『イワナベミズコ』の怪談を聞かせてください。2


『イワナベミズコ』の怪談を探しています。


 そうSNSにポストを投稿して数日後、私の元に一件のDMが届いた。


 フォロワー数百人程度のアカウントなので、そこまで期待せずに募集を掛けたのだが、意外と見てくれる人は見てくれていたようだ。


 愛知県在住の40代女性から聞いた怪談……タイトルは『パーキングエリア』と名付けた。


 10年以上前。


 この女性が趣味のドライブ中、立ち寄ったパーキングエリアで出会った奇妙な人物に関する話。


 地元民と思われる年配の女性から、『わたなべみつこ』と問い掛けられるというお話だ。


「確かに、似てる……かな?」


『わたなべみつこ』。


 本人も言っていたが、『イワナベミズコ』の聞き間違いだったのでは? という可能性もある。


 更に、彼女のインタビューを文字起こししていて気付いたのだが、身の危険を感じ逃げた彼女を、年配の女性はパーキングエリアの入り口まで追い掛けてきていたのだが……。




 ――多分、急いで追い掛けてきてくれたんでしょうね。




 ――顔も少し赤くなってたように見えました。




「赤……っていう単語を見ると、どうしても関連性を疑っちゃうんだよなぁ」


『イワナベミズコ』の怪談に登場する謎の怪人――“真っ赤な人”。


 この“真っ赤な人”こそが『イワナベミズコ』であるという考え方も出来るが、そうなると謎なのはもう一人の怪人。


“カタツムリ”の存在だ。


『穴を掘る女』に登場した、ロイコクロディリウムに寄生されたカタツムリのように目が伸びた女。


 建物に侵入し、地面を掘って、『祝鳴戸みず湖』と書かれた木の破片を埋めていた彼女は……何者だったのだろう。


 彼女も『イワナベミズコ』の一種なのだろうか?


「う~ん……」


 現在、四件の怪談が私の元に集まった。


 しかし、『イワナベミズコ』の謎を解くには、まだ情報が少なすぎる。


 更に募集を掛け、もっと全国から目撃談を集められないものか……。


「でも、変にこの件が拡散されて大事にでもなったら、ガセ情報も増えるだろうし」


 仕事柄、情報収集の難しさはわかっている。


 何か良い方法はないかと、私は作業用のデスクチェアに背を預けながら、頭を悩ませる。


 その時だった。


 テーブルの上のスマホが、電話の着信を告げた。


 急いで手に取り、画面に浮かんだ相手の名前を見る。


『河瀬アツノリ』。


「河瀬さん?」


 河瀬アツノリさんは、私と同じフリーのライター……簡単に言うと、同業者だ。


 40代の男性で、オカルトや心霊をメインに仕事をしている。


 昔、私もまだその方向性のみに絞って仕事をしていた頃に知り合って、ちょくちょく連絡を取る間柄だった。


 最近は、私も手広く仕事をするようになり、多忙もあってあまり意見交換等する事もなくなっていたのだけど……。


「もしもし、河瀬さんですか? お久しぶりです」

『いよぉー、永羽ちゃん。お久しぶり。元気にしてた?』


 スマホの向こうから聞こえた河瀬さんの声は、相変わらずの調子だった。


『最近全然会わないじゃ~ん。連絡くれないから寂しいよ~』

「あはは、すいません。色々と仕事が忙しくて」


 オカルト系の仕事をメインで行っていた頃は、よく河瀬さんに誘われて仕事の相談がてら、外に食事に行ったりしていた。


 時にはお酒に誘われたりもしたけど、私はあまり得意ではないので角が立たないように受け流すことが多かった。


『っていうかさ、何? 永羽ちゃん、こっちの方向に戻ってきたの? それなら何よりも先に俺を頼るべきでしょ、昔みたいにさ。俺と永羽ちゃんの仲じゃな~い』

「えと……すいません、こっちの方向って?」

『え? オカルト系の案件抱えてるんじゃないの?』


 そこで数瞬考えて、私は気付く。


「河瀬さん、もしかして……私のSNS見たりしてます?」

『もちろんよ~、っていうかフォローしてるから普通にタイムラインに流れてくるし。いやそれだけじゃないけどね。頑張ってるかな~、最近どうかな~って、疎遠になったとしても気になるじゃん? 同胞としては』


 あ、違うよ、決してネットストーカーとかじゃないよ? ――と笑いながら言った後、河瀬さんは改まって告げた。


『で、本題だけど……君も気付いたんだね、『イワナベミズコ』に』

「え?」


 予想外の発言だった。


 河瀬さんが、私がSNSで『イワナベミズコ』に関する怪談を募集している事から、オカルト系の仕事をしていると勘違いした可能性は考慮できた。


 だけど……その次の言葉が。


「『イワナベミズコ』に、気付いた、って……」

『『イワナベミズコ』という謎のワードが登場する怪談が、あらゆる地域に散見される。そりゃ知ってるよ、僕が何年君より長くこの仕事してると思ってんの』


 どこか小馬鹿にしたような、鼻に付く言い方で河瀬さんは言う。


 しかし、納得はできた。


 河瀬さんは、今も変わらずそのジャンル一筋で仕事をしてきた人だ。


 私なんかよりも先に、『イワナベミズコ』に気付いていてもおかしくはない。


「そっか、そこまでレアなネタではなかったんですね……『イワナベミズコ』って」

『あ、そんな落ち込まないでよ。別にあれだよ? 俺だって、全ての謎を解いたってわけじゃないからさ』


 河瀬さんは言う。


 どうやら、河瀬さんもネタ収集の中で、『イワナベミズコ』という存在が各地で目撃されているという事に気付いただけで、その正体等については不明なのだという。


『それでもまぁ、永羽ちゃんに比べたら遙かに情報量は多いだろうけどさ』

「本当ですか? 河瀬さんは、どこまで『イワナベミズコ』の謎に近付いたんですか?」


 率直な好奇心のままに、私は河瀬さんに問う。


『いやいや、それは言えないよ。これだって、僕にとっては大切な飯のタネの一つなんだから。そう簡単には明かせないね』

「……それも、そうですね」


 何分、狭くニッチで生き残りが厳しい世界だ。


 私だって、途中で離脱するしかなかった。


 そんな大切なネタを、簡単に人に話せるわけがない。


 スマホを頬に当てたまま、私は溜息を吐く。


『ま、でもさ。ほら、俺と永羽ちゃんの仲なわけじゃん』


 そこで、河瀬さんが口を開いた。


『俺の手元にある『イワナベミズコ』の怪談を、一つくらいなら教えてあげてもいいかなって。あ、今度食事の席でも設けながら、ゆっくりさ』

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