4話…合コン。

 夜18時半。奏恵ちゃんとの約束通り、駅前に来た。


奏恵「悠愛センパイ。」

悠愛「奏恵ちゃん。」

奏恵「待ちました?」

悠愛「ううん。今来たとこ。」

奏恵「良かったです。他のメンバーはもうお店に行っているので、行きましょうか。」

悠愛「うん!」


 私と奏恵ちゃんは、お店に向かう。


奏恵「ところで、悠愛センパイがつけてる今日のピアス、可愛いですね。しかも、結構高そう……」

悠愛「ああ、うん……似合ってないかな?」

奏恵「いえ、とても似合ってます。」

悠愛「よかった。」


奏恵「でも、結構高そうですよね。どうしたんですか?ボーナスの時期でもないのに。」

悠愛「えっと……貰い物、なんだ。」

奏恵「貰い物?彼氏とか?」

悠愛「まさか!私が専門学生以来彼氏がいないのは、奏恵ちゃんも知ってるでしょ?それに、こんな私に彼氏が出来たなら、奏恵ちゃんには真っ先に言うよ。」


奏恵「でも、こんな高価な物を貰うなんて、そのお相手は相当悠愛センパイのことを好きなんじゃないですか?」

悠愛「あー、うーん……どうだろ。そういうんじゃないと思うよ。」

奏恵「え?」

悠愛「その人はただ、私を堕としたくて、渡したらしいし。」

奏恵「堕とすって、完全に目をつけられてるじゃないですか。つまり好きってことじゃないんですか?」

悠愛「好きとはまた別の、堕としたいってだけみたい……かな。」

奏恵「……?どういうことです……?」

悠愛「うーん、説明が難しいな……」


 後輩に、自分の失態を話のも恥ずかしいし、説明が出来ない。

 と、そうこうしている内にお店に着いた。辿り着いたお店は、お洒落なフレンチレストランだった。

 普通合コンといえば、居酒屋でするのが多いが、奏恵ちゃんがセッティングする合コンは、いつもお洒落なお店である。それは今日も変わらず、お洒落なお店だ。


奏恵「まあ、その話はまた今度聞きますね。では、今日は楽しみましょう。」

悠愛「あ、うん!」


 お店へ入ると、女子メンバーが2人。男子メンバーが4人いた。この合計8人で合コンをするらしい。

 男子メンバーを見てみると、全員爽やか系と言える感じの人達だった。モテ筋って感じだ。よくこんな人達を集められるなぁ……。奏恵ちゃんの人脈って、どうなってるんだろう……。


奏恵「えー、今日はお集まりくださり、ありがとうございます。」


 それぞれにドリンクが行き渡ったところで、主催者の奏恵ちゃんが、音頭を取った。


奏恵「お互い、素敵な出逢いになりますよう……乾杯。」

「「「かんぱーい!」」」


乾杯すると、すぐさま2人1組の状況になる。


?「可愛いですね、えっと……日景 悠愛さん、でしたよね?」

悠愛「?私、自己紹介しましたっけ?」

?「僕は、事前に今日のメンバーのことを調べていたんです。何しろ、職業が探偵なもので……」

悠愛「探偵が仕事なんですか!?凄いですね。えっと……」


?「ああ、僕は喪原 基もはら はじめと言います。」

悠愛「喪原さん。」

基「基でいいですよ。」

悠愛「わかりました。基さん。」


基「何だか、悠愛さんとは初めて会ったとは思えないくらい、懐かしさを感じますね。」

悠愛「懐かしさ……ですか?」

基「ずっと昔から知っているような……そんな、感覚がするんです。」

悠愛「な、成程……?」

基「もしかして、本当に昔に出会っていたり……ね?」


 そうウインクしながら、私に爽やかな笑顔を向ける基さん。


悠愛「うぐっ……!」

基「だ、大丈夫ですか?」

悠愛「大丈夫、です……。私、専門学生以来、彼氏がいたこと、なくて……ちょっと、男の人に、慣れていないんです……。だから、基さんのセリフに、ときめいてしまって……」


基「ふふ、悠愛さんは純粋なんですね。」

悠愛「純粋というか、ただ幼いだけだと思いますよ……。よく兄達から言われますから。『悠愛は幼いから、悪い男に捕まらないか心配だ』って。

基「お兄さんがいるんですね。確かに、悠愛さんほど純粋な方であれば、心配にもなるでしょうね……。でも、それだけ御家族からは愛されている証拠でも、あるのでは。」

悠愛「あはは……まあ、確かに私は両親からも兄達からも、溺愛されて育った自負はありますね。」

基「いいことですね。」


 そんな話を続け、気づけば私は、基さんと意気投合していた。基さんは話し上手だし、聞き上手という印象だ。流石、探偵を職業にしているだけある。

 気づけば、夜の21時前。一応他の男の人とも話したが、矢張り基さん……彼のことが気になってしまった。

 他の人と話している間も、チラチラと基さんの方ばかり見てしまう始末。


 そうして、合コンは終わりの時間を迎えた。


奏恵「今回はどうでしたでしょうか。皆さん、いい出逢いになっていたら、嬉しい所存です。

それでは、合コンはお開きです。この後のことは、ご自由に。」


 そう奏恵ちゃんが締め括ると、それぞれが動き出した。まあ、合コンといえば……お持ち帰りや二次会が定番だから。

 

 私はどうしようか……と、考えていると。


基「悠愛さん。」

悠愛「!基さん。」

基「悠愛さんはこの後、誰かと二次会に行く予定はありますか?」

悠愛「あ、いえ、二次会のお誘いは、今のところ誰からも……」

基「そうですか。それはよかった。」

 

 そう言うと、基さんは私の左手を取り、その私の左手にキスをしながら、こう言った。


基「この後、僕ともう1杯飲みに行きませんか?いいお店を知っているんです。是非そこで、悠愛さんのことをもっと知る為に、お話出来たらと思います。」

悠愛「あ、えっと……はい、お願い、します……」


 そんな、物語に出てくる王子様のようなことをされて、誰が断れるという。否、誰も断れない筈だ。男の人に慣れていない私なら、尚のこと。


基「よかった。では、行きましょうか。」


 基さんは、私の手を引きそのお店に連れて行く。

 

 ……だけど、何でだろう。

 これだけカッコよくて、素敵な人なのに……この人に手を引かれるよりも……彼。

神楽さんに手を引かれた時の方が、胸が高鳴ったような気がするのは、何でなんだろう。


 そんな疑問が頭をもたげながら、私は基さんとフレンチレストランを、後にした。


______________________________________


 基さんに連れられたのは、アンティークなバーだった。何となく、見覚えがあるなと思ったが、私が思い出せることはなかった。


基「ここ、僕の行きつけのバーなんです。このアンティークな感じが、とても気に入っていて。」

悠愛「ああ、何かわかります。探偵といえば、アンティークな部屋にいそうですもんね。」

基「探偵といえば、と言うのがよくわかりませんが……まあ、気に入っているんです。」


 そう基さんは、私のセリフに苦笑いを零しながら、メニュー表を見せてきた。


基「バーと言えばカクテルですが、このバーは凄いんですよ。年代物のワインを取り揃えていて、予約をしていなくても、その人の誕生年のワインが飲めるんです。」

悠愛「へぇ。それは凄いですね。」

基「悠愛さんは、1998年生まれですよね。それを飲みましょうか。」

悠愛「え、いいんですか?」

基「勿論。」


悠愛「でも、高いんじゃ……」

基「確かに、50年物や60年物レベルになれば、値段も張りますが、90年物くらいなら、そこまで高くないですよ。

僕達が出会った記念に、どうです?」

悠愛「あ、ありがとう、ございます。」

基「では、マスター。1998年物のワインを1つ。グラスは2つで。」

マスター「かしこまりました。」


 白髪混じりの髪をオールバックにし、髭を蓄えたマスターは、注文を受けると、裏へ行ってしまった。


基「ところで、悠愛さんがつけているピアス……最近流行りのハイブランドの物ですよね。」

悠愛「ああ、はい。実はこれ、貰い物なんです。」

基「貰い物?誕生日プレゼントですか?」

悠愛「あ、いえ、そういうんじゃなくて……」


 奏恵ちゃんにも説明しなかったことを、初対面の人に話していいものかとも悩んだが、何となく……自分の中で、夕梨花に聞いて貰っただけじゃ、消化し切れていないのも事実で。

 私は恥を忍び、基さんにこないだ起こった一部始終を話した。


基「成程……そんなことが……」

悠愛「いや……本当、この歳になってお酒で失敗するなんて、恥ずかしい話なんですけど……その、ストレスというか、自分の中で不満や不安が溜まっていたのもあって……」


基「ですが、いきなり手を出すなんて、不躾ですね。悠愛さんは酔っていたのだから、お互いの了承を得たとも言い難い。訴えたら、勝てるかもしれませんよ?」

悠愛「う、訴えるって……」

基「まあ、お金に困っていないところを見ると、示談に持ち込まれそうですがね。」


悠愛「……でも、別に私は、そんなつもりは……」

基「許してはダメですよ。許可もなくそういうことをした相手は、万死に値しますから。」


 そんな話をしていると、マスターがワインを持ってきてくれた。


マスター「お待たせしました。」

基「ありがとうございます。」

マスター「それでは、ごゆっくり。」


 持ってきたのは、ラベルに1998年と書かれた、赤ワイン。ワインを飲むなんて久しぶりだなぁ。私は何でも飲めるけど、普段は酎ハイやカクテルばかり飲んでいる。ワインは安物だと悪酔いしてしまうからだ。


基「では、飲みましょうか。」

悠愛「あ、はい。」

基「僕、悠愛さんと出会った時、初めて会った気がしないと言いましたよね。」

悠愛「そうですね。」

基「話していると、その気持ちが段々と膨れ上がってきて……もしかしたら、これが運命ってやつなのかもなって思って。」

悠愛「運命……ですか?」


《ピロン》


 と、そんな会話をしていたら、私のスマホが通知を受け取った。


悠愛「あっ……」

基「確認してもいいですよ。」

悠愛「すみません。」


 スマホをカバンから取り出し、見てみると……表示は《神楽さん》からだった。

 メッセージを確認すると……


神楽『今、何処にいる?』

悠愛「………」


 どうしよう……。居場所を伝えると、来ちゃうかもしれないよな……。こんないい雰囲気のところに、来られると困るというか……。


基「どうかしましたか?」

悠愛「あ、いえ!大丈夫でした。」


 私はそう言い、スマホを急いでカバンの中に仕舞った。こんないい雰囲気、壊されたくない。だから、神楽さんからのメッセージは無視することにした。


悠愛「それで、運命って言いましたよね。それって、どういうことですか?」

基「僕、これまで運命ってものは信じていなかったんですけど、悠愛さんと出会った時、本当にこれが運命なんだなって感じて。」

悠愛「でも、私も……初めて会った気がしないってわけじゃないんですけど、基さんとは話しやすくて、運命的かもしれないと思いました。」


基「ふふ、同じことを感じていただけていたなんて、嬉しいですね。

それでは、そんな僕らの出逢いに……乾杯。」

悠愛「乾杯。」

基「このワインはとても飲みやすいものだと思いますよ。ささ、グイッといってください。」


 そう勧められ、私がワインを飲もう……とした、その瞬間。


?「ちょっと待った。」


 私の手首を掴む、聞き覚えのある声。その腕を辿ると……

 息を切らしながら、ワインを飲もうとする私を止める、神楽さんだった。


悠愛「か、神楽さん……!?」

神楽「ほんっと、悠愛ちゃんって危機感ないよね。そんなんじゃ、どんな目に遭っても、文句言えないよ?」

悠愛「うっ……。で、でもどうして、私がここにいるって……」

神楽「勘……もありけど、この男のやり口を調べたからね。」

悠愛「この男の、やり口……?」

神楽「知ってる?悠愛ちゃん。お酒にある薬を入れて混ぜると……色が変わるって。」


 それを証明するかのように、神楽さんは私のワイングラスを持ち、ユラユラとワインを混ぜるように揺らすと……ワインは、青く染まった。


悠愛「……!?」

神楽「まあ、この色なら睡眠薬の類かな。で、お前……最近この辺りで噂になってる、強姦魔だろ?」

基「っ……な、何のこと、ですかね……」


神楽「テメェのやり口はわかってんだよ。甘い言葉を吐いては、相手を油断させて、睡眠薬入りの酒を飲ませて相手の意識を混濁させては、襲ってるってな。

職業が探偵ってのを利用して、合コンに混じり込んではチョロそうなヤツを事前に調べておいて、やってんだろ?」

基「っ……」

神楽「選べ。今すぐここに警察呼ばれて捕まるか、大人しく手を引いて逃げるか。」

基「……くっ……ここは、大人しく手を引いた方がよさそうですね……」


悠愛「は、基、さん……?嘘、ですよね……?」

基「はは、嘘……と言いたいところですが、残念ながら、この男の言う通りだ。まあ、手の内が明かされてしまったなら、もう無理ですね。」

悠愛「そんな……」


基「女なんてバカですよねぇ。運命なんて、そんなあるわけないものを信じて……そんなあるわけないものに騙されて、ホイホイ釣られるんだから。愚かとしか言いようがない。」

悠愛「………」

基「悠愛さんも、バカな女の1人だ。流石、家族に溺愛されて育っただけある。世間知らずというか……少しは疑ってかかった方がいいのに、信じちゃって。」

神楽「おい。」

基「なん___」


《ドガッ》


 と、神楽さんは基さんを殴った。


基「!!」

神楽「これ以上、悠愛を侮辱すんなら……殺すぞ。」

基「っ……分が悪いですね……。まあ、邪魔が入ったことだし、退散するとしましょうか。」


 フラフラと立ち上がり、基さんは走ってその場を去っていった。


悠愛「……神楽さん!」

神楽「悠愛ちゃん、大丈夫?」

悠愛「大丈夫、です……神楽さんが、守ってくれたから……」

神楽「そ。なら、よかった。」


 そう言いながら、神楽さんは私を抱きしめた。


悠愛「でも、どうして……」

神楽「……あー、何か、ヤな感じがしてね。だから、悠愛ちゃんにメッセージしたんだけど、既読はついても返事がなかったから、急いで来て……」

悠愛「よくここだってわかりましたね。」

神楽「元々あいつに目をつけてたってのもあるけど……ここ、俺も行きつけだから。」

悠愛「行きつけ?」

神楽「ほら、あそこ。」


 と、神楽さんが指差した先。そこにあったのは、ダーツとビリヤードだった。


悠愛「!ビリヤード……」


 神楽さんは、ビリヤードが好きだと言っていた。なら、ビリヤードが置いてあるこのバーは、確かに神楽さんの行きつけになるだろう。

 どうして、入った時点で気づけなかったのだろう……。まあ、おかげで助かったのだが。基さんには申し訳ないが、このお店を選んでくれてよかった。


神楽「それに、俺と悠愛ちゃんが出会ったのも、このバーだよ。」

悠愛「!そっか、だから見覚えがあったんだ……」


 あの日の夜。はっきりとは思い出せないが、私はバーに行った。ただ、バーに行く前には既に出来上がっており、だからバーで飲んだ記憶がないのだ。つまり、そこで出会った神楽さんとの記憶もなくて……。


神楽「あの日、たまたま金曜なのに暇そうにしていたこのバーに、俺が立ち寄って、そこで1人飲んでた悠愛ちゃんのことが気になって、話を聞いてあげて……悠愛ちゃんが『愛されたい』って零すもんだからさ。俺が満たしてはあげられるよって言ったら、『1晩だけでもいいから、愛して』って言うから。」

悠愛「お、お恥ずかしいことを……面目ありません……」

神楽「んーん。おかげで俺は、あんな気持ちいいこと出来たから、気にしてないよ。寧ろ、感謝しかないかな。」


悠愛「で、でもどうして、その……さっきの人から、助けてくれたんですか?だって、神楽さんからしたら、私は恋人でも何でもなくて、どうでもいい筈なのに……」

神楽「だって、悠愛ちゃんは俺の獲物なんだよ?他から横取りされるなんて、許せるわけないじゃん。」

悠愛「獲物……?」


神楽「言ったじゃん。悠愛ちゃんを、絶対堕とすって。」

悠愛「あっ……言ってましたね……」

神楽「だから、助けたの。」

悠愛「……ありがとう、ございます……」

神楽「いーえ。とりあえず、飲み直そっか。何かモヤモヤしてるでしょ。」

悠愛「あ、はい……」


 私達はそう言うと、カウンターの椅子に座った。

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