伏線の貼り方が実に巧妙で、阿呆な私は見事気付かずスルーしてしまいました。
そして、それが回収されるときにはもはや手遅れでした。
本当に上手いなぁ……。
晩秋の夕闇の中で憔悴しきった友人によって淡々と語られる告白が徐々に心理的な恐怖へと引き込み、最後に全てを一掃するようにかっさらっていきます。
その勢い、まさに怒涛の如し。
この緩急の付け具合がまた巧みです。
また、明治の時を感じるような落ち着きある語り口も、物語に独特の雰囲気を産んでおり、短編でありながらも世界観に深く没入できます。
ミステリ要素とホラーを実に上手く両立させた、秀逸な短編作品でした。
是非ともどこが伏線であるかにも注目しつつ、お楽しみください。
旧友の妻女が失踪した、というのは知って
いた。それが身の回りの多忙に追いやられ
今になって漸く 彼 を見舞う事が
出来たのだった。
そこは『松屋敷』と呼ばれる由緒ある
武家屋敷で、旧友は両親と新妻と執事とで
暮らしていたものが。
月の光が荒れ果てた庭を醒々と照らす中
真っ赤に染まった楓だけが異貌を覗かせ
嘗ての旧友から、妻の話を聞かされる
主人公の心境の変化が、焦りじりと、
読む者の息の根を止めて行く。
何故、彼はそんな告解をするのだろう。
彼にとっての妻とは、一体何だったのか。
そして、彼は。
荒れ果てた庭に、赤々と染まる楓の木。
物語の結末は、きっと予想とは
少し違う。