猫、晴れ時々雨

いのそらん

第1話 猫、晴れ時々雨

うちには猫がいる。

4匹の猫がいる。

最初の1匹は、ペットショップで売れ残っていた猫を、可哀想にと同情して買った猫だ。


小さい頃から猫を飼っていた経験がある私は、特に違和感なく猫との生活に馴染むことが出来たが、ほぼ初めて動物と同居を始めた妻は、当初はかなり混乱していた。


まさに、混乱だった。


餌をくれ、なでろ、部屋中毛が舞ってる。

たいして掃除好きではなかったはずなのに、急に埃がどうのといって咳をし始めたりしていた。

それでも、半年が過ぎる頃には、言葉の通り猫っ可愛がりしているから猫は偉大だ。


人とは、そんなものである。


家を出るときは、猫がどこにいるか確認するのが習慣になり、外出すると野良猫でも、ペットショップでも、とにかく猫を目で追う様になり、最終的には、猫が自分のベッドで寝てくれないと嘆くようになるのだ。


そんなこんなで、妻が自分のベッドで寝てくれる猫が欲しいと言い出すまでには、そんなには時間は掛からなかった。

そこで、妻に、保護猫の譲渡会に行くことを提案してみた。


猫は、1匹生涯面倒をみると200万以上かかると言われている。


うちの猫だと、保険3,000円、餌代6,000円、猫砂や爪とぎ、おもちゃ等、都度の病院代を均すと月5,000円程度、しめて1か月あたり、凡そ14,000円ぐらい掛かっている。平均の16年生きたとして、14,000円×12か月で168,000円、16年生きると、その16倍で実に2,688,000円かかる計算となる。


現在、4匹いるので、4匹と生涯を共にすると、なんと1000万円を超えてしまうのだ。


こう考えると、果たして猫を飼うということがコストに見合ってるのだろうか、と思う人もきっといるだろう。

それでも、その現実を前に、妻と私は、生後7か月程度の黒猫の子猫を譲渡を申し込んだのだった。


最初に自宅の環境をチェックされ、その後1週間程度の家でお試し(トライアル)で飼ってみる。先住猫との相性なども重要なのだ。結果、その黒猫は先住猫とトラブルを起こすこともなく、3週間後には私達の子となった。


2匹に増えた後は、公平になるように構ったりと頑張ったが、2匹の性格がまったく違うため、なかなかに愛情を注ぐのにも骨が折れた。


トイレが1つでは足りなくなり、2,3つと増やし、水飲み場も増やした。流行りの給水機も買ってみたりもした。まあ、確かに飲んでくれるのだが、毎日衛生的に使うのにぶっちゃけ手間が増えた。まあ、飲んでくれるのだが。

そして、その猫は、妻の希望通り妻のベッドで寝てくれる優しい子だった。

2人と2匹の生活に慣れてくると、もう猫が可愛くて可愛くて仕方がない日々がやってくる。


寝ても覚めても猫のことを考えているのだ。

そんな時に、前回保護猫の譲渡を受けた団体から、譲渡会へのお誘いのメールが届いた。


もう2匹も猫がいるため、新しい猫を迎えることなどまったく考えていなかったが、結局、ご挨拶も兼ねてと譲渡会に参加したのだった。

で、運命の出会いをする。


美しい・・・。


妻も私も絶句した。

多頭崩壊から保護された、ブランドにゃんこだった。


まさに一目惚れである。

で、その場で、譲渡を申し込んでしまった。


もちろん、家に帰ってから2匹の猫と向き合い現実に戻ると、やっちまった感たっぷりの空気が漂いはした。

しかも、その猫は子猫ではない成猫で、人慣れも微妙だという。

それでも、なぜか運命を信じてしまい、譲渡の申し込みを取り消すことはしなかった。


見た目は美しいが、年齢がいってることや、人慣れが微妙な猫で、なかなか譲渡先が見つからないだろうと保護猫団体の代表者さんが悩んでいた矢先の私たち夫婦からの申し込みである。

まあ、大喜びされたよね。


で、実際にトライアルを始めてみると、本当に触れない、抱けない、そもそも逃げ足は速くて捕まらない。人を信じていないのか、餌も見ている前では食べないし、他の猫とも完全に距離を取っている。


いや、これは飼えるのか。まあ、頭の中は憂鬱な気持で一杯いーになったりもする。

まあ、3匹目の猫が来てから数日はそんな感じ。


それでも、一週間も一緒にいると、もともとは飼い猫であり、おそらくペットショップで購入された猫であることも関係しているだろう。触れない、抱けないは依然そのままであったが、やはり嚙みついたり、引っかいたりはしてこない。それに、時々デレル瞬間があり、そのツンデレぶりに夫婦揃ってやられてしまったのだ。


先住の2匹の猫とも距離を保っている所為で、トラブルもない。


結果、3週間後には私達の子となった。


更にトイレを増やし、水場を用意し、寝床だ、おもちゃだ、キャットタワーだと、もう出費は雪崩のよう。さすがに、その月は夫婦で外食やめようって無駄遣い止めた。


3匹になった我が家の猫たちは、時間の経過とともに、どんどん仲良くなっていき、並んで寝る様にもなっていった。


それに伴い、3匹目の猫のイベントは続く。手から餌を食べた、頭でつんつんしてくれた、お腹見せて転がってくれた、もう頬は緩みっぱなしである。


当然、先住の2匹も、負けずに可愛がってアピールは、外は雨でも、部屋の中はいつもさくらが満開であった。


私達夫婦は、そんなこんなの慌ただしくも幸せな毎日を送っていたのであった。で、2度あることは3度ある。ある日、3匹がお世話になっている動物病院から一本の電話が入った。


猫を飼っているご年配の方が、老人ホームに入居するから猫が飼えなくなるんだけどという相談である。


なぜ、うちにとも思って訊いてみると、どうやら病院に通っているお客さんで、保護猫を含めた多頭飼いをしている人は、私たち夫婦以外に思いつかなかったとのことだった。


今回のような事情で、病院を仲介にして個人から個人に譲渡される猫は、行政的には保護猫ではない。


対象の猫は、まだ4か月になったばかりの子猫で、ペットショップで買ったものの、自身の年齢と老人ホームへの転居の話が出たことで、ご年配の方とその娘がパニックになっていたのだそうだ。

で、家から一番近い先生のところに相談に来たということなのだ。


保護猫であれば、市町村の補助がありほぼ無料で去勢手術などを受けることが出来るが、個人間の譲渡は保護にはあたらないため、まだ去勢もしていない4か月の猫は、これから去勢費用なども掛かる。


また、ワクチンも1回残っており、ぶっちゃけ馬鹿にならない費用が掛かるのだ。

ICチップの名義書き換え等の手間も掛かってしまう。

先生としても、なかなか紹介しにくい猫でもあったのだ。

それで、設備、費用の面も含め、既に猫地獄にハマっていて、家に多頭飼いの環境が揃っている私達夫婦が最適だと判断をし、声を掛けたと。


先生にそこまで言われては、断れない。


私達夫婦は、すぐにキャリーバックをもって病院に行き、先方の娘さん夫婦と話をさせていただき、その猫を引き取ることにしたのだった。


子猫は可愛い。でも、ちょっとしたことでお腹も壊すし、伝染性腹膜炎(FIP)という子猫時代特有の怖い病気もある。少なくとも12か月になるまでは、月1で検診を受けるのが最適だ。

当然、実際に財布の中を覗いて、また暗雲が立ち込めるのだった。


まあ、そんなこんなで4匹体制になった我が家は、毎日が、バタバタである。

でも、なんといっても可愛い猫が4匹も、家でちょこちょこ走り回っているのである。


時には、これは参ったという猫の破壊行動に涙し、ある時は、猫たちのために大枚叩いた高級おやつを無視され落胆し、選びに選んだおもちゃは、即日破壊され、膝をつく。そんな喜怒哀楽高低差激しい毎日なのだ。


でも、我が家は、やはり猫たちがいることによって、晴れ時々雨なのだと思う今日この頃である。


※うちの猫達を画像でご紹介

https://kakuyomu.jp/users/inosoran/news/822139839286586870

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