第2話 勇者パーティーに入ったら全員ヤバい奴だった

リリアの案内で、俺たちは街の中心部にある大きな建物の前に立っていた。


「ここが冒険者ギルドです」


「でかいな……」


三階建ての立派な石造りの建物。入口からは酒盛りをする冒険者たちの声が聞こえてくる。いかにもファンタジー世界の冒険者ギルドって感じだ。


「ここで冒険者登録をすれば、正式に冒険者として活動できます。それに──」


リリアは意味ありげに笑った。


「今、この街で募集がかかっている勇者パーティーに入れるかもしれません」


「勇者パーティー?」


「ええ。魔王討伐を目的とした、この国最強のパーティーです。ただ、メンバーが次々と辞めていって、今は勇者一人だけらしいですが」


「次々と辞めてるって……何かあるのか?」


「さあ?でも、あなたの【鑑定】スキルなら、理由がわかるかもしれませんね」


リリアはニヤリと笑った。こいつ、絶対に面白がってる。


「はぁ……まぁ、行くしかないか」


俺たちはギルドの扉を開けた。



中は予想以上に賑わっていた。


筋骨隆々の戦士、魔法の杖を持った魔術師、軽装の盗賊。様々な冒険者たちが酒を飲み、依頼書を眺め、仲間と談笑している。


「新人か?」


カウンターにいた受付嬢が声をかけてきた。エルフ耳のついた美人だ。


「はい、冒険者登録をしたいんですが」


「わかったわ。こちらの用紙に記入してちょうだい」


受付嬢が書類を渡してくる。


その瞬間、例の情報が流れ込んできた。


『【ギルド受付嬢マリア】

種族:エルフ(自称)

実は:ただの人間・エルフ耳はコスプレ用のカチューシャ

年齢:32歳(サバ読んで23歳と言っている)

特記事項:本当はエルフに憧れているだけのコスプレイヤー。休日はエルフのコスプレをしてSNSに投稿している。フォロワー数は3万人。本名は鈴木花子』


「──プッ」


「どうかしたの?」


「い、いえ!何でも!」


危ない危ない。うっかり笑いそうになった。


というか、この世界にもSNSあるのか。そして本名が鈴木花子って、完全に日本人じゃねぇか。


ズキン!


「うっ!」


頭痛が来た。やばい、言わなきゃいけないのか。


『残り時間:60秒』


「あの、マリアさん」


「なぁに?」


「そのエルフ耳、カチューシャですよね?」


「────」


受付嬢の笑顔が固まった。


「実は人間で、本名は鈴木花子さんですよね?休日はコスプレしてSNSに投稿してますよね?フォロワー3万人ですよね?」


「────なんで知ってるのよぉぉぉぉ!!!」


マリアは顔を真っ赤にして叫んだ。


周囲の冒険者たちが一斉にこちらを見る。


「マリアちゃん、人間だったの!?」


「コスプレイヤーだったのか!」


「俺もフォローしてるかも!」


「ぎゃああああああ!!」


マリアはカウンターの下に隠れてしまった。


リリアが呆れた顔で俺を見る。


「初日から敵を作りすぎです」


「俺のせいじゃないから!スキルのせいだから!」



なんとか登録を済ませ(マリアには泣かれたが)、俺は晴れて冒険者になった。


「で、勇者パーティーってどこにいるんですか?」


「ちょうど今、ギルドマスターの部屋にいるはずです。案内しますね」


リリアに連れられて、三階のギルドマスター室へ向かう。


扉の前に立つと、中から怒鳴り声が聞こえてきた。


「だから!俺は勇者なんだ!世界を救う運命にあるんだ!」


「だから、その根拠を示してくれって言ってるんだよ……」


疲れた声のギルドマスターと、熱い声の若者。


リリアがノックする。


「失礼します」


「おお、リリア君か。ちょうどいいところに」


中にいたのは、恰幅のいい中年男性──ギルドマスターと、金髪の青年だった。


金髪の青年は、まさに「主人公」って感じの容姿。整った顔立ち、自信に満ちた瞳、背中には立派な剣。


「新しい冒険者です。勇者パーティーに興味があるそうで」


「おお!本当か!」


金髪青年が飛びついてきた。


「俺はこの国の勇者、レオンハルトだ!よろしく頼む!」


「あ、はい。田中健太です」


握手を交わす。


その瞬間──。


『【自称勇者レオンハルト】

本名:佐藤太郎

職業:勇者(自称)

レベル:28

剣術:☆☆☆(自己評価☆☆☆☆☆)

特記事項:実は転生者。中二病をこじらせたまま異世界転生した。「俺は勇者だ」と言い続けているが、特別な証拠はない。ただの思い込み。女神様から授かったスキルは【剣術LV3】という平凡なもの。それを「伝説の力」と言い張っている。前のパーティーメンバーは全員、彼の中二病発言に耐えられなくなって辞めた。現在の夢は「魔王を倒して伝説になる」こと。実家は八百屋』


「──ああ」


納得した。


これは確かに、パーティーメンバーが次々辞めるわ。


「どうした?」


「いえ、何でも」


ギルドマスターが深いため息をついた。


「田中君、正直に言おう。このレオンハルト君は……その、少し変わっているんだ」


「変わってない!俺は正常だ!世界を救う使命を帯びた勇者なんだ!」


「ほら、こういうところが……」


ギルドマスターは頭を抱えた。


「でも実力はあるんだ。レベル28は中堅冒険者としては十分。真面目に依頼もこなしている。ただ……」


「ただ?」


「口を開くと中二病全開になる」


「俺は中二病じゃない!!」


レオンハルトが叫んだ。


ズキン!


頭痛が来た。


「うわ、マジか……」


『残り時間:60秒』


「田中?どうした?」


「あの、レオンハルトさん」


「なんだ?」


「あなた、転生者ですよね?」


「────え」


レオンハルトの動きが止まった。


「本名は佐藤太郎で、実家が八百屋ですよね?」


「────なっ」


「女神様から授かったスキルは【剣術LV3】で、それを『伝説の力』って言い張ってますよね?前のパーティーメンバーは全員、あなたの中二病発言に耐えられなくなって辞めましたよね?」


「────────」


レオンハルトは完全に固まった。


ギルドマスターとリリアが、驚愕の表情でこちらを見ている。


「な……なぜ、それを……」


「【鑑定】スキルです。すみません、言わないと頭が痛くなるんで」


「────あああああああああ!!」


レオンハルトは顔を覆ってうずくまった。


「俺の……俺の黒歴史が……!」


「ちょ、大丈夫ですか!?」


「実家が八百屋って……しかも佐藤太郎って……」


ギルドマスターが呟いた。


「なんか、すごく……普通……」


「普通でいいじゃないですか!」


レオンハルトが泣きながら叫んだ。



しばらくして、レオンハルトは落ち着いた。


「……わかった。俺が少し調子に乗ってたのは認める」


「素直でよろしい」


「でも!俺は本気で魔王を倒したいんだ。世界を救いたい。それは本当なんだ」


レオンハルトは真剣な目でこちらを見た。


「田中、お前の【鑑定】スキル、すごいな。俺のパーティーに入ってくれないか?」


「え?いいんですか?」


「ああ。お前のスキルがあれば、敵の弱点も、罠も、全部見破れる。最強のパーティーになれる」


確かに、それは一理ある。


「でも、俺のスキル、余計な情報まで見えちゃうんですけど……」


「構わない。むしろ、俺の中二病を抑制してくれるかもしれない」


レオンハルトは笑った。


「それに、お前も転生者なんだろ?」


「まぁ、そうですけど」


「なら、仲間だ。一緒に頑張ろうぜ」


レオンハルトは手を差し出した。


俺は少し考えて、その手を握った。


「よろしくお願いします、レオンハルト……さん?」


「レオでいい。俺もお前をケンタって呼ぶから」


「了解です、レオ」


こうして、俺は勇者パーティーに入ることになった。



「じゃあ早速、明日から依頼をこなしていこう!」


レオが張り切って言った。


「その前に、パーティーメンバーを増やさないとダメだろう」


ギルドマスターが言う。


「今は二人だけ。最低でも四人は欲しい」


「そうだな……誰かいい冒険者はいないか?」


「ちょうどいいのがいますよ」


リリアが口を挟んだ。


「私です」


「え?」


「私もパーティーに入れてください。魔道具商としての知識がありますし、戦闘もそこそこできます」


「でも、リリアさん、元魔王軍幹部で賞金首ですよね?」


「────そこ言わないでもらえます!?」


リリアが慌てて口を塞ぎにくる。


「魔王軍!?」


レオとギルドマスターが驚いた。


「今は真面目に生きてます!足を洗いました!魔王を倒したいと思ってます!」


「【鑑定】スキルで確認しましたが、本当みたいです」


「田中君!?余計なこと言わないで!」


リリアが涙目になった。


ギルドマスターは腕を組んで考え込んだ。


「まぁ、過去は過去だ。今、真面目に生きているなら問題ない。それに、元魔王軍なら魔王城の情報も持っているだろう」


「ありがとうございます……」


リリアはホッとした表情を浮かべた。


「よし!じゃあリリアも仲間だ!」


レオが嬉しそうに言った。


「あと一人だな」


「ちょうどいいところに」


ギルドマスターが窓の外を指差した。


「あそこにいる僧侶はどうだ?」


窓の外、ギルドの前で一人の女性が祈りを捧げていた。白い僧侶服に身を包んだ、清楚な雰囲気の美女だ。


「おお、いいじゃないか!僧侶がいれば回復も安心だ!」


レオが立ち上がった。


「早速声をかけてこよう!」


俺たちは急いで一階に降りた。



「すみません!」


レオが僧侶に声をかける。


「はい?」


振り向いた僧侶は、まさに聖女のような美しさだった。金色の髪、青い瞳、優しい微笑み。


「僕たちは勇者パーティーです。もしよければ、仲間になっていただけませんか?」


「勇者パーティー……ですか」


僧侶は少し考えて、微笑んだ。


「いいですわ。ちょうど、パーティーを探していたところでしたの」


「本当ですか!」


「ええ。私はシスター・アンジェラと申します。回復魔法が得意ですわ」


「素晴らしい!これでパーティーが完成だ!」


レオは大喜びだ。


だが──。


俺の視界に、情報が表示された。


『【偽シスター・アンジェラ】

本名:山本花子

職業:詐欺僧侶

レベル:15

回復魔法:使えない(全部演技)

特記事項:本当は魔法が使えない。回復魔法のフリをして、仲間が自然治癒するまで時間稼ぎをする詐欺師。今まで12のパーティーを渡り歩き、バレる前に逃げてきた。現在の所持金は2000ゴールド。全部詐欺で稼いだもの。趣味はギャンブル。借金が300万ゴールドある。実は前科三犯』


「────」


「どうしたの、ケンタ?」


「……レオ」


「なんだ?」


「この人、詐欺師です」


「────は?」


「回復魔法使えないのに使えるフリをして、パーティーを騙してきた詐欺僧侶です。今まで12のパーティーを渡り歩いてます。借金が300万ゴールドあります。前科三犯です」


「────────」


全員が固まった。


アンジェラの顔が引きつった。


「な……なんの、ことかしら……」


「本名、山本花子さんですよね?」


「────ッッ!!」


アンジェラは一目散に逃げ出した。


「待てぇぇぇ!!」


ギルドの冒険者たちが追いかける。


「俺の騙された治療費返せ!」


「俺もだ!」


どうやら被害者が何人もいたらしい。



「……とりあえず、僧侶はまた探すか」


レオが肩を落とした。


「すみません、俺のせいで……」


「いや、逆に助かった。あんな詐欺師と組んでたら、いつか死んでたかもしれない」


「そうですね……」


俺たちはギルドに戻った。


「しかし、ケンタの【鑑定】スキル、本当にすごいな」


「余計な情報ばかりですけどね」


「いや、それがいいんだよ。普通の【鑑定】スキルじゃ、ステータスしか見えない。でもお前のスキルは、本質を見抜く」


レオは真剣な顔で言った。


「これから先、俺たちは色んな敵と戦うことになる。そのとき、お前のスキルが絶対に役に立つ」


「……ありがとうございます」


少し救われた気がした。


「よし!じゃあまずは、僧侶を探すところからだな!」


「ですね」


俺たちは再び、仲間探しを始めることにした。



その夜。


俺はリリアが用意してくれた宿の部屋でベッドに横になっていた。


「異世界転生、初日が終わった……」


色々ありすぎて、頭がパンクしそうだ。


衛兵隊長のロリコンをバラし、美少女(男)の正体をバラし、詐欺師を見破り、受付嬢のコスプレ趣味をバラし、勇者の黒歴史をバラし、詐欺僧侶を見破った。


「俺、嫌われ者まっしぐらじゃねぇか……」


ため息をつく。


でも、レオやリリアは、俺のスキルを認めてくれた。


使い方次第では、確かに強力な武器になる。


「まぁ、やるしかないか」


俺は目を閉じた。


明日から、本格的な冒険者生活が始まる。


どんなトラブルが待っているのか、想像もつかないけど──。


「なんとかなるさ」


そう呟いて、俺は眠りについた。



翌朝。


俺が目を覚ますと、部屋のドアが激しくノックされた。


「ケンタ!起きろ!大変だ!」


レオの声だ。


慌てて起きてドアを開けると、レオが血相を変えて立っていた。


「どうしたんですか?」


「ギルドに、国王直々の依頼が来た!」


「国王直々の……?」


「ああ!魔王軍の幹部が、この街に潜入しているらしい!」


「──え」


嫌な予感がした。


「その幹部を見つけて、捕まえるか倒すかしろって依頼だ!報酬は10000ゴールド!」


「それは……すごいですけど……」


「お前の【鑑定】スキルなら、魔王軍の幹部も見抜けるだろ?頼む!」


レオは真剣な目で俺を見た。


「……わかりました」


俺はため息をついた。


そして、心の中で呟く。


(リリアさん、バレるフラグ立ちまくりですよ……)


果たして、このパーティーは無事に依頼をこなせるのだろうか。


というか、俺たちのパーティー自体が問題だらけな気がする。


こうして、俺の異世界ライフは、さらにカオスな展開を迎えるのだった。

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俺の鑑定スキルが狂ってる件について Ruka @Rukaruka9194

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