第7話
ゲルダが離れ、ポーチカはユランがまだ食べていない料理も片付けようと、再びナイフとフォークを手に取った。
「──なあおい、あんたたちなんだろ、上級魔物を狩ったのって」
「精霊魔法を使うんだって?」
別テーブルにいた旅人らしき若い男2人組が、酒のグラスを手にポーチカに話しかけに来た。
恐らくずっと話しかけたかったようだが、ユランがいたから遠慮していたのだろう。
空いたユランの席にどっかりと座り、酒の入った赤ら顔の男が言う。
「どこのギルドなんだ? 精霊魔法を使えるやつがいるところなんて聞いたことないな。そもそも精霊魔法を使うやつ自体初めて見たぞ」
「ユランさんはフリーですよ。どのギルドにも所属してません」
ポーチカは当然のように答えた。
「無所属なのかい? まあ……精霊魔法使いなら単独でも上級相手ができる、ということか」
正面の男より少し落ち着いた様子のもう片方は、自分の席から椅子を引いてきてポーチカの近くに座った。
「すげえな、今度旅の護衛でもお願いしようかね」
「そうだね」
「ユランさんは単純な護衛は請け負いませんよ」
きっぱりとポーチカは告げる。
「上級以上の魔物の依頼しか受けませんので」
「何だよそれ、さすがに命知らずだろ」
「まさかとは思うけれど」
横の男が眉をひそめた。
「上級だけを相手って君たち──もしかして自分たちで奇晶を集めてるってことなのかい?」
「どういうことかしら」とゲルダが酒瓶を持って戻ってきた。
「女将さん知らないのか。上級魔物から取れる奇晶てのは、他の魔物に比べてかなりでっかいんだよ」
酒に酔った男は大きなものを抱えるような仕草をする。さすがにそんなに大きな奇晶はないが、とポーチカは心の中で思う。
「奇晶はギルドに売れる。大きればかなり高額でね。でも君達は……金が目的じゃないんだろう? 何ていうか、そんな感じじゃないんだよな」
「てことはあれだ、あんた達は」
酔った男は一度間を開け、
「精霊島に行きたいのか」
ポーチカはにっこりと笑みを浮かべた。
否定をしない相手に、酔った男は「夢がある」と膝を叩いて笑い、もう一人は「それは本当に命知らずだ」と顔をしかめた。
赤ら顔の男はさらに酒をあおり、ポーチカを見る。
「その目的ってのはもちろん──
どんな病気や怪我、呪いも治すことができる薬が存在する。
それが造られているのは、人間界とは隔絶された精霊だけの都──精霊島。
そこに足を踏み入れることができるのは、精霊が求めるだけの奇晶を献上する者のみ。
ポーチカは黙っている。が、その沈黙を旅人達はやはり是と解釈したらしい。
「確かに、ギルドに依頼するにゃべらぼうな金がかかる。俺たち一般人には到底手が出せないもんだ。自分たちで取りに行ける力があるなら、そりゃあいいよな」
「けど、とんでもなく危険で時間がかかるのは確かだろう。そこまでして助けたい誰かでもいるってことなのかい? 親とか、兄弟?」
ポーチカは一瞬答えに詰まり、「まあ、そんな感じですかね」と曖昧に頷いた。
「へええ、若いのに立派というかなんというか」
「いや、命知らずだよやっぱり」
「ほらほら、そろそろテーブルに戻ってくださいな」とゲルダが男たちをやんわりと追い払う。
煮えきらない答えを返す自分に気を遣ってくれたのかもしれないとポーチカは思った。
ゲルダは冷えたゼリーを持ってきてポーチカのテーブルに置くと、ふと首を傾け、「それにしても」と呟いた。
「あなた方がフリーってことは、今回、ギルドに所属してない人に狩りを頼んじゃったってことよね、町長」
「なにか問題ですか?」
ひとまずゼリーを口にして、ポーチカは尋ねる。
「問題かはわからないけど、この町には長年魔物狩りを契約しているギルドがあるのよ、『青嵐』って。最初はあなたたち、そこのメンバーなのかと思ってたんだけど」
「……」
「そこを差し置いて他の狩人さんに頼んで平気なのかしらと思って」
ポーチカは行儀が悪いことも忘れてスプーンをくわえたまま、その言葉の意味をよく考えていた。
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