ遅かれ叙勲を受けることは間違いはあるまい。そもそも、他の司を押しのけ、あの者を護士へと強く推奨したのは、レンなのだしな。」


レンと、やはり幼名で呼ばれたのは、白髪で顔にはその齢を十分に刻んだ、老齢の宮廷晶角士である。

絶対数の少ない晶角士達の長であり、角士養成機関の長でもあるこの男は、戦争時代にはには、現王の護士をも勤めた、王の最も信任の厚い男ともいえた。

公爵は、宮廷晶角士の方を向くと、


「イクスレンザ殿が・・・。」


と、感嘆の意をこめながらつぶやいた。

この宮廷晶角士は、王国一厳格であり、生半可なことでは、自ら推奨等とは想像ができなかったからだ。その様子を感じ取った、宮廷晶角士は、


「ガリエンローグが、異例の早さで角士の試験をパスしたから推奨しているわけではござらん。わしも一晶角士として、言うには自らの誇りに抵抗を感じぬ言えば嘘になるが、既にあの者の技量は、このわしさえも凌いでいると言わざるを得ないのだ・・・。」


と静かに評価を加えた。


「まさか・・・・。そんなことが・・・。」


公爵も今度は、驚きを隠すことをしなかった。

王が会話に割ってはいる。


「そこでだ。それほどの男であれば、娘の護士にと。そう考えたのだ。娘ももう12歳だ。そろそろ元服の儀を考えねばなるまい。」


「元服?」


公爵の反応は早い。


「なぜ、そんなに早く元服の儀を・・・。」


今度は宮廷晶角士が答える。


「キムエラ殿も知っておろうが、安全協定を結んだとはいえ、すでに10年以上の月日が経っておる。年々、文化圏同士の絆も不安定なものになってきておるのだ。それにわが国は、文明圏唯一の王制国家でもある。敵は決して少ないとは言えんのじゃ・・・。」


「それでは、近年均衡が破られると?」


公爵の声にも、緊張が見て取れる。

宮廷晶角士は、


「すぐにとは言わん。現在、わが国の文様術式も、かなり他国に流出しておる。そんな中で、あの男の才能と能力は危険なのだ。万が一他国に流れるようなことがあれば、それは何よりも危険だと言わざるを得ないのじゃ。」


と、次第を説明する。


「なるほど・・・。護士にして、お膝元に置いてしまえば、ということでもあるのですな?」


公爵も事情を飲みこむ。


「それに、戦争が起これば、娘は軍職につくことになろう。護士が晶角士というのは理想的なのだ。それに、元服の為にはなんといっても学業を収めなればなるまい。その意味でもあの男であれば最適なのだ。」


王が更に説明を加えた。

公爵は、質問をつづける。


「今日、あの場に、あの晶角士が居あわせたのは、ルルテお嬢様との顔あわせでもありましたな。お嬢様にはなんと?」


ルルテとは、マレーン国王女、ルルシャメルテーゼ・ルルテ・マレーン・ソノゥの幼名である。


「いかにも。娘には、元服までの間の教育係とだけ伝えてある。あの晶角士は、軽く挨拶をすると、学院にもどっていってしまったのだ。」


そういうと、レンを見やる。レンは、


「あの者は変わっておりましてな・・・」


とだけ、眼をそむけながら答えた。

そして、再び顔をあげると、


「キムエラ殿。この件は、ここだけの話としてお願いしたい。本来は、王とわしだけで決めても良いのだが、なにぶん、事が事だけに、知将であり猛将と言われたお主の意見を聞きたかったのじゃ。」


と言った。

公爵も、


「いえ。お二人の御推眼に適い、光栄であります。陛下、閣下。」


と、澄ました顔でいうと、さらに


「あの晶角士には、私の部下が借りを作っております。宮廷におれば、その名誉を取り戻す機会もあるというものでしょう。」


と付け加えた。

その言葉を聞くと、王と宮廷晶角士は、笑みを浮かべ、うなずいた。


そして、王はそのまま立ち上がると、窓をから、前夜祭に盛り上がる城下の街明かりを見ながら、


「我々の心配事が杞憂であればと。娘には平和な治世の中で、育って欲しいものだ・・・。」


とつぶやいた。

宮廷晶角士と、公爵は、静かに眼をつぶり、うなずいた。


街は前夜祭で盛り上がっていた・・・。

時は、マレーン次元文明暦12年 第3力期6日目であった。

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