第6話 皐月との思い出作り、事実が判明する。

 夏と青菜は、大型ショッピングモールの入り口前まで来ていた。栄生駅から徒歩で約十分のところにあり、比較的最近できた建物だ。モール内には、おしゃれなカフェやその他お店がたくさんあり、春休みなので人がたくさん出入りしている。

「お待たせー」

 皐月が夏と青菜のもとまで慌てながら来た。走ってきていて、呼吸が乱れている。

 夏は、真剣な顔で皐月のことを見る。

「皐月」

「急に呼び出してどうしたの? 何かあった?」

「僕たちに隠してることあるでしょ」

「え? 急に何? 隠してることなんてないよ」

「じゃあ聞くけど、昔の友樹のこと、どこまで覚えてる?」

「・・・・・・えーっと」

「言い方を変える。皐月の知ってる僕たちのことはまだ覚えてる?」

「!?」

「健太さんから聞いた。多分そうだろうって」

「・・・・・・ごめん」

 青菜は、しゅんとした皐月のことを穏やかな目で見つめる。

「こっちこそ、気づいてあげられなくてごめんね。一人で抱え込んで辛かったよね」

 皐月は、首を数回横に振る。

「私は大丈夫。ずっと黙っててごめん」

 青菜は、皐月の背中をゆっくりとさする。

「皐月は、今どこまで覚えているの?」

「私の知ってる青菜と夏は鮮明に覚えてる。ただ最近酷くなったんだけど、元々繋がりが弱い人たちについての記憶が消えてきてる。例えば、友樹くん? って人のこととか」

 夏は、納得した表情をする。

「だからさっき、友樹の名前を出した時、反応が悪かったのか」

「うん、ごめん。友樹って人のこともうほとんど覚えてない。その人についての残ってる記憶は、昔の知り合い程度。それ以上はもう全く思い出せない」

「そうか。それはいつ頃からとか分かる?」

「えーっと、縁繋ぎをしたあとぐらいから」

「・・・・・・縁繋ぎ」

 青菜は、何か気づいた顔をして夏のことを見る。

「羽衣の共鳴とか、縁繋ぎとかって天女の力なんだよね?」

「確か、そうだった気がする」

「それじゃあ、もしかしたら」

「どうかしたの?」

「天女の力を使うたび、だんだん天女に近づいていくとかない?」

「!?」

「そう考えれば、華さんがやったことの合点がいく」

「どういうこと?」

「華さんの目的は多分、皐月を天女にすること。ということは、天女の力を使うように仕向ければ、皐月はどんどん天女に近づいていく」

「確かに」

「おまけに、天女に近づけば近づくほど、縁が薄い人の記憶から消滅していく。自ら絶縁剣を使って、縁を切って回るより効率的だよね」

「そういうことか」

 夏は、なんの前触れもなく、ショッピングモールの中に入ろうとする。青菜は、夏の腕を掴んで止める。

「どこいくの?」

「ショッピングモール」

「そうじゃなくて」

 夏は、皐月のことを見る。

「健太さんに言われた」

「え?

「皐月が忘れる暇のないくらい、繋がりや思い出を作り続けることが必要だって。だから、今日というなんの変哲もない一日だけど、何か思い出が作れたらなって思って」

「夏・・・・・・」

 皐月は、ふっと笑う。

「なんだよ」

「やっぱり私の知ってる夏だ。私のことをはっきり覚えてなくても昔と変わらない」

「バカにしてるのか?」

「違うよ。そんな夏が見れて、ちょっとホッとしてる。ありがとう」

「いや、僕は何もしてないよ」

「いいの。ほら、行こ!」

「う、うん」

 三人は、ショッピングモールの中へと入って行った。


 ショッピングモールは全部で三階あって、夏たちは、三階にあるゲームセンターに来ていた。そこでは、春休みということもあって学生らしき子たちがたくさんいる。置いてあるクレーンゲームやアーケードゲームの音が爆音で、これぞゲーセンって感じの雰囲気を感じる。

 皐月は、大きなぬいぐるみのクレーンゲームにお金を入れる。

「取るぞー」

 夏は、チラッとゲーム機に表示されている値段を見る。

「たか! 皐月。これ、一回三〇〇円ってまじ?」

「そうだよ? それがどうしたの?」

「最近のクレーンゲームって一回プレイするだけでもこんなにするの?」

「そうだって。その感じ、夏は最近のガチャガチャとか知らないでしょ」

「知らん。ガチャガチャなんて小学一年の時にやったのが最後かもしれん」

「なんとね、最近のガチャガチャは一回五〇〇円のものもあるんだよ」

「まじか。もうおもちゃじゃん」

「確かに。値段的にはもうそうかも」

 皐月は、そう会話しながら右手でクレーンを操作する。

「こうかなー。青菜! どう?」

「いいと思うよ」

「本当に? 適当に言ってたりしない?」

「してないよ」

「分かった!」

 皐月は、掴みのボタンを押す。クレーンは、ぬいぐるみのちょうど真上にあり、そのまま直下していく。ぬいぐるみに触れた瞬間、クレーンはぬいぐるみを強く掴んで持ち上げる。

 皐月は、ワクワクした顔をしている。

「え!? 一発でいけるんじゃない?」

 クレーンはぬいぐるみを掴んだまま、入り口付近まで運んだが、ギリギリ入り口には落ちなかった。

 皐月は、がっかりした表情をする。

「あーあ。青菜のせいだ」

「え!? 私のせい?」

「だって、青菜がいいって言ったじゃん」

「言ったけどさ」

「青菜やってよ!」

「分かった」

 青菜は、財布から渋々三〇〇円を取り出して、ゲーム機に入れる。

「どうかな?」

 青菜は、周りの意見を聞く前にサクッと位置を自分で決めて、掴みボタンを押した。クレーンはぬいぐるみを強く掴み、入り口まで運ぼうとする。

 青菜は、ぬいぐるみが落ちる瞬間を見て、大きい声を出す。

「あ!」

 ぬいぐるみは、入り口にうまく落ちて、青菜は景品をゲットした。青菜は、ドヤ顔で皐月のことを見る。

「一発で取れた。どう? 皐月」

「私の知ってる青菜はもっと優しかった。穏やかって感じで、意地悪しなかったよ!」

「皐月が子供みたいに、私のせいにするからでしょ。自業自得だよ」

「もう、意地悪だ!」

「それに皐月が知ってる私も、今の私も、同一人物だよ」

「そうだけど、対応が若干違うー! そうだよね! 夏!」

 夏は、困り果てた顔をする。

「いやー、どうだろう。青菜は、いつも通りだと思うけど。というか、昔の皐月と青菜の絡みは記憶にないから分かんないよ」

「それはそうだけどさー」

「それに青菜は、優しそうな感じを出してるけど、意外とわがままだよ」

 青菜は、ムッとした表情をする。

「もう夏? そんなことないよね?」

「は、はい」

 皐月は、苦笑いをする。

「ねえ! 三人で勝負しない?」

 夏は、得意げな顔をする。

「お! いいね!」

「制限時間内に誰が一番多く景品を取ることができたかって感じでどう?」

 夏は、右腕をゆっくりと回す。

「いいじゃん。腕がなるなー」

「夏はゲーム苦手でしょ?」

「そんなことないし。青菜、なんか言ってやってよ」

 青菜は、ニヤッと笑顔を見せる。

「夏は、ゲーム苦手だよ」

「青菜ー。僕が男のくせにゲームが、なぜか苦手なことバラすなよ」

「私はそこまで話してないじゃん」

 皐月は、夏の背中を強く叩く。

「いた! 何するんだよ、皐月」

「男のくせに情けないから背中を叩いて根性を叩き直したんだよ」

「ここは昭和か」

「令和だよ」

「さいですか。だとしたら、時代錯誤なやり方だな」

 皐月は、微笑みながら青菜へと視線を移す。

「青菜はどう? この勝負乗る?」

「乗るに決まってるでしょ。私、こういうの好きなんだよね。みんなで勝負するの楽しいし」

「よし。それじゃあ、制限時間は三十分でどう?」

「分かった!」

「夏? 話聞いてた? 三十分間だよ?」

「うん。聞いてるよ。任せとけって」

「はいはい」

「適当に流すなよ。悲しくなるでしょ」

「夏のことは置いておいて始めるよ」

「まじか」

 皐月は、スマホの時計を確認する。時刻は、午後十六時だ。三十分後ということは、十六時三十分までだ。

「今から三十分! 十六時半になったらここに集合ね! よーい、スタート!」

 三人は、慌てながらそれぞれ別のクレーンゲーム台まで向かった。


 三十分後。時刻は、十六時三十分だ。三人とも元の位置に集合していた。

 夏は、手に持っている袋から大きなぬいぐるみ二つとファミリーサイズのお菓子の箱を取り出す。その時、誰が見ても分かるくらいのうざいドヤ顔だ。

「どう? 僕の優勝でしょ。皐月は?」

「私は、これ」

 皐月の小さな手から数個のスーパーボールが出てきた。皐月の顔からは、恥ずかしさと悔しさを感じる。

「皐月。さすがに僕の勝ちだね」

「負けたー! 夏に負けるしゃくー!」

「事実を受け入れなよ。僕に負けたという屈辱的な事実を」

「もう!」

「負けた皐月は置いておいて青菜は?」

 皐月は、夏のことを睨む。

「私も真似しないで。さっきの当てつけ?」

「そんなんじゃないし」

 青菜は、手に持っている大きな袋から取ってきた景品を出す。青菜の顔から、その景品が重いってことだけはとてもよく伝わってくる。

「これ、が、私の取ってきた、やつ」

 夏と皐月は、心配そうな目で青菜のことを見守っている。

「「!?」」

 青菜の持っている袋から出てきた景品は、なんと最新型のゲーム機だ。しかも、発売して数週間といった代物だ。

 夏は、青菜の持っているゲーム機にゆっくりと近づく。

「これって最新型のゲーム機じゃん。どこで手に入れたの? 発売日に即完売してたり、品薄になってたりしてるのに」

「なんか一回千円のクレーンゲームがあって、その景品がこれだった。この前、夏が欲しがってたやつでしょ?」

「そうそう! どこ行っても売り切れって言われたんだよね。まさか、こんなところで会えるとは」

「これ、夏にあげてもいいよ」

「本当に!?」

「うん。この勝負、私の勝ちにしてくれるんだったらね」

「え?」

「交換条件だよ。最新型のゲーム機に比べたら、勝ちを譲るなんて簡単なことでしょ?」

「うっ・・・・・・背に腹はかえられないか。分かった。僕の負けだ」

「やった! 私の勝ちね」

 青菜は、無邪気に飛び跳ねて喜んでいる。

 皐月は、その状況を見て、呆れた表情をする。

「本当、夏ってバカだよね。そんな交換条件飲むなんて」

「バカってなんだよ。この勝ちを譲るだけで、五万円くらいするゲーム機が無料で手に入るんだよ。乗らないわけないでしょ」

「全く違う。考えてみてよ。青菜なら、後日なんやかんやタダでくれるはずじゃない? だって、青菜はゲーム全くやらないし」

「確かに。もしかして、青菜、やった?」

 青菜は、わざとらしくきょとんとした顔をしている。

「何が? 私はただこの勝負に勝ちたかっただけだよ。そのために、とれる手は全てとるのは当たり前だよ」

「やられた」

「私に乗せられた夏が悪い。私を詐欺師扱いしないでよ」

「くっ・・・・・・」

 皐月は、青菜に近寄る。

「そういえば、青菜にお願いしたいことがあったんだけど、聞いてくれる?」

「うん、いいよ。どうしたの?」

「私の服を選んで欲しい」

「服?」

「うん! 私の服っていつもボーイッシュになっちゃうから、たまには違う系統も着てみたくて」

「分かった、いいよ。一緒に服選びに行こう」

「うん! ありがとう!」

 夏は、めんどくさそうな顔をする。

「まじでー? 青菜の買い物って長いで有名じゃん」

「別に長くないよ。夏がせっかちなだけじゃない?」

「男はみんな僕と同意見だと思う」

「本当にー?」

「うん」

「まあ、いいじゃん。とりあえず、行こう?」

「分かった」

 三人はゲームセンターから出たあと、エスカレーターを使って、二階に降りて行った。


 二階の端にある有名ブランドの服屋に、三人は来ている。そのブランドは、他の服屋よりも値段が庶民的で、バイト代や親からのお小遣いくらいしか、お金を得る手段がない学生にとっては心強い味方だ。

 レディースのコーナで三人は皐月の服を選んでいる。青菜は、さまざまな服を手に取って、皐月と重ねてコーデを考えている。

 夏は、周囲をキョロキョロして、恥ずかしそうな顔をしている。

「青菜。僕、外のベンチで座って待っててもいい?」

「だめ。普通に夏の意見も欲しい。それに、夏も皐月と思い出を作り続けないと、すぐ忘れられちゃうよ」

「そんなことないし。てか、僕は男だよ? こんな野郎の意見なんて参考になるのか?」

「意外と異性の意見って重要なの」

「そういうものなのか」

「そういうもの。分かったら、そこで大人しく待ってて」

「・・・・・・一ついい?」

「まだ何かあるの?」

「周りの視線が気になる。特に他の女性客からの」

「そんなの気にしなくていいよ。私たちが隣にいるじゃん。それに夏がレディースの服を触ってるわけじゃないんだし、大丈夫」

「う、うん。そうだよね」

 青菜は、ニコッと皐月に笑顔を向ける。

「これなんかいいんじゃない?」

 皐月の顔はほんのり赤くなっていて、照れているのが丸わかりだ。

「ちょっと私には、可愛すぎない?」

「このくらい可愛い感じじゃないと、普段通りのボーイッシュになっちゃうよ? 試しに試着しようよ」

「うん。そうしてみる」

 皐月は、手渡された数着の服を持って試着室まで向かった。夏と青菜は、皐月の入った試着室の前で立って待っている。


 約一分後。

 皐月は、試着室から恐る恐る出てきた。着ている服は、青色のワンピースだ。中に、白色のTシャツを着ていて、青色は明るいよりの色味をしている。全体的にさっぱりとした感じだ。

 青菜は、笑顔で皐月を迎え入れる。

「いいじゃん。よく似合っている。皐月は実際着てみてどう?」

「なんか普段感じない印象をパッと見受けたけど、これはこれでありだと思う! あと実は、ワンピースを着るのは人生初なんだよね」

「そうなの!? 全然いい感じだよ」

「ありがとう」

 皐月は、恥ずかしそうな顔をしながら、夏へのことを見る。

「夏、どう?」

「んー、いいと思うよ」

「ほんとに?」

「うん。確かに、皐月がワンピース着るのは初めてみたけど、意外と似合ってると思った」

「ありがとう! でも、意外とってことは、似合うと思ってなかったってこと?」

「あ、いや、訂正させて。とてもよく似合ってました」

 皐月は、ニコッと笑う。

「そうだよね。ありがとう」

「いえ」

 青菜は、何か思い出した顔をする。

「皐月?」

「どうしたの? 行きたいところでも思い出した?」

「うん、そうなんだ。それで、二人にお願いがあるんだけどさ、中には入らないけどその前まで行くのに付き合って欲しい」

「私は全然いいよ。むしろ私が一番二人を振り回しちゃってるから、文句の言える立場じゃないしね」

「ごめんね、ありがとう。夏は? まだ時間大丈夫?」

「僕は毎日暇人だから大丈夫」

「暇? 大学受験に向けての勉強は?」

「そのうちやるし」

「まあ、今はそんなことしてる場合じゃないからいいけどね」

 青菜は、皐月の手を握る。

「そうと決まったら、とりあえずその服買いに行こう」

「うん」

 皐月は、服を買った。購入した服を着ている皐月を連れて、夏と青菜は、再び三階へと向かった。


 到着した場所は、プラネタリウムの上映会場だった。上映時間が迫っているからなのか分からないが、多くの人が中へと入っていく。周囲や会場内から騒がしい声や音は全く聞こえない。むしろ異様なほど静かだ。まるで、市の図書館の中みたいな雰囲気や空気を感じる。

 夏は、不思議そうな顔をする。

「プラネタリウム? 青菜が行きたかった場所ってここ?」

「そうだよ。このショッピングモールが出来てから、ずっとここのプラネタリウムが気になってたんだ」

「青菜って星好きだったっけ?」

「興味ない」

「だよね」

「じゃあ、なんで?」

「理由とかよくない? なんとなく良いなって思ってて行きたかっただけ。それ以上でもそれ以下でもないよ」

「へー。女子ってよく分からないもんだね。理由がないとか」

 青菜は、皐月へと視線を移す。

「そういうこともあるよね」

「うん。青菜の言う通りだよ。夏だって例えば、なんで今の高校に通ってるの?」

「なんとなく」

「でしょ」

「確かに。青菜も行くし、友樹も行くし、僕もそうするかーって流されるがまま、高校受験をしたかもしれない。少なくともそこに僕の意思はないね」

「ほら! そういうこともあるじゃん」

「まあ」

 皐月は、入り口付近にある看板を見る。

「ねえ、見てー。今、期間限定で天の川が観られるらしいよ」

 夏は、何か疑問に思っていそうな顔をする。

「あれ、天の川って夏じゃなかったっけ? 今三月だけど、なぜこの時期に期間限定なんだろう」

「確かに。青菜ー。何か知ってる?」

「私も分かんない」

 すると、三人の背後に人影が現れた。

「君たち、ここで何をしている」

 夏たちは、驚いて後ろを振り返る。そこには、新香山先生の姿があった。

「先生。なんでここに」

 夏は、右足を一歩後ろに下げる。

「君たちをあちこち探してたの」

「僕たちを? なんでですか?」

 青菜は、何かを思い出した表情をする。

「あ、そういえば、今日って特別登校日の日じゃなかったっけ?」

「特別登校日・・・・・・!? あ、すっかり忘れてた。やらかした」

 新香山先生は、ニコッと微笑む。その笑顔は、穏やかで優しそうに見えるが、どことなく静かな怒りを感じる。

「忘れないでねってあれほど念押ししたわよね? 二人とも覚えてる?」

「「はい。すみません」」

 新香山先生は、深くため息をつく。

「それで? そこの羽衣を着ている君は? まさかうちの生徒じゃないでしょうね」

「違います。二人とは、別の高校です」

「そうなんだ。なら、よかった。ところで、その羽衣はなんで身につけてるの? あのプラネタリウムで、天の川が期間限定公開されているからコスプレしているの?」

「違います。これには深い事情があって」

 新香山先生は、何かを疑うような目で皐月のことを見る。

「そうなんだ。第三者からの意見だけど、君、完全に変な子よ」

「うっ・・・・・・」

 夏は、気まずそうな顔をする。

「すいません。そのくらいにしてやってください」

「分かったよ」

「先生」

 夏の表情が改まった感じに変わる。

「どうしたの?」

「この子は、前話したことのある皐月です。覚えてないかもしれませんが・・・・・・」

「あー、あの子か。それでどうかしたの?」

「え? 覚えてるんですか?」

「バッチリと覚えてる。というか、この際だからいうけど、私は皐月の親戚だよ」

「え?! そうなんですか!」

「うん」

 夏は、動揺しながら皐月のことを見る。

「本当?」

「私、この人知らない。本当に親戚なんですか?」

 新香山先生は、ゆっくりと頷く。

「最後に会ったのは、君が三歳とかそこらの年齢の時だから、覚えていないもの無理はない。間違いなく、親戚だよ」

「全く覚えてない。証拠とかあるんですか?」

「証拠? そうだねー、これとかどう?」

 新香山先生は、スマホを操作して、画面に写っている写真を三人に見せる。その写真には、小さい女の子と中学生くらいで制服姿の少女が、仲良く手を繋いでいた。

 皐月は、驚いた表情をする。

「確かに。この小さい女の子は、私です。思い出した。そういえば、小さい頃よく遊んでもらってたお姉さんがいた。もしかして、そのお姉さんですか?」

「そうだよ。家の前の公園で遊んでた」

「でも、突然いなくなったと思うんですけど」

「うん。親の転勤で、静岡に引っ越したんだよ。それに、私も受験とか学校生活とかで色々忙しくなっちゃって、名古屋に戻ることはなかったんだ」

「静岡・・・・・・そうだったんですか」

「また会えて嬉しいよ」

「私もです! 色々話したいです!」

「そうだね。そうしたいのはやまやまだけど、今はこの二人の相手をしなくちゃね」

 夏と青菜は、嫌そうな顔をする。

 新香山先生は、真面目な顔になる。

「二人とも何か上手い言い訳はある?」

「「ないです」」

「分かりました。では明日、朝八時に学校まで来てください。やることがあるので」

 夏は、明らかにめんどくさそうな表情になった。

「えー、まじですか」

「まじです。いいね?」

「はい」

「それじゃあ、全員今日は大人しく帰りなよ」

 新香山先生は、エスカレーターに乗って下に降りて行った。

 夏は、重いため息をつく。

「終わった。明日学校に行かないと。二人とも今日はもう帰ろう。ちょうど良い時間だし。青菜。解散でいい?」

「私は大丈夫だよ。皐月も付き合ってくれてありがとう」

「全然! 今日は楽しかった。またみんなで遊ぼうよ!」

「そうだね。また思い出、作ろう!」

 夏は、エスカレーターに向かう。

「それじゃあ、帰ろー!」

 三人は、エスカレーターに乗って一階まで戻り、そのまま家まで帰った。

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