第2話 勇者パーティーに入ったら全員ヤバい奴だった
リリアの案内で、俺たちは街の中心部にある大きな建物の前に立っていた。
「ここが冒険者ギルドです」
「でかいな……」
三階建ての立派な石造りの建物。入口からは酒盛りをする冒険者たちの声が聞こえてくる。いかにもファンタジー世界の冒険者ギルドって感じだ。
「ここで冒険者登録をすれば、正式に冒険者として活動できます。それに──」
リリアは意味ありげに笑った。
「今、この街で募集がかかっている勇者パーティーに入れるかもしれません」
「勇者パーティー?」
「ええ。魔王討伐を目的とした、この国最強のパーティーです。ただ、メンバーが次々と辞めていって、今は勇者一人だけらしいですが」
「次々と辞めてるって……何かあるのか?」
「さあ?でも、あなたの【鑑定】スキルなら、理由がわかるかもしれませんね」
リリアはニヤリと笑った。こいつ、絶対に面白がってる。
「はぁ……まぁ、行くしかないか」
俺たちはギルドの扉を開けた。
◇
中は予想以上に賑わっていた。
筋骨隆々の戦士、魔法の杖を持った魔術師、軽装の盗賊。様々な冒険者たちが酒を飲み、依頼書を眺め、仲間と談笑している。
「新人か?」
カウンターにいた受付嬢が声をかけてきた。エルフ耳のついた美人だ。
「はい、冒険者登録をしたいんですが」
「わかったわ。こちらの用紙に記入してちょうだい」
受付嬢が書類を渡してくる。
その瞬間、例の情報が流れ込んできた。
『【ギルド受付嬢マリア】
種族:エルフ(自称)
実は:ただの人間・エルフ耳はコスプレ用のカチューシャ
年齢:32歳(サバ読んで23歳と言っている)
特記事項:本当はエルフに憧れているだけのコスプレイヤー。休日はエルフのコスプレをしてSNSに投稿している。フォロワー数は3万人。本名は鈴木花子』
「──プッ」
「どうかしたの?」
「い、いえ!何でも!」
危ない危ない。うっかり笑いそうになった。
というか、この世界にもSNSあるのか。そして本名が鈴木花子って、完全に日本人じゃねぇか。
ズキン!
「うっ!」
頭痛が来た。やばい、言わなきゃいけないのか。
『残り時間:60秒』
「あの、マリアさん」
「なぁに?」
「そのエルフ耳、カチューシャですよね?」
「────」
受付嬢の笑顔が固まった。
「実は人間で、本名は鈴木花子さんですよね?休日はコスプレしてSNSに投稿してますよね?フォロワー3万人ですよね?」
「────なんで知ってるのよぉぉぉぉ!!!」
マリアは顔を真っ赤にして叫んだ。
周囲の冒険者たちが一斉にこちらを見る。
「マリアちゃん、人間だったの!?」
「コスプレイヤーだったのか!」
「俺もフォローしてるかも!」
「ぎゃああああああ!!」
マリアはカウンターの下に隠れてしまった。
リリアが呆れた顔で俺を見る。
「初日から敵を作りすぎです」
「俺のせいじゃないから!スキルのせいだから!」
◇
なんとか登録を済ませ(マリアには泣かれたが)、俺は晴れて冒険者になった。
「で、勇者パーティーってどこにいるんですか?」
「ちょうど今、ギルドマスターの部屋にいるはずです。案内しますね」
リリアに連れられて、三階のギルドマスター室へ向かう。
扉の前に立つと、中から怒鳴り声が聞こえてきた。
「だから!俺は勇者なんだ!世界を救う運命にあるんだ!」
「だから、その根拠を示してくれって言ってるんだよ……」
疲れた声のギルドマスターと、熱い声の若者。
リリアがノックする。
「失礼します」
「おお、リリア君か。ちょうどいいところに」
中にいたのは、恰幅のいい中年男性──ギルドマスターと、金髪の青年だった。
金髪の青年は、まさに「主人公」って感じの容姿。整った顔立ち、自信に満ちた瞳、背中には立派な剣。
「新しい冒険者です。勇者パーティーに興味があるそうで」
「おお!本当か!」
金髪青年が飛びついてきた。
「俺はこの国の勇者、レオンハルトだ!よろしく頼む!」
「あ、はい。田中健太です」
握手を交わす。
その瞬間──。
『【自称勇者レオンハルト】
本名:佐藤太郎
職業:勇者(自称)
レベル:28
剣術:☆☆☆(自己評価☆☆☆☆☆)
特記事項:実は転生者。中二病をこじらせたまま異世界転生した。「俺は勇者だ」と言い続けているが、特別な証拠はない。ただの思い込み。女神様から授かったスキルは【剣術LV3】という平凡なもの。それを「伝説の力」と言い張っている。前のパーティーメンバーは全員、彼の中二病発言に耐えられなくなって辞めた。現在の夢は「魔王を倒して伝説になる」こと。実家は八百屋』
「──ああ」
納得した。
これは確かに、パーティーメンバーが次々辞めるわ。
「どうした?」
「いえ、何でも」
ギルドマスターが深いため息をついた。
「田中君、正直に言おう。このレオンハルト君は……その、少し変わっているんだ」
「変わってない!俺は正常だ!世界を救う使命を帯びた勇者なんだ!」
「ほら、こういうところが……」
ギルドマスターは頭を抱えた。
「でも実力はあるんだ。レベル28は中堅冒険者としては十分。真面目に依頼もこなしている。ただ……」
「ただ?」
「口を開くと中二病全開になる」
「俺は中二病じゃない!!」
レオンハルトが叫んだ。
ズキン!
頭痛が来た。
「うわ、マジか……」
『残り時間:60秒』
「田中?どうした?」
「あの、レオンハルトさん」
「なんだ?」
「あなた、転生者ですよね?」
「────え」
レオンハルトの動きが止まった。
「本名は佐藤太郎で、実家が八百屋ですよね?」
「────なっ」
「女神様から授かったスキルは【剣術LV3】で、それを『伝説の力』って言い張ってますよね?前のパーティーメンバーは全員、あなたの中二病発言に耐えられなくなって辞めましたよね?」
「────────」
レオンハルトは完全に固まった。
ギルドマスターとリリアが、驚愕の表情でこちらを見ている。
「な……なぜ、それを……」
「【鑑定】スキルです。すみません、言わないと頭が痛くなるんで」
「────あああああああああ!!」
レオンハルトは顔を覆ってうずくまった。
「俺の……俺の黒歴史が……!」
「ちょ、大丈夫ですか!?」
「実家が八百屋って……しかも佐藤太郎って……」
ギルドマスターが呟いた。
「なんか、すごく……普通……」
「普通でいいじゃないですか!」
レオンハルトが泣きながら叫んだ。
◇
しばらくして、レオンハルトは落ち着いた。
「……わかった。俺が少し調子に乗ってたのは認める」
「素直でよろしい」
「でも!俺は本気で魔王を倒したいんだ。世界を救いたい。それは本当なんだ」
レオンハルトは真剣な目でこちらを見た。
「田中、お前の【鑑定】スキル、すごいな。俺のパーティーに入ってくれないか?」
「え?いいんですか?」
「ああ。お前のスキルがあれば、敵の弱点も、罠も、全部見破れる。最強のパーティーになれる」
確かに、それは一理ある。
「でも、俺のスキル、余計な情報まで見えちゃうんですけど……」
「構わない。むしろ、俺の中二病を抑制してくれるかもしれない」
レオンハルトは笑った。
「それに、お前も転生者なんだろ?」
「まぁ、そうですけど」
「なら、仲間だ。一緒に頑張ろうぜ」
レオンハルトは手を差し出した。
俺は少し考えて、その手を握った。
「よろしくお願いします、レオンハルト……さん?」
「レオでいい。俺もお前をケンタって呼ぶから」
「了解です、レオ」
こうして、俺は勇者パーティーに入ることになった。
◇
「じゃあ早速、明日から依頼をこなしていこう!」
レオが張り切って言った。
「その前に、パーティーメンバーを増やさないとダメだろう」
ギルドマスターが言う。
「今は二人だけ。最低でも四人は欲しい」
「そうだな……誰かいい冒険者はいないか?」
「ちょうどいいのがいますよ」
リリアが口を挟んだ。
「私です」
「え?」
「私もパーティーに入れてください。魔道具商としての知識がありますし、戦闘もそこそこできます」
「でも、リリアさん、元魔王軍幹部で賞金首ですよね?」
「────そこ言わないでもらえます!?」
リリアが慌てて口を塞ぎにくる。
「魔王軍!?」
レオとギルドマスターが驚いた。
「今は真面目に生きてます!足を洗いました!魔王を倒したいと思ってます!」
「【鑑定】スキルで確認しましたが、本当みたいです」
「田中君!?余計なこと言わないで!」
リリアが涙目になった。
ギルドマスターは腕を組んで考え込んだ。
「まぁ、過去は過去だ。今、真面目に生きているなら問題ない。それに、元魔王軍なら魔王城の情報も持っているだろう」
「ありがとうございます……」
リリアはホッとした表情を浮かべた。
「よし!じゃあリリアも仲間だ!」
レオが嬉しそうに言った。
「あと一人だな」
「ちょうどいいところに」
ギルドマスターが窓の外を指差した。
「あそこにいる僧侶はどうだ?」
窓の外、ギルドの前で一人の女性が祈りを捧げていた。白い僧侶服に身を包んだ、清楚な雰囲気の美女だ。
「おお、いいじゃないか!僧侶がいれば回復も安心だ!」
レオが立ち上がった。
「早速声をかけてこよう!」
俺たちは急いで一階に降りた。
◇
「すみません!」
レオが僧侶に声をかける。
「はい?」
振り向いた僧侶は、まさに聖女のような美しさだった。金色の髪、青い瞳、優しい微笑み。
「僕たちは勇者パーティーです。もしよければ、仲間になっていただけませんか?」
「勇者パーティー……ですか」
僧侶は少し考えて、微笑んだ。
「いいですわ。ちょうど、パーティーを探していたところでしたの」
「本当ですか!」
「ええ。私はシスター・アンジェラと申します。回復魔法が得意ですわ」
「素晴らしい!これでパーティーが完成だ!」
レオは大喜びだ。
だが──。
俺の視界に、情報が表示された。
『【偽シスター・アンジェラ】
本名:山本花子
職業:詐欺僧侶
レベル:15
回復魔法:使えない(全部演技)
特記事項:本当は魔法が使えない。回復魔法のフリをして、仲間が自然治癒するまで時間稼ぎをする詐欺師。今まで12のパーティーを渡り歩き、バレる前に逃げてきた。現在の所持金は2000ゴールド。全部詐欺で稼いだもの。趣味はギャンブル。借金が300万ゴールドある。実は前科三犯』
「────」
「どうしたの、ケンタ?」
「……レオ」
「なんだ?」
「この人、詐欺師です」
「────は?」
「回復魔法使えないのに使えるフリをして、パーティーを騙してきた詐欺僧侶です。今まで12のパーティーを渡り歩いてます。借金が300万ゴールドあります。前科三犯です」
「────────」
全員が固まった。
アンジェラの顔が引きつった。
「な……なんの、ことかしら……」
「本名、山本花子さんですよね?」
「────ッッ!!」
アンジェラは一目散に逃げ出した。
「待てぇぇぇ!!」
ギルドの冒険者たちが追いかける。
「俺の騙された治療費返せ!」
「俺もだ!」
どうやら被害者が何人もいたらしい。
◇
「……とりあえず、僧侶はまた探すか」
レオが肩を落とした。
「すみません、俺のせいで……」
「いや、逆に助かった。あんな詐欺師と組んでたら、いつか死んでたかもしれない」
「そうですね……」
俺たちはギルドに戻った。
「しかし、ケンタの【鑑定】スキル、本当にすごいな」
「余計な情報ばかりですけどね」
「いや、それがいいんだよ。普通の【鑑定】スキルじゃ、ステータスしか見えない。でもお前のスキルは、本質を見抜く」
レオは真剣な顔で言った。
「これから先、俺たちは色んな敵と戦うことになる。そのとき、お前のスキルが絶対に役に立つ」
「……ありがとうございます」
少し救われた気がした。
「よし!じゃあまずは、僧侶を探すところからだな!」
「ですね」
俺たちは再び、仲間探しを始めることにした。
◇
その夜。
俺はリリアが用意してくれた宿の部屋でベッドに横になっていた。
「異世界転生、初日が終わった……」
色々ありすぎて、頭がパンクしそうだ。
衛兵隊長のロリコンをバラし、美少女(男)の正体をバラし、詐欺師を見破り、受付嬢のコスプレ趣味をバラし、勇者の黒歴史をバラし、詐欺僧侶を見破った。
「俺、嫌われ者まっしぐらじゃねぇか……」
ため息をつく。
でも、レオやリリアは、俺のスキルを認めてくれた。
使い方次第では、確かに強力な武器になる。
「まぁ、やるしかないか」
俺は目を閉じた。
明日から、本格的な冒険者生活が始まる。
どんなトラブルが待っているのか、想像もつかないけど──。
「なんとかなるさ」
そう呟いて、俺は眠りについた。
◇
翌朝。
俺が目を覚ますと、部屋のドアが激しくノックされた。
「ケンタ!起きろ!大変だ!」
レオの声だ。
慌てて起きてドアを開けると、レオが血相を変えて立っていた。
「どうしたんですか?」
「ギルドに、国王直々の依頼が来た!」
「国王直々の……?」
「ああ!魔王軍の幹部が、この街に潜入しているらしい!」
「──え」
嫌な予感がした。
「その幹部を見つけて、捕まえるか倒すかしろって依頼だ!報酬は10000ゴールド!」
「それは……すごいですけど……」
「お前の【鑑定】スキルなら、魔王軍の幹部も見抜けるだろ?頼む!」
レオは真剣な目で俺を見た。
「……わかりました」
俺はため息をついた。
そして、心の中で呟く。
(リリアさん、バレるフラグ立ちまくりですよ……)
果たして、このパーティーは無事に依頼をこなせるのだろうか。
というか、俺たちのパーティー自体が問題だらけな気がする。
こうして、俺の異世界ライフは、さらにカオスな展開を迎えるのだった。
俺の鑑定スキルが狂ってる件について Ruka @Rukaruka9194
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