戦闘力ゼロと追放された俺のスキルは、全ての最適解を導き出す【データ分析】。論理的に成り上がり気づけば一国の宰相に
藤宮かすみ
第1話「追放宣告とスキル【データ分析】」
「アッシュよ。お前は今日限りで勇者パーティーから追放する」
冷たく響いた声の主は、この国の王女セレスティアだった。彼女の美しい顔はゴミでも見るかのように歪んでいる。俺の前には勇者カイトを始めとするパーティーメンバーが勢揃いしていた。誰もが王女の言葉を肯定するように冷ややかな視線を向けてくる。
「理由をお聞かせ願えますか、王女殿下」
俺は努めて冷静に問いかけた。まあ理由は分かりきっている。俺の固有スキル【データ分析】が彼らにとって全く役に立たないと思われているからだ。
セレスティア王女は扇子で口元を隠しながら嘲笑う。
「理由? そのようなものが必要かしら。あなたのスキル【データ分析】は戦闘の役には立たないただの数字遊び。モンスターを前にして確率がどうとかドロップ率がどうとか……そんな戯言、聞き飽きましたわ」
「しかし俺の分析によって危険を回避し、効率的な攻略ルートを提案してきたはずですが」
「黙りなさい! 結果としてあなたのせいでパーティーの進軍速度は落ちているのよ! 勇者カイトの豪剣一振りで解決することを、ちまちまと分析するなど時間の無駄!」
隣に立つ勇者カイトは気まずそうに視線をそらしながらも「すまないアッシュ。俺たちにはもっと直接的な力が必要なんだ」とつぶやいた。他のメンバーも同様だ。魔法使いはより強力な攻撃魔法を求め、神官はより偉大な回復の奇跡を求めている。俺の「最適化」という概念は、この脳筋集団には理解できないらしい。
まあいい。もともと元の世界でデータサイエンティストとして働いていた俺にとって、この体育会系のノリは正直しんどかった。深夜までデータを分析し最適なソリューションを提案しても、上司の鶴の一声で全てが覆る。そんな理不尽を経験してきた俺にとってこの追放はむしろ好都合かもしれない。
「分かりました。俺はパーティーを抜けます」
俺はあっさりと承諾した。セレスティアは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに勝ち誇った笑みを浮かべる。
「物分かりが良くて助かるわ。ああ、言い忘れていたけれど、あなたに支給した装備は全て返してもらうわね。もちろんこれまでの報酬も。役立たずを養ってあげた費用として相殺させてもらうわ」
「……は?」
さすがにこれには呆れた。装備一式と金貨数枚を奪われ、俺は文字通り召喚された時の服一枚で城から放り出された。ひどい仕打ちだ。これが異世界名物、追放イベントか。
城門を背に俺は大きく伸びをした。
「さて、これからどうするか」
まずは情報収集と資金稼ぎだ。幸い俺には【データ分析】スキルがある。
俺がスキルを発動させると、視界の隅に半透明のウィンドウが展開される。そこには膨大な情報がリアルタイムで流れ込んでくる。
《現在地:王都アストリア周辺》
《気候:晴れ》
《気温:22℃》
《所持金:0ゴールド》
《直近の最適行動予測:》
《選択肢1:王都西の森で薬草採取。期待収益:300ゴールド/日。生存確率:98.5%》
《選択肢2:日雇い労働。期待収益:150ゴールド/日。生存確率:99.8%》
《選択肢3:冒険者ギルドで雑用。期待収益:100ゴールド/日。生存確率:99.9%》
「なるほどな。薬草採取が最も効率的か」
俺のスキルは周囲の環境や状況をデータ化し、未来を予測して最適解を提示してくれる。戦闘には直接役立たないが、生き抜くための戦略を立てる上ではこれ以上ない最強のスキルだ。あの王女も勇者もこのスキルの本当の価値を全く理解していなかった。
俺はウィンドウに表示された生存確率98.5%という数字をにらむ。残りの1.5%はモンスターとの遭遇リスクだろう。
《リスク分析:ゴブリンとの遭遇確率1.2%、スライムとの遭遇確率0.3%》
《推奨装備:最低限の棍棒、革の鎧》
《現在の装備でのゴブリンとの戦闘シミュレーション:勝率3.2%》
「勝率3.2%か……。丸腰じゃ話にならないな」
まずは武器と防具を調達する必要がある。だが金がない。
俺は思考を切り替える。金がないなら金になるものを拾えばいい。
《王都周辺の換金可能アイテム探索》
《解析中……完了》
《地点A(城壁の裏手):希少な苔『月光苔』。薬の材料。期待値:50ゴールド》
《地点B(市場のゴミ捨て場):鉄屑。武具の修理素材。期待値:20ゴールド》
「よし、まずは月光苔だな」
俺は人目を避け城壁の裏手へと向かった。そこにはスキルが示した通り、石垣の隙間に青白く光る苔が生えている。これを慎重に剥がし布に包む。
次に市場へ向かい、ゴミ捨て場から使えそうな鉄屑を拾い集めた。
薬屋と鍛冶屋をはしごして合計70ゴールドを手に入れた俺は、その足で武具屋へ向かう。一番安い棍棒と中古の革鎧を購入。残った金で保存食と水袋を買った。
準備は整った。
「さて、行くか。俺だけの異世界攻略を始めよう」
俺は西の森へ向かって歩き出した。もはや俺を縛るものはない。あの息苦しいパーティーから解放された今、胸がすくような開放感があった。
後悔させてやるなんて陳腐なことは言わない。
ただ俺は俺のやり方で、この世界で最も賢く最も効率的に成り上がってやる。全てはデータが示してくれるはずだ。
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