恋人つなぎをしてきたのは君の方なのに
月見だんご
淡い物はいずれ苦く
それは僕がまだ、それを恋人つなぎとは知らない時だった。
「手を繋ごう」と君が言う
君は僕の手をそっと取り、
指を絡ませる。
そして、二人並んで歩く。
この光景がずっと続けばいいと、
続くはずだと、
勝手に思い込んでいた。
だから
久しぶりに君に会えるチャンス。
僕は人混みの中必死に君を探した。
白い頬に
はっきりした目鼻立ち。
艶やかな髪の毛
君だと、一瞬でわかった。
目が合う。
僕が手を振る。
君も笑って、手を振り返してくれると、
そう、
思い込んで。
彼女が僕を見た。
途端に、
どこか気まずいような
苦い笑みを浮かべた。
その時になってやっと、
探していたのは僕ではない。
人混みの中、会いたかったのは僕なんかではないということがありありと伝わってきた。
にごった笑みに続く、
「久しぶり」の言葉。
まったくうれしくなさそうな。
口角を引き上げただけの、ぎこちない笑み。
口に出そうとしていた言葉が、
会えたら話そうと作っていた会話が
すべて頭の上っ面を滑って消えていく。
そんな顔、してほしかった訳じゃないのに…
彼女の目が僕を通り過ぎる。
すると同時に、
鮮やかな、はじけるような笑顔になる。
そして僕の横を走り去り、
どこか遠くへ行ってしまった。
別にまた、恋人つなぎをしたい訳じゃない。
ただ、前のように、
あの笑顔を、
はじけるような人懐っこい笑みを見て、
どうでもいい人間なんかじゃなく、
駆け寄って来てくれるだけで、
別れを惜しんでくれるだけで、
それだけでよかったのに。
どうしてそれすらも叶わないのだろうか。
恋人つなぎをしてきたのは君の方なのに
僕は君にとって、
そんなにも、
どうでもいい人間だったんだね。
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