藤嶌古書店6
「河瀬さんから意志を引き継いだ……ね」
「………」
横向きにした私のスマホの中で、YouTubeの動画が表示されている。
河瀬から意志を引き継いだというYouTuber、カルタ。
彼が主となって運営しているYouTubeチャンネル、「おカルタんTV」の動画だ。
今、ネット上で話題となっている『イワナベミズコ』――その火付け役となったのは、このチャンネルである。
「って言ってるけど、実際ライターさんはどう思ってるの?」
動画を見終えたところで、ユーレイ君は再び手元の資料に目を落とす。
「あり得ない」
私は率直に答える。
フリーライターにとって、記事のネタはそのまま自身の収入に直結する大事な財産だ。
河瀬さんは、『イワナベミズコ』を自分で解き明かそうとしていた。
「河瀬さんが自分だけのネタを誰かに引き継がせるなんて、彼の性格的にも考えられない……と思う」
「じゃあ、この人が言ってるのは嘘ってこと?」
ループ機能により再生を開始した動画内。
カメラの前に立つ金髪ピアスの男――カルタを、ユーレイ君は指さす。
「もしかしたら……盗んだ」
「根拠は?」
「……このカルタって配信者、過去にも色々と他の配信者や同業者と揉め事を起こしてるんだよ。同じような業界で仕事をしてる人間だから、私の耳にも悪評が届いてくるくらい」
無論、直接会って話した事はないし、具体的にどういう人物なのかもわからない……が。
彼も自分達のように情報発信を飯の種にしている人種。
河瀬さんの死後、彼の自宅に侵入し、ネタを拝借した。
「そう考えても、不自然じゃないかな……」
「ふぅん」
ユーレイ君は、その事に興味が有るのか無いのかわからない、曖昧な返事をしながら、シークバー通りに再生を繰り返していく動画を見詰める。
「……“赤鬼”ね」
ユーレイ君は呟く。
私達の共通用語でいうところの、“真っ赤な人”。
それに該当する存在を、カルタは“赤鬼”と表現している。
「そういえば、警察の隠語で“赤鬼”って腐乱死体のことを指すらしいよ。腐って膨張した死体のこと」
「………」
ユーレイ君の豆知識を聞きながら、私はふと考える。
イワナベミズコ……。
ミズコ……。
「ねぇ、ユーレイ君。イワナベミズコのミズコって、もしかして……」
「“水子”、の事だと思った?」
水子。
主に流産、中絶、死産などでこの世に産まれなかった、子供の霊を表わす単語。
「情報の伝播に伴って被害が拡大しているこの状況、確かに怨念や呪詛に関連する何かの可能性も考えられるよね」
「………」
その時のユーレイ君の言葉は、私の耳に届いていなかった。
私は、自身を抱きすくめるように両腕を交差する。
気付くと、再び体が震えだしていた。
覚悟を決めたように振る舞っても、開き直った振りをしても、それでも、体には恐怖が植え付けられているのだ。
死の恐怖。
追ってくる『イワナベミズコ』の恐怖。
怖い。
本心は隠せない。
「………」
そんな私の怯える姿を、ユーレイ君は黙って見詰めていた。
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