まだ10月なのに幼馴染がバレンタインの準備を始めました…でもそれはオレのじゃないんだってさ

猫の集会

バレンタイン

 休日、それは身も心もリラックスしてのんびり過ごす時間…

 

 だったのに…

 

 母ちゃんが、隣の家にジャガイモプレゼントツアーしてきてっていうから、仕方なくお裾分けに行くことにした。

 

 なんなんだよ…ツアーってよ?

 

 まぁ、母ちゃんの意味不明な言葉はいつものことだ。

 

 ピンポーンと口頭で言うと、幼馴染のくるみが元気よく、はーいどうぞーと言ったので、遠慮なくお邪魔した。

 

 出迎えてくれたくるみは、粉まみれだった。

 

 …

 

 な、なにしてんの⁉︎

 

「どうしたんだよ…」

 くるみは、少し恥ずかしそうに

「へへ、バレンタインの準備」

 と答えた。

 

 …

 

 え…

 

 バレンタイン…

 

「んな…おかしいだろ」

「おかしくないよ?お菓子なだけに!ふふ」

 

 …

 

 笑っている場合か?

 

「まだ半年も先だぞ?腐るぞ?」

「え、練習だよー。」

 

 そんなに前から練習ってするものなのか?

 

「あ、大史たいしのじゃないからね?」

 

 …

 

「わかってるよ…」

 

 …

 

 いや、言葉ではそう言ってしまったが、オレのじゃないんだ…

 

 ショックだな…

 

 告白もしてないのにオレって、フラれてやんの…。

 

 アホくせー…

 

 バレンタインなんかなくていいんよ…

 

 てかよ、くるみの好きなやつって…だれー⁉︎

 

 マモルか?それとも涼介か⁉︎いや、洸太…ううん…ポチだ。

 

 そうだ‼︎ポチってことにして、脳内を丸くおさめた。

 

 無理矢理の収納。

 

 でも、そうやって納得させないと、オレはジャガイモをくるみんちの床にぶちまけて、転べ転べってジャガイモの悪魔にもなりかねなかったんだ。

 

 くるみ…

 

 好きなやついたんだ…

 

 ぜんっぜん知らなかったよ…

 

「あ、これジャガイモな。母ちゃんからお裾分けだってさ」

「わーい‼︎ありがとう」

 

 …

 

 ジャガイモくらいでそんな笑顔みせやがって…

 

 かわいすぎんだよ!

 

「くるみ、将来はジャガイモ王子と結婚するんだろ。おめでとう」

「は?意味わかんないよ。てか、ジャガイモ王子って…なんかやだ」

「あはは、お似合いだぞ?じゃーなー」

 

 …

 

 

 

 くるみんちの玄関のドアをパタンとしめた。

 

 …

 

 …オレはうまく笑っていただろうか?

 

 涙とか溢れてなかったよな?

 

 慌てて頬を確認した。

 

 うん、いつも通りの弾力だ。

 

 

 …

 

 いや、今は弾力なんか求めていない。潤いだ‼︎保湿だ‼︎

 

 …って、違う。

 

 

 オレが求めていたのは…くるみだったのに。

 

 ずっと…好きだったのにな。

 

 …

 

 

 

 おやすみなさい。

 

 オレは、寝ることにした。

 昼間だけど、寝る。

 

 

 …

 

 寝れなかった。

 

 あーあ…小腹が減った。

 

 失恋しても腹は減る。

 でも、下までおやつを物色するのが面倒だ。

 

 もう、身も心もずっしり重しを乗せられている気分なのだ。

 

 失礼すると、こんなにもしんどいのか…。

 

 いや、失恋だ。

 

 

「コンコン」

 ドアの向こうからコンコンと声がした。

 

 ノックじゃなく、声…

 

「キツネかよ?」

「キツネちゃんみたいにかわいい、くるみちゃんでしたー」

 

 …

 

「どうしたの?バレンタイン大作戦は、終わったの?」

「それがね、めっちゃうまくできたの。だから、味見してみてよ。で、意見聞かせて」

 

 …

 

 それは…罰ゲームですか?

 

 …

 

 好きな人が、オレじゃない好きな人を思いながら作ったお菓子をたべろだと?

 

 笑わせるじゃねーかよ。

 

 フッ

 

 そんなの食えるかよ…

 

「はい、あーん」

 

 …

 

 パクっ

 

 思わずあーんにつられて口をあけてしまった。

 

 いいだろ…それくらい…いいじゃないか。

 

 うん、いいんだ。

 

 最初で最後のあーんだ。

 

「うめぇ」

「でしょ?わたし天才かも〜」

「かもな」

「じゃ、またねー」

 

 くるみは、満足そうに帰っていった。

 

 …

 

 小腹は、満たされた。

 

 でも、心は満たされて…いや、あーんで満たされつつあったが、それは脳みそが誤解しているだけで、本当は満たされていない…

 

 

 

 くるみは、なぜか次の週もお菓子を持ってオレの元へやってきた。

 

 バレンタインの味見してと…

 

 なんだかとても複雑な気持ちです…

 

 毎週のあーんとお菓子のお裾分け…

 

 お菓子・・・なだけに頭がおかしく・・・なりそうです。

 

 …

 

 でも…

 

 くるみにあえるし、あーんも嬉しい。

 

 しかし、そのお菓子にはくるみの好きなやつのおもいがこめられていらっしゃる…

 

 

 胸がチクチクいたします。

 

 …

 

 まさか、これって…バレンタイン本番まで続かないよね⁈

 

 もうさ、じゅうぶんに美味しゅうございますよ?

 

 次の週、オレは言ってやった。

 

「うまい‼︎これで完成だよ‼︎もう練習しなくていいんじゃない?」

 って。

 

 そしたらさ…

 

「ううん、ダメ‼︎油断大敵‼︎」

 って、あっという間に却下されました。

 

 …

 

 シンドイんですけどー…?

 

 あと半年も…これやるの?

 

 オレさ…くるみのことずっと引きずり続けてる妖怪になっちゃうんですけど…

 

 

 

 

 で、半年後

 

 

 オレはもう…くるみに餌付けされた妖怪ですよ。

 

 毎週くるみがオレに餌付けするもんだから、そろそろ来る時間かなぁ?なんて、ワクワクしちゃってる自分がいる。

 

 もう、くるみが誰かを好きで一生懸命その人のためにお菓子を頑張っていることすら、オレには関係ないくらい、くるみに毎週あーんをしてもらっていた。

 

 

 オレには、恋人のフリしたおままごと風な感じでした。

 

 でもね、今日でこれはおしまいです。

 

 来週は、もうバレンタイン…

 

 ついにくるみがオレの前から…姿を消します…。

 

 

 それって酷くない⁉︎

 

 くるみロスになること間違いない。

 

 

 そして…バレンタイン当日。

 

 

 くるみは、なぜかオレの元にやってきた。

 

「え…お菓子渡しに行かないの?」

「え、もう渡したよ?」

 

 …

 

「これは、大史に」

 

 …

 

 義理とかもらってもね…

 

 今回は、かわいい包装してくれてるやんけ…

 

 包まれてるからあーんなし…

 

 でも、もらえるだけいいの…かな…?

 

「で、本命は上手くいったの?」

「うん‼︎ばっちし‼︎これで安泰よ。あーよかった〜」

 と、くるみは嬉しそうだった。

 

 

 うまくいったんだ…。

 

 へー…

 

「なら、こんなとこにいたらヤバくね?」

「え?なんで?」

「だって…」

「ん?」

 

 …

 

「くるみ…もうここに来ちゃダメだ。」

「え、来るよ?だって…」

 

 オレはくるみを抱きしめた。

 

「こうなるから…だから、もう来ないで…ほしいんだ」

「いいよ。こうなって」

 

 ⁉︎

 

「はぁ⁉︎ダメだろ‼︎彼氏できたばっかりでそんなこと言うなって」

 

 いきなり二股かよ⁉︎

 

 …

 

「え?彼氏?いないよ?」

 

 いないだと⁉︎

 

「は?じゃあバレンタインは⁉︎」

「あれは、商品化できるかのたたかいだったし」

「えっ⁉︎どういうこと⁉︎」

「パパが、上手にできたら商品化してお店に置いてくれるっていうから」

「パパ…くるみのパパ?」

「うん、パパのお店のケーキ屋さんに」

「あー…そ、そういう…ことなんだ…」

「そうだよ?言わなかったっけ?そしたら、わたしのパテェシエの夢もそう遠くない‼︎」

「あー…」

「で、わたし毎週来るからね?だから…こうなってもいいよ?」

 

 

 頬をピンク色に染めたくるみ。

 

 

 …

 

 えっ⁉︎

 

 それは…

 

 オレはくるみをもう一度抱きしめた。

 

 そして…

 

「くるみ、好きだ。」

 って伝えた。

 

 くるみも

「わたしも好き。」

 って、抱きしめ返してくれた。

 

 まさか、こんなことになろうとは想像もしてなかったっす。

 

 

「大史、チョコ食べて、あーん♡」

「うまい♡くるみにもチョコあげる」

 

 チュ〜♡

 

 

 オレたちのキスは、チョコの味でした♡ 

 

 もう終わりだと思っていたら、これからが始まりだった。

 

 ありがとう、バレンタインよ‼︎

 

 なくていいなんて、オレはなんてことを思っていたんだ。

 

 バレンタインがあって、本当によかったです♡

 

 

 

 

 おしまい♡

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