九十六式歩行空挺戦車、ハイエルフと旅をする。
touhu・kinugosi
第1話、雷。
赤と青の二つの月。
緑豊かな森林。
木々の間に岩のようなものが立っていた。
高さは4メートルくらいか。
表面にびっしりと茂った苔が、ソレが長い間ここにいたことを物語っている。
元の世界でソレは、”九十六式歩行空挺戦車”、と呼ばれていた。
森林の天気は変わりやすい。
快晴だった空が一転、黒い雲に覆われる。
ゴロゴロ、ピシャアアア
それは偶然の産物だ。
ソレに落ちる雷。
苔の一部が吹き飛ばされる。
群青色の機体に赤い丸印がついていた。
パリパリパリイ
表面を走る小さな稲妻。
背部バックバックの左右に小さなスリットが開いた。
シュウウウ
かすかな排気音。
周りの白い綿毛が軽く舞う。
パチリ
コックピット内に小さなスパーク。
ピピピ
小さな警告音とともに、操縦席前の、情報集中型メインモニターに明かりがともる。
メインモニターに、”
その後、小さな
赤い背景の
――セカンダリPCのアプリに複数の矛盾点が発生。
――プライマリPCおよび、
――起動完了
この間、約2秒弱。
ここに、九十六式歩行空挺戦車が目覚めた。
『搭乗者である、”田中太一三佐”の死亡を確認』
『死因は大量の放射能を浴びたことによる即死』
『死後、五十(ジジッ)〇×※年と思われる』
操縦席にはミイラ化した操縦者。
ヘルメットとパイロットスーツ。
・・・・・・
「…………」
空挺降下用に固定されていた首を解除。
上に伸ばし周りを見た。
クルンと360度回る。
少し離れたところに見事な大樹がある。
「充電率、10パーセント」
「落雷によるダメージは軽微」
「各部、各関節、時間凍結解除」
ガクン
全身に小さな痙攣が起こる。
シュ・シュウウウ
かすかなモーター音とともに立ち上がった。
高さは7メートルくらい。
森の木々を避けながら大樹の根元に移動する。
「立派な木だ」
木の根元に人一人、入るくらいの穴を掘った。
穴の前に膝まづく。
プシュウ
操縦席が前に出た後、下にスライドする。
席内の医療用サブアームで、田中三佐の遺体をゆっくりと穴の中によこたえた。
本来なら担架やストレッチャーに負傷者を移す機能である。
また、医療マシンとしての機能もあるのだ。
土をかけ手ごろな石を墓石として置いた。
”銀河”と書かれたタバコに火をつけた。
線香かわりの紫煙が周りに漂う。
「……さてと、残り5パーセントか」
「水場を探さねば……な」
膝まづいていた体勢から立ち上がった。
――高性能集音機作動
「流水音を探知、あちらか」
水音のほうへ歩き始めた。
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