俺の鑑定スキルが狂ってる件について
Ruka
第1話 転生初日から地獄です
死んだ。
俺、田中健太(27)は、確実に死んだ。
残業96時間目、デスクに突っ伏したまま意識を失い、次に目を覚ましたときには真っ白な空間にいた。
「ようこそ、異世界転生者よ!」
目の前には、光り輝く美しい女性が浮かんでいた。後光が差している。翼が生えている。どこからどう見ても、女神様だ。
「あなたは過労死されました。お疲れ様でした」
「お疲れ様じゃねぇよ!?」
思わずツッコミを入れた。人が死んでんねんぞ。
「その労をねぎらい、異世界で第二の人生を送る権利を差し上げます!」
「マジで!?」
掌返し早すぎて自分でもドン引きしたが、異世界転生である。男なら誰もが一度は夢見るシチュエーション。これは行くしかない。
「さらに!特別にチート能力を一つ授けましょう!」
「きたぁぁぁぁぁ!」
女神様がパチンと指を鳴らすと、俺の目の前に光の板が現れた。
『【万物鑑定】スキルを習得しました』
『あらゆる存在の詳細情報を知ることができます』
『転生者御用達の超便利スキルです!』
「これで異世界でも安心ですね!それでは、良い人生を!」
「ちょ、待っ──」
光に包まれ、意識が遠のく。
そして、俺の異世界生活が始まった。
◇
目を覚ますと、草原の真ん中に寝転がっていた。
「うわ、マジで異世界だ……」
空は青く、見たこともない鳥が飛んでいる。遠くには中世ヨーロッパ風の街が見える。これは間違いない。異世界だ。
「よし、まずはスキルの確認だな」
俺は立ち上がり、目の前の木を見つめた。
「【鑑定】!」
すると、視界の端に情報が表示された。
『【オーク・ツリー】
樹齢:237年
硬度:☆☆☆
特記事項:この木の下で17組のカップルが別れ話をしている。別名「別れの木」。近づくと不幸になるという噂あり。現在も夜な夜なすすり泣く声が聞こえるとか』
「情報量多すぎぃ!!」
ていうか後半いらないだろ!樹齢と硬度だけでいいんだよ!なんで別れ話の統計まで出てくんだよ!
「まぁ、慣れれば便利かもな……」
気を取り直して、次は草を鑑定してみる。
『【ただの草】
毒性:なし
食用:可(まずい)
特記事項:昨日、野良犬がここでおしっこをした』
「うわぁぁぁぁぁ!!」
思わず踏んでた足をどかした。そういう情報はいらない!本当にいらない!
「落ち着け、俺……これはきっと、慣れの問題だ……」
深呼吸をして、街に向かって歩き始める。
途中、スライムに遭遇した。
よし、これで戦闘能力も確認できる。まずは【鑑定】だ。
『【スライム】
レベル:2
HP:50/50
攻撃力:8
特記事項:実は昨日まで人間だった。悪徳商人に騙されて借金を背負い、返せなくなって魔法でスライムに変えられた。名前は田中太郎。妻と子供が二人いる。ローンが残り3000万』
「重すぎるわ!!!」
これ倒していいのか!? むしろ倒しちゃダメなやつじゃないのか!?
スライムはぷるぷると震えながら、こちらに近づいてくる。
「た、田中さん……(俺も田中だけど)」
俺は武器も持ってないし、戦う理由もない。
「すみません!通ります!」
全力で逃げた。
初日から異世界の闇を見た気がする。
◇
なんとか街に到着した。
城門の前には、立派な鎧を着た門番が二人立っている。
「止まれ!何者だ!」
「あ、はい。異世界から来た転生者です」
「転生者だと!?」
門番たちはざわついた。
「すぐに衛兵隊長を呼べ!」
おお、転生者は歓迎されるパターンか。これはラッキーだ。
しばらくすると、厳つい顔の大男が現れた。
「転生者と名乗る者がいると聞いたが……お前か?」
「はい、そうです。田中健太と申します」
「ふむ……」
隊長は俺をじろじろと見た。
つい【鑑定】してしまう。
『【衛兵隊長グレゴール】
レベル:45
職業:戦士
筋力:☆☆☆☆
剣術:☆☆☆☆
特記事項:実は極度のロリコン。休日は幼女の絵を描いている。部下には秘密。机の引き出しに隠してるスケッチブックがバレたら人生終わる。昨日も新作を3枚描いた。自信作』
「ぶっ!!」
「どうした?」
「い、いえ!何でもないです!」
ヤバい。これは知ってはいけない情報だ。絶対に言ってはいけない。
だが──。
ズキン!
突然、頭に激痛が走った。
「ぐ……っ!」
『警告:鑑定結果を対象に伝えないと、ペナルティが発生します』
『制限時間:60秒』
「はぁ!?」
なんだこれ!?女神様、そんな説明してなかっただろ!?
『残り時間:50秒』
痛い痛い痛い!頭が割れそうだ!
「おい、大丈夫か!?」
隊長が心配そうに近づいてくる。
『残り時間:40秒』
ダメだ、もう限界だ。言うしかない。
「隊長!」
「な、なんだ!?」
「あなた、ロリコンですよね!?」
「──は?」
時が止まった。
周囲の門番たち、通りすがりの市民たち、全員が固まった。
「な……なな、何を言って──」
「休日に幼女の絵を描いてるでしょ!?昨日も3枚描いたって!机の引き出しに隠してますよね!?」
「───ッッッ!!!」
隊長の顔が真っ赤になった。いや、真っ青か。とにかく血の気が失せた。
「き、貴様……なぜそれを……」
「すみません!【鑑定】スキルで見えちゃったんです!言わないと頭痛がするシステムなんです!」
「【鑑定】スキルだとぉ!?」
隊長は剣を抜いた。
「貴様を生かしておくわけにはいかぬ!」
「ちょ、待っ──」
◇
全力疾走。
俺は城門から全速力で逃げ出した。
「待てぇぇぇぇ!!」
後ろから隊長と門番たちが追いかけてくる。
「誰か助けて!!転生初日から殺されかけてる!!」
街中を逃げ回る。
角を曲がったところで、誰かとぶつかった。
「きゃっ!」
女性の声。見ると、ローブを被った女性が倒れていた。
「す、すみません!」
俺は慌てて手を差し伸べる。
女性はローブのフードを取った。
──美人だ。
金色の髪、青い瞳、整った顔立ち。まるで人形のような美少女。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
彼女は俺の手を取って立ち上がった。
その瞬間、視界に情報が流れ込んでくる。
『【勇者エリシア(自称)】
性別:男
本名:山田太郎
年齢:19歳
特記事項:女装が趣味。本当は男だが、勇者になりたくて女と偽って冒険者ギルドに登録した。バレたら追放される。最近は自分でも性別がわからなくなってきた。女性用下着のフィット感に目覚めつつある』
「──」
「どうかしましたか?」
美少女(?)が心配そうにこちらを見つめる。
そして、またあの頭痛が始まった。
『残り時間:60秒』
「あああああああ!!」
「え!?どうしたんですか!?」
『残り時間:50秒』
ダメだ、言わなきゃいけない。でもこれは……これは言っていいのか!?
『残り時間:40秒』
「あの!」
「は、はい!?」
美少女(?)が不安そうな顔をする。
「あなた、男ですよね!?」
「──────」
今度は相手の時間が止まった。
「本名、山田太郎さんですよね!?女装が趣味で、勇者に憧れて性別偽ってますよね!?」
「な……なな……」
美少女(?)の顔が真っ赤になる。
「どど、どうして……」
「【鑑定】スキルです!見えちゃったんです!言わないと頭が痛くなるんです!すみません!」
「────ああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
美少女(?)は顔を覆って走り去った。
同時に、後ろから隊長たちが追いついてきた。
「見つけたぞ!」
「ぎゃあああああ!!」
俺は再び逃走を開始した。
◇
なんとか逃げ切り、裏路地に隠れた。
「はぁ……はぁ……」
息が切れる。
「なんだよこのスキル……チートどころか呪いじゃねぇか……」
女神様、説明不足すぎる。『転生者御用達の超便利スキル』って言ってたけど、全然便利じゃない。むしろ不便すぎる。
人の秘密が見えて、それを言わなきゃいけないとか、嫌われる要素しかない。
「もう嫌だ……日本に帰りたい……」
座り込んでいると、足音が聞こえた。
「おや、こんなところに人が」
振り向くと、白いローブを着た老人が立っていた。長い白髭、杖を持っている。いかにも「賢者」って感じの見た目だ。
「大丈夫かね、若者よ」
「あ、はい……ちょっと疲れてて」
「ふむ、見たところ転生者のようだが」
「え、わかるんですか?」
「長年生きておればな。転生者の持つ独特の雰囲気でわかる」
老人は優しく微笑んだ。
「私はこの街の賢者、ウィズダムという。何か困っていることがあれば、力になろう」
「ほ、本当ですか!?」
やっと優しい人に出会えた!
だが、その瞬間──。
視界に情報が表示される。
『【偽賢者ウィズダム】
本名:詐欺師ジョン
職業:詐欺師
レベル:25
特記事項:賢者を装って転生者を騙している。今まで17人の転生者から金品を巻き上げた。現在の所持金は8000ゴールド。実は魔法が一切使えない。杖は武器商店で買った普通の杖。白髭も付け髭』
「──」
「どうした?」
ズキン!
頭痛が始まった。
「ああああもう!!」
「な、なんだね!?」
「あなた、詐欺師でしょ!?」
「───ッ!?」
「賢者じゃなくて、転生者を騙してる詐欺師ですよね!?今まで17人騙してますよね!?髭も付け髭でしょ!?」
「────な、なぜそれを!!」
老人(詐欺師)は慌てて逃げ出した。
「待てぇぇぇぇ!!」
と、そこに先ほどの衛兵隊長が現れた。
「いたぞ!あの転生者だ!」
「うわあああああ!!」
また追いかけられる羽目になった。
もう何もかもが嫌だ。
### 6
夕暮れ時。
俺はボロボロになりながら、街の外れの森にいた。
「異世界転生って、こんなはずじゃなかったのに……」
疲れ果てて木に寄りかかる。
すると、前方から人影が近づいてきた。
「あなた、転生者ですね」
声の主は、黒いローブを着た女性だった。フードを深く被っていて、顔はよく見えない。
「また誰かに襲われるのか……もう勘弁してくれ……」
「違います。あなたを助けに来たんです」
「助ける……?」
女性はフードを取った。
長い黒髪、赤い瞳。魔女のような雰囲気の美女だった。
「私はリリア。魔道具商をしています。あなたの持つ【鑑定】スキルについて、教えてあげましょう」
「知ってるんですか!?」
「ええ。そのスキル、実は女神様がバグったまま渡してしまった不良品なんです」
「やっぱりぃぃぃ!!」
「本来なら普通の情報だけ表示されるはずが、『余計な情報』も全部見えてしまう。そして『言わないとペナルティ』という呪いまで付いている」
「どうすればいいんですか!?」
「方法は二つ。一つは、女神様に直訴して直してもらう。ただし、女神様に会うには七つのダンジョンを攻略しなければならない」
「無理ゲーじゃないですか!」
「もう一つは……」
リリアは微笑んだ。
「そのスキルを使いこなすこと。実は【鑑定】スキル、使い方次第では最強なんです」
「最強……?」
「人の秘密を暴く能力。これを使えば、腐敗した貴族も、悪徳商人も、魔王軍のスパイも、全て見破れる。あなたは異世界の『真実を暴く者』になれるんです」
なるほど。確かに、さっきの詐欺師も見破れた。
「でも、嫌われますよね……」
「最初はね。でも、あなたが真実を語ることで救われる人もいる。それに──」
リリアはクスリと笑った。
「面白いじゃないですか。異世界の裏事情を全部ばらしていくなんて」
「あなた、性格悪いですね」
「ええ、よく言われます」
リリアは手を差し出した。
「どうです?私と一緒に、この異世界の真実を暴きながら冒険しませんか?」
俺は少し考えた。
確かに、このスキルは厄介だ。でも、使い方次第では誰よりも強力な武器になる。
それに──。
「わかりました。やってやりますよ、異世界ツッコミライフ!」
俺はリリアの手を取った。
「よろしく、田中さん」
「よろしく、リリアさん」
そして──。
ズキン!
頭痛が来た。
『【魔道具商リリア】
実は元魔王軍幹部。現在は足を洗っているが、指名手配されている。賞金首5000ゴールド。本当は魔王を倒したいと思っている。だが一人では無理なので、転生者を利用しようとしている。あと、甘いものが大好き』
「──あ」
「どうしました?」
「あなた、元魔王軍幹部ですよね?」
「────え」
「賞金首5000ゴールドで指名手配されてますよね?魔王を倒したいから俺を利用しようとしてますよね?」
「────────」
リリアは固まった。
「あと、甘いものが大好きですよね?」
「最後の情報いる!?」
リリアは顔を真っ赤にして叫んだ。
「ご、誤解です!確かに元魔王軍だけど、今は真面目に生きてて──」
「いや、別にいいですよ。俺、あなたの目的も理解しました。一緒に魔王倒しましょう」
「──え?」
「だって、【鑑定】スキルで見えましたから。あなたが本当に魔王を倒したいって思ってること」
リリアは目を丸くした。
「……変な転生者」
「変なスキル持ちなんで」
二人は笑った。
こうして、俺の異世界ライフが本格的に始まったのだった。
【あとがき】
面白かったらいいねと星をお願いします!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。