第40話 水と森と街がつながる日
サクラリーヴの朝は、いつもより少しだけ早く目を覚ましていた。
まだ空は薄青く、東の端にやっと光が滲みはじめたころ。
城壁代わりの丘の向こう、水路が大河へと広がる合流点――そこに、新しく組まれた木の桟橋が、まだ木の匂いを強く残したまま静かに横たわっている。
魚港(ぎょこう)。
誰かがそう呼んで、もう街中にその名が広まっていた。
◆
「おーい、もう上がってくるぞ!」
桟橋の先で、舟持ちのカインが声を張った。
水路の向こうから、まだ頼りない小舟が三艘、ゆっくりと戻ってくるのが見える。網の影が、夜明け前の水面に黒く揺れていた。
岸では、既に人だかりができていた。
漁師見習いの若い連中、好奇心に駆られて抜け出してきた子どもたち、朝一番の仕入れを狙う料理屋と酒場の主、そして――ノエルが抱えた帳簿板。
「ま、まだ予定より十五刻も早い……」
「魚が腐る前に帰ってきたんだから、いいことじゃない」
並んで立っていたエシルが、苦笑しながらノエルの肩を叩く。
巫女服の上に羽織った上着が、朝の冷えで少し膨らんでいた。
「ほら、見て。あれが“今日からの仕事”よ」
三艘の舟が、ほぼ同時に桟橋に着いた。
まだ暗い水面の上に、ぴちぴちと跳ねる銀色の影。網を引き上げるかけ声と、水のしぶき。
「魚だー!」
子どもたちが一斉に身を乗り出した。
桟橋の端にあった縄に、大人たちが慌てて手を伸ばす。落ちるな、と怒鳴り声が飛び、笑い声が重なった。
「お、おいノエル、書けるか?」
「か、書きます!」
カインが手にした木札を掲げる。
舟ごとの印と、出た時間、帰りの時間、網の数、獲れた魚の量。
ノエルは震える指先で、ひとつひとつ数字を書き込んでいく。
「一艘目、ハルの舟――小魚百二十、川マス十七、川エビ……ええと……これは二十でいいか?」
「細けぇことはあとで決めろ! 死ぬ前に数えるんじゃなくて、生きてるうちに数えろ!」
カインの怒鳴りが、妙に理にかなっていた。
エシルは笑いながら、魚籠を覗き込む。
「思ったより、いるわね」
「森が静かになって、水のほうに“力が寄った”感じだな」
カインは濡れた髪をかき上げる。
夜明け前の水面は冷たく、漕ぎ手の腕は赤くなっていた。
「網を入れたとき、川が“重い”感じがした。
今までより、手応えがある。……悪くない」
エシルは小さく頷いた。
「今日から、この魚が“街の血”になる。
森に頼り切るんじゃなくて、水と森と畑で支え合う。――その最初の日ね」
ノエルが、半ば悲鳴のような声を上げた。
「え、エシルさん、予定より二割多いです! 漁獲量が!」
「じゃあ、その分は“魚港お披露目価格”で安く出しましょう。
初日から値崩れさせるのは怖いけど、“魚がある生活”を覚えてもらうほうが大事だもの」
「そ、そういうこと決めるときは、もう少し悩んでからに――」
「悩んでる間に腐るわよ」
エシルの一言に、周りの漁師たちがどっと笑った。
◆
魚はすぐ、桟橋脇の仮設市場へと運ばれていった。
木箱を並べただけの簡素な棚。だがそこに、銀や淡い紅、灰色の影が次々と並べられていくと、それだけで一角が“食卓の匂い”を帯びていく。
「安っ……」
「いや、肉よりはまだ高えぞ。初日だしな」
朝一番に駆けつけた酒場主が、川マスを数匹まとめて買い取った。
隣では、家庭用に小魚を袋いっぱいに買う母親たち。
子どもがひとり、魚の口をまじまじと覗き込んでいる。
「ねえ、これ、どうやって食べるの?」
「焼くのよ。塩振って、炭で」
別の母親が笑って答える。
この街に生まれて初めて“魚を主役にした料理”を作る家庭が、今日いくつも生まれるのだ。
「初日価格は“平均賃金の四分の一で家族分”くらいに抑えておきましょう。
代わりに、酒場と料理屋にはいつもより少し高めに」
エシルが、帳簿板を覗き込みながらノエルに告げる。
「肉も野菜も、急には減らせない。
森の獣が少なくなる分を、“魚と豆と果実”で補う形にしたいから」
「は、はい……ええと、“冬越し栄養計画”の欄に追記しておきます」
ノエルは慌てて別のページを開いた。
その帳簿には、「森編後 栄養配分計画」「冬季死亡率予防案」といった物騒な見出しが並んでいる。
「数字だけ見ていると、本当に胃が痛くなりますね……」
「数字だけ見てても、誰も助からないわ。
でも、数字を見なかったら、もっとたくさん死ぬ」
エシルの言葉は、淡々としていた。
森の祈りも、商会の数字も、彼女にとっては同じ“人を生かすための道具”だ。
「さ、ノエル。顔色は後でリナに診てもらいなさい。
今日のところは、“日収が昨日の三倍”になるって事実を喜びましょう」
「……三倍?」
ノエルは、思わず、帳簿を抱えたまま腰を抜かしそうになった。
◆
午前も遅くなってくる頃。
魚港の賑わいから少し離れた森前(もりさき)地区では、別の“最初の日”が進んでいた。
「はい、そこ杭。半歩左。……そう、それ以上右行くと、エルフに怒られるから」
ミレイが測量縄を片手に、慌ただしく動き回っている。
森緩衝帯の桜の帯から、少し街側に寄った斜面。
そこが、第一期開拓地――森前地区だ。
地面には、一定の間隔で木の杭が打たれ、そこに紐が渡されている。
住宅予定地、工房予定地、果樹帯予定地。
それぞれの区画が、まだ土の匂いしかしない斜面の上に薄く浮かび上がっていた。
「ここが、“炭焼き窯”の場所ね」
ミレイが指差した先には、既に小さな石積みが始まっていた。
鍛冶長ブランカが、腕を組んでそれを睨んでいる。
「水路からの溝は、もう少し太くしたいな。
火の回りがよすぎると、木が一気に燃えちまう」
「じゃあ、そこは都市開発局と治安防衛局と鍛冶ギルドの“共同案件”ってことで」
ミレイは軽く笑いながら、杭に印をつける。
「ここ、“濡れ輪”の線ね。
窯の周りに水が溜まるようにしておけば、火事になりにくいわ」
すぐ隣では、エルフの狙撃手セレスが、森側の木々を見上げていた。
森の主との約束で、“ここから先は伐らない”という線が、セレスにははっきりと見えているのだろう。
「……境界の桜、もう少し増やしたほうがいいかもしれないわね」
「森側から見て、ちゃんと“線”が見えるように?」
ミレイが訊ねると、セレスは頷いた。
「森は、人の札より“木の並び”をよく覚えるから」
ドライアドのミラも、その隣で土に手をついている。
指先から、微かな緑の光がにじんでいた。
「このあたり、根が絡みすぎているわ。
果樹を植えるなら、少し休ませないと。
森の主から借りていた力が“抜けた”後だから、無理をさせると枝がねじれちゃう」
「じゃあ、果樹帯の一部は、“三年後に植える”エリアにする」
ミレイは、新しい印を地図に書き込む。
「炭焼き窯と製材所で出る灰を、土に混ぜて寝かせておくのは?」
「それなら、根は喜ぶわ」
ミラが笑った。
森の主と交わした約束が、こうして具体的な作業に変わっていく。
斜面の下のほうでは、新住宅区予定地に、もう最初の地鎮の杭が打たれていた。
小さな家々の位置。
井戸の位置。
避難路として、森緩衝帯と水路へ抜ける細い道。
ミレイは息を吐き、斜面全体を見渡した。
「……ここに、人が暮らすんだな」
森を見上げ、また街側を振り返る。
森の黒と、水路の銀と、街の屋根の素焼き色。
その間に、新しい“帯”が一本増える。
「森を全部切るわけじゃない。
二割だけ、少しずつ借りて、少しずつ返す。
――その始まりが、今日か」
足元の土は、まだ固くない。
雨が降ればぬかるみになるだろう。
それでも、この土の上に、家と窯と果樹と笑い声が並ぶ未来が、ミレイにははっきりと見えていた。
◆
その頃、街の中心では、ガルドが新しい日課を叩き込んでいた。
「街巡回、森境界巡回、港巡回。
道が三本になった。足りねぇのは“目”と“足”だ」
治安防衛局の詰所の前に、桜盾と市警と民兵が集まっている。
朝の冷えの中、少し眠そうな顔も混じっていた。
「桜盾は森境界と港を優先。
市警は街中と市場。
民兵は、三路のあいだを繋ぐ“伝令役”だ」
ガルドは、簡易地図を掲げた。
「森が静かになっても、『何も起きない』じゃない。
静けさの向こうで何かが動いた後だって話は、この前の会議で散々した。
だから、“こっちが静かにならねぇように”する」
誰かが小さく笑った。
緊張をほぐす笑いだ。
「森境界班は、エルフとドライアドと組む。
言ったよな、“線は見えるように”って。
見えない線ほど、簡単に踏み越えるもんはねぇからな」
港巡回は、まだ見慣れない仕事だ。
水辺での事故、舟の転覆、酒に酔ってそのまま落ちる輩。
「水辺で人を捕まえるときは、“引っ張り上げるのが先”だ。
怒鳴るのは、息をしてからにしろ」
笑い声が少し強くなった。
「街中は――」
ガルドは、広場のほうを顎で示した。
「六大局だの市政議会だの、いろいろ紙が増えた。
紙が増えた分、揉め事も増える。
税を間違えた、配分を間違えた、仕事の割り振りが不公平だ。
全部、ありえる。
……そのとき、お前らの仕事は“怒鳴ること”じゃねえ」
市警のネスが、横から口を挟む。
「話を聞いて、通して、必要なら“議会に投げる”こと。
勝手に殴り合いを始めたら止めろ。
ただし、止めるときは、“どっちも止めろ”。いいな」
「片方だけ捕まえるのは、喧嘩ではなく政治だ。
政治は、ここじゃやらねぇ」
ガルドの言葉に、桜盾と市警の何人かが顔を見合わせた。
森編を経て、“街の中の戦い”も変わりはじめている。
「――行くぞ」
短い号令。
三つの道へ、三つの列が動き出した。
森へ向かう列、水路へ向かう列、街の中を巡る列。
それぞれの背中に、同じ桜の印が揺れていた。
◆
「で、なんで私はここにいるんだっけ?」
昼前、鍛冶場の前で、リナが不満そうに腕を組んでいた。
白衣の上に厚手の上着。手には、数枚の紙。
「“過労検査”の日だからだよ」
隣で、ユーマがさらっと言った。
彼もまた、診療院印のついた調査票を手にしている。
「六大局制を始めたばかりの時期に、一番壊れやすいのは“人”だ。
特に、局長とか、工房主とか、帳簿を抱えてるやつとか」
最後の一言には、ノエルが深く傷ついた顔をした。
「ぼ、僕のことを言いましたか?」
「君以外に誰がいるんだよ」
リナは溜息をついた。
「……はぁ。まあ、やるけどね。
福祉医療局の最初の仕事が“過労自慢大会”なの、どうなのかしら」
「大事だろ?」
ユーマは真面目に言う。
「森編でも思ったけど、“倒れてから”来られても遅いんだ。
あれは……本当に、洒落にならなかったから」
リナはちらりとユーマを見た。
彼が倒れた日のことを、診療院の全員が覚えている。
「じゃあ、まずは“あなた”からね」
にこりともせず、リナはユーマの調査票を奪い取った。
「睡眠時間、一日平均?」
「ええと……四刻半……くらい?」
「その前後に、“寝落ちしていた時間”を足すと?」
「……六刻、くらい……?」
「食事回数は?」
「一日三回。たまに二回」
「その“たまに”が続いた期間は?」
「森編の、真ん中あたりから……」
リナの目が、完全に医者のそれになった。
「――午後、診療院に来なさい。
血を見て、魔力のゆらぎを見て、ちゃんと数字にする」
「やっぱり数字……」
ノエルが小さく震えた。
数字はどこまでも、彼らを追いかけてくる。
「工房は、まだマシなほうよ」
リナはブランカの工房を指さす。
「火の前での作業時間、休憩の頻度、水分補給の回数。全部、治安防衛局と一緒に“規定”にする。
倒れる前に止めるためにね」
「ばあさんたちの畑仕事は?」
農家代表マークが、腰をさすりながら訊ねた。
「それは、“長く動き続けるための体の使い方”を教えるだけよ。
今さら畑から引き離したら、あの人たち、逆に体を壊すもの」
リナの言葉に、周囲から笑いが漏れた。
この街の“医療”は、怪我や病気だけではなく、働き方そのものを見ていくのだ。
◆
夕方が近づく頃には、一日分の変化が、街のあちこちに目に見える形をとりはじめていた。
魚港からは、午後便の小舟が戻ってくる。
昼に揚がった魚は、既に干し台の上で風に吹かれている。
水産市場には、「本日分 売り切れ」の札が掛けられた。
森前地区では、最初の地鎮の祈りが終わり、杭に小さな布切れが結びつけられていた。
家を建てる予定の家族の名と、そこで流れるであろう日常の願い。
街中では、新しい巡回路が、人々の足音の中に溶け込んでいく。
子どもたちは、桜盾の列の後ろをこっそりつけて歩き、「ここが森前」「ここが魚港」と言い合っていた。
桜精院の掲示板には、早くも「魚港開設のお知らせ」「本日漁獲量と税収」「過労検査結果(誰とは書いていない)」といった紙が貼られている。
ノエルは、帳簿を抱えたまま、その前で崩れ落ちそうになっていた。
「に、日収……三倍どころじゃない……」
「嬉しいでしょ?」
隣でエシルが、楽しそうに言う。
「もちろん、支出も増えるけれど。
森前地区の整備、水門と堤防、魚港の補強、氷室の建設、桜盾と市警の増員、福祉窓口の増築……」
「やっぱり胃が痛くなってきました」
ノエルは、腹を押さえた。
「でも、数字として見えるのは、悪いことじゃないですね。
“このくらいまでならやれる”って線が、少しだけ、はっきりしてきた」
「そう。『どこまでが無茶で、どこからが投資か』を見極めるのが、あなたの仕事」
エシルは、わざと軽い口調で肩を叩く。
「そのかわり、“無茶と投資の境目”を、私やユーマや六大局のみんなで考える。
ひとりに全部乗せないわ」
ノエルは、少しだけ笑った。
「……そう言ってくれるなら、まだ頑張れます」
◆
日が落ちた。
サクラリーヴの夜は、少し前まで、“必要な場所だけに灯りがある”夜だった。
見張り台、詰所、桜精院、市場のごく一部。
今夜は――違う。
水路沿いに並んだ灯火が、いつもより明らかに多い。
森緩衝帯の桜の帯にも、小さな灯が点々と灯っている。
森前地区へ向かう道にも、仮設だが足元を照らす灯が置かれていた。
高いところから見ると、それは一本の“筋”になっていた。
森と街と水を結ぶ、光の筋。
桜精院の屋上に立って、その光景を見下ろす者がいた。
「……やっぱり、ちょっとした“都市”だよな、これ」
アストだ。
外套の襟を立て、風に髪を揺らしながら、水路の灯を見ていた。
「村の夜っていうより、“港町の夜”に近え」
「まだ“港町”って言うには、小さすぎるけどね」
隣に立ったユーマが、苦笑した。
「でも、いつかは胸を張ってそう言えるくらいには――なりたいな」
水面に映る灯が、揺れている。
舟の底を叩く音と、遠くの笑い声。
森のほうからは、ひんやりとした風が吹き抜けてきて、その風が桜の枝を揺らしていた。
「森は、どう見える?」
アストの問いに、ユーマは少しだけ目を細めた。
「前より、怖くない。
でも、前より“遠くなった”感じがする」
「遠く?」
「うん。森の主と交わした約束も、保護林の線も、全部“こっち側の理屈”じゃないだろ」
ユーマは、森緩衝帯の灯を指さす。
「こっちはこっちの線を引いた。
森は森で、向こうの線を引いてる。
そのあいだに、“森前”って新しい帯を作った。
……それって、ある意味、“森から少し離れた”ことになるんだと思う」
アストは、しばらく黙っていた。
やがて、小さく呟く。
「離れたからこそ、“隣人”になれるのかもな」
「隣人?」
「森が家族だった頃は、食われるか食うかの関係だった。
今は、“境界線を挟んで隣り合っている”」
アストは、森の影と、街の灯りを交互に見た。
「隣の家とは、喧嘩もするけど、行き来もするだろ。
そのくらいの距離感になったってことじゃないか」
「……そうかも」
ユーマは、少しだけ笑った。
「森の主も、“隣の変わり者の家族”くらいに思ってくれると、助かるんだけどね」
風が吹いた。
森の方角から、柔らかい匂いを含んだ風。
森編の途中で感じた、あの「白い息」の重さは、もうほとんどない。
かわりにあるのは、“確かにそこに何かがいる”という気配だけだ。
「見てるんだろうな」
アストが呟く。
「魚港の灯も、森前の杭も、六大局も、市政議会も。
――全部、森の主は見てる」
「見られて恥ずかしくないものを、積んでいくしかないさ」
ユーマは肩をすくめた。
「森に対しても、外の国に対しても、この街の子どもたちに対しても」
水路から、舟の底を叩く音が響いた。
対岸から、短く笛が返す。
切れない音。
切れない道。
「なぁ、ユーマ」
「ん?」
「お前、“スローライフ”ってやつをやりたいんだろ」
アストは、空を見上げたまま言った。
「今のこれは、“スローライフ”か?」
ユーマは少しだけ考え、そして、苦笑した。
「……少なくとも、“やりたい放題のブラック商会”ではないかな」
「そんな言い方あるかよ」
アストが肩で笑う。
ユーマも笑った。
「スローライフって、“何もしないこと”じゃないと思うんだ」
水路の灯、森前の杭、六大局の窓口、市政議会の議席。
それらをひとつひとつ思い浮かべながら、ユーマは言葉を選んだ。
「壊れないように、何度でも組み直せる生活。
誰かが倒れても、全部が止まらない仕組み。
朝起きて、飯を食べて、働いて、誰とも殺し合わずに眠れる日々を、
“当たり前”だと笑えるだけの余裕。
それを“続ける”ことが、たぶんスローライフなんだと思う」
「……贅沢なこと言うようになったな」
「贅沢を知るくらいには、街が豊かになったってことだよ」
森の黒と、水路の銀と、街の灯り。
それらが、ひとつの景色の中に収まっている。
森は生きている。
街も、生きている。
水と森と街が、今日、初めてきちんと繋がった。
「さて――」
ユーマは、胸の奥で小さく息を吸った。
「明日は、外の村からの“視察”だ」
「来るのか?」
「来るよ。“魚の匂いにつられて”ね」
アストが笑う。
ユーマも笑い返した。
六大局制の初日。
魚港の初日。
森前地区の最初の杭。
過労検査の最初の紙。
その全部が、“次の一歩”に繋がっていく。
サクラリーヴという街は、もう村ではない。
まだ国でもない。
――けれど、この夜の灯りは、確かに“どこかの国の首都”と呼ばれてもおかしくないくらいの、強さと温かさを持っていた。
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