信義背徳エイリアン
Yukl.ta
第1話 エイリアン襲来
人類が宇宙の深淵に、僅かに近付いた時代。
地球から、およそ30000kmの宇宙。
某国の宇宙ステーション内。
その研究室区画の飾り気の無い円形の耐圧窓から、機外に目を向ける男が一人。
ハカセ。彼は機内では皆からそう呼ばれている。
「さて、一休みするかね。」
研究の手を止めた彼が眺める、宇宙空間。
そこには数えきれない星々が暗黒の宇宙(そら)に輝いていた。
地球から遥か彼方に漂う宇宙ステーション。
その機内に在住する搭乗員は僅か数名。片手で数えられる程である。
この広大な宇宙空間の中。
自分達人間は、はなんとちっぽけな存在なのか。
宇宙。それは、絶対真空の空間。
生身で放り出されれば、血液は沸騰し、目玉は眼窩から飛び弾ける。
身体中の穴という穴から血液が蒸発しながら噴射し、内臓が真空空間に引き摺り出される。
身を護る大気の膜は無く、太陽の強力な電磁波や宇宙線が絶え間無く振り注ぎ身体を蝕む。
それだけではない。
絶対の真空がもたらす絶対零度。-270.42度。
全てのものが一瞬で凍りつき、活動を止める。
宇宙ステーションの周囲でさえも、日向は120度。日陰は-150度。
耐えれる生物は存在しない。
そして、無重力…慣性を止める法則は存在しない。
宇宙に放り出されれば、何かに衝突したり引き寄せれない限り、永遠に動き続ける。回り続ける。
10年でも。100年でも。命尽き、身体が朽ちて枯れ果てても。永久に。
例えばもし。船外活動中に命綱が切れ…。
広大で果てしない宇宙空間に一人が投げ出され漂うなんて事態になったら…。
絶対に助からん。
くわばらくわばら。
そんな妄想を一頻り浮かべたあと。
ハカセは研究作業に戻った。
ーーーーーーーーーーーー
[ウウウウウゥウウウウウゥウウウウウゥ…]
宇宙ステーション機内に、耳障りな警報が鳴り始めた。
「なんだ、どうした!」
突然の警報が鳴り響く中、搭乗員のゴウダは何事かと叫ぶ。
「誰か! 誰かいないのか!」
しかし、機内の通路には誰一人として見当たらない。
警報が鳴り始めてから数分後。
「あ、おい!」
やっと他の搭乗員を見つけた。
ホネカワと呼ばれる搭乗員だ。
「何があったんだ!」と叫ぶゴウダ。
「僕にもわからない…」と返事を返すホネカワ。
「他の搭乗員とは連絡がとれないのか!」大声を挙げるゴウダ。
腕っぷしが強いゴウダは機内の作業で重宝されるが、長い宇宙生活でストレスを溜め込んでおり、その粗暴さが目立つようになってきている。
隣にいるホネカワは神経質そうな顔をゴウダに向け、
「こんな異常事態は初めてだ。コントロール室に向かおう」そう冷静に提案する。
取り敢えず、何はともあれ、事態の把握が最優先だ!
そう判断したゴウダとホネカワは、ステーションの中心にあるコントロール室に向かって走り出した。
コントロール室に辿り着くゴウダとホネカワ。
開閉扉の隣にあるパネルにコードを入力し、扉を開く。
…その先には、想像を絶する光景があった。
普段なら、様々な計器類とモニター、操作パネルの多種多様な電光色で埋め尽くされている筈の空間、
しかし今は…。
計器類もモニターも、真紅に染まっていた。
ゴウダが息を飲む。
その原因を、目にしてしまったからだ。
椅子に腰掛けた乗組員。
その首が、無い。
床にも腕が転がっている。
それだけではない。
壁を背にして倒れている搭乗員。一目で息がないことが解る。四肢がバラバラにされていたからだ。
死体の淀んだ色をした両眼が、二人を見つめる。
本来、コントロール室にいる筈の搭乗員が…殺されていた。
「な、なんだこりゃ…」とゴウダ。
「まさか…」とホネカワ。
絶句する二人。
言葉を失いながらも、二人は室内に生存者がいないかを確認する。
だが…。
…生きているものはいなかった。
死体は皆、バラバラに切断されている。
「こんなことができる奴は普通じゃねぇ!」
恐怖と興奮に唾を撒き散らすゴウダ。
「…何者かが侵入したんだ!!」
ゴウダの言葉に頷くホネカワ。
「何があったのか、確かめよう。」
映像が残っているかもそれない。
そう言って、ホネカワはパネルの一つを操作する。
その間、ゴウダは非常用に備えられていた拳銃を取り出し、周囲を見張る。
数分後…。
「おい。ホネカワ! まだ解らないのか!」
苛つくゴウダが汗ばんだ手で拳銃を握り締める。
「解った…。だが…これは…。」
モニターに映る映像を見て表情を曇らせるホネカワ。
「何があったんだ!」
見せろ!
そう言ってゴウダが映像を見るためにホネカワを押し退ける。
「あ、待て!」
「……なんだこりゃ?」
映像の中に映っていたのは…。
体長2mの…異形の怪物だった。
その怪物が、船内を闊歩しているのだ!
しかも、二体!
「……なんだこりゃ?」同じ台詞を繰り返すゴウダ。
相当に困惑しているのだろう。
「この録画映像を見る限り、犯人は…人じゃない。」
「まさか…エイリアン…」異形の宇宙生物。
ゴウダの頭に浮かぶイメージはそれだった。
「…そうかもしれない」。
頷くホネカワ。その額には汗が浮かんでいた。
「他に生存者がいないか、調べるぞ!」
額の汗を拭きながら、ホネカワがパネルを操作する。
生き残りの人間を示す生命反応は…。
「よし!研究区画に生体反応がある!」
喜びに顔を挙げるホネカワ。
二人は周囲を警戒しながら、生命反応のあった研究室区画に向かう。
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