第9話 想いの交差点

雨上がりの夕方、駅前の交差点。

傘の水滴が歩道に小さく跳ねる。

健人は駅に向かう途中、ふと人混みの中で立ち止まった。


「……美久?」


目の前に立っていたのは、傘を手にした美久だった。

健人と目が合うと、彼女は少し照れたように微笑む。


「健人くん……久しぶり。」

「うん。ちょっと、用事があって……。」

「私も、偶然、帰り道で。」


まるで運命のいたずらのように、二人の足は自然と交差点で止まった。

人々が行き交う中で、世界が二人だけの時間に変わったように感じる。


* * *


駅のベンチに腰を下ろすと、健人はふと聞いた。

「美久、やっぱり異動の話、考え直した?」

美久は少しだけ視線を伏せ、そして微笑む。

「ううん、決まったことだから。でも、健人くんに会うと、不思議と勇気が出るんだ。」


健人は彼女の手をそっと握る。

「俺もだ。会うと、なんだか安心する。」


二人の手の温もりが、静かに心を満たす。

過去の失恋や不安も、今の時間の前では意味を失っていくようだった。


「ねえ、健人くん。」

美久が小さく息を吸う。

「ずっと、私のこと……どう思ってた?」


健人は少し笑いながら答えた。

「昔のことは正直、あまり気づいてなかった。でも、今は……お前と一緒にいると、胸が落ち着くし、笑顔が自然に出る。」

美久の頬がほんのり赤くなる。

「それって……」

「好きだってことだ。」


美久の瞳が輝いた。

「……私も、健人くんのこと、大好き。」


その一言に、健人は強く頷き、彼女の手をぎゅっと握り返す。

「じゃあ、もう離れないな。」

「うん、絶対に。」


* * *


駅前の交差点で、二人は人々の波に包まれながらも、世界が止まったかのような時間を過ごす。

街灯に照らされる二人の影が、重なり合い、ひとつになる。

その瞬間、健人は確信した。


——どんな困難があっても、この人と一緒に歩いていきたい。


美久も、健人の手を握り返しながら、心の中で同じ決意をしていた。

過去の孤独や失恋も、今となっては二人の絆を強めるものだった。


「これからも、一緒だよね?」

「もちろん。」


雨上がりの交差点で、ふたりの心が完全に重なった瞬間だった。

未来はまだ不確かだけど、確かな想いが二人を結んでいた。

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