有名になった友人に——
五來 小真
有名になった友人に——
通勤前、テレビをつけていると懐かしい顔が映っていた。
『仕方なかったんですよ。お金も場所もないからやるしかないじゃないですか』
あの時の会話がそのまま展開されていた。
小学生の時の話が。
工芸品と言って良いまでの作品が、部屋を満たしていた。
スライドする本棚。
机に変形するベッド。
脚立に変わる椅子。
市販品でないことを主張するように、工具が並んでいる。
「これ、全部お前が?」
「ああ。部屋が狭いし、仕方ないんだ」
「DIY、好きなのか?」
「好きなもんか。金があったなら、買って済ませたいよ」
彼の言い分は理解できないこともない。
しかし電動工具は、安くなかったはずだ。
それにそのどれもが、美しく仕上げられていた。
「でもこの龍のモニュメントなんて、すごいクオリティじゃん」
手に取ったゴミ箱に付いた龍のモニュメントは、今にも動き出しそうで凶悪な顔をしていた。
本来ゴミ箱に必要ないモニュメントをここまで仕上げることこそが、彼の好きを顕しているのではないか?
「仕方ないだろ。しょぼいクオリティでは弟が納得してくれないんだ」
なるほどと思い戻そうとしたところで、矛盾に気付いた。
「弟さんに作ったものが、なんでお前の部屋に?」
「仕方ないだろ。クオリティを高めたら、怖いって泣き出したんだから」
「……そっか」
確かにこの龍が部屋にあったら、夢見が悪そうだ。
しかしゴミ箱と龍は一体型で作られている。
チープな龍から作り変えた?
そのプロセスが、どうも想像がつかない。
元からこのクオリティでないと作れないような……。
「俺だって普通にマンガやゲームで遊びたかったんだ」
不意に彼はそう言うと、頭を抱えた。
その様子を横目に、オレの興味は目に入った謎の建造物に移っていた。
「これは?」
「ゲーム代わりに作ったんだ」
「どうやって遊ぶんだ?」
「こう……」
仕組みはよく分からないが、木製のキューブが次々に組み代わりロボットに変わっていく。
「あるいは、こう」
ロボットは鳥型に生まれ変わる。
彼が言うには、創造力があればいくらでも変形させられるという。
「すげー。……オレもやってみていいか?」
「ダメだ。壊れたらどうする。俺の唯一の遊び道具なんだぞ」
「じゃあオレのゲーム機貸してやるよ」
どうしても試してみたくてそう口にすると、彼の表情があからさまに曇った。
「……いや、よく考えたら、親にゲーム機を貸すなと言われてたわ」
タブーに触れた予感に、口から勝手に言葉が出ていた。
「なんだよ、期待させるなよ」
そう言いながらも彼の顔は、言葉と裏腹に晴れやかだった。
踏み込んではいけない領域がある。
オレは無意識に悟った。
テレビのセリフに、過去の記憶から引き戻される。
『一回ゲーム機を貸してくれるって言った友人が居たんですが、フェイントだったんです。ひどい話ですよ』
自分が悪役として、彼の中に組み込まれていた。
あの時もっと彼の心理を暴いておけば、このエピソードはなかったに違いない。
しかしもしそれをしていたのなら、彼はこのテレビに出ていたのだろうか?
考えても仕方ない想像に微笑し、テレビを消した。
会社に向かう足取りは、いつもより少し軽かった。
<了>
有名になった友人に—— 五來 小真 @doug-bobson
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