想定の範囲外

青山 翠雲

第1話:想定の範囲外

 30〜50年前とはいかにも中途半端な遡り方の印象を持つかもしれない。今年は昭和100年だと言うが、100年前はすなわち大正が終わった年でまだ太平洋戦争前である。そこまで遡ってしまうと、そりゃ、干戈を交えていたアメリカとこんな付き合いしているとか、日本に言論の自由があるかとか、その変化の度合いはもっと大きい。そういう意味で言えば、私の父は昨年98才で天に召され、母は今なお健在であるが、この激動の昭和を生き抜いて来た人たちは本当にスゴイと思う。ダーウィンの進化論的に言えば、「最も強いものが生き残るのではない、最も賢いものが生き残るのではない、唯一、生き残る者は、変化に最もよく適応したものである」であるからして、大正15年生まれの父などは、ダーウィン的偏差値で言えば80ぐらいは叩き出しているところだろう。


 と言っても、この小説というものを書き残してみたくなってくる年代というのは、すべからく40-65才ぐらいのゾーンであろうから、私のマーケティング戦略上、30〜50年前としている。


 私が物心ついた小学生高学年ぐらいに眺めていた世間の眺望として、これは想像出来なかったなぁ、というところを雑感として綴ってみたい。


 まず初めに、これは想像出来なんだ、というところを述べると、「テレビの世界からプロ野球中継というものがこれほど消えようとは思いもよらなんだ」というところ。まぁ、テレビ番組のコンテンツの変貌ぶりである。私が小さい頃と言えば、夕方3時〜4時はワイドショー(3時のあなた/3時に会いましょうetc.)、4時〜5時は時代劇(水戸黄門/銭形平次/必殺仕事人シリーズetc.)、5時〜7時はアニメ等(マジンガーゼット/ゲッターロボ/勇者ライディーン/宇宙戦艦ヤマト/ウルトラマン/キャンディキャンディ/フランダースの犬/ベルサイユのバラ/日本昔話etc.)、7時〜9時はプロ野球、9時〜11時は映画とだいたい相場というか、もはや、時間割は決まっていたものだ。テレビは一家に一台の時代だったから、上に挙げてみるとおり、母、おばあちゃん、子ども、お父さん、大人たちとだいたいゾーン分けされていたわけだ。


 昔は娯楽が少なかったとはいえ、プロ野球、特にセリーグ偏重の時代だったよなぁ。プロ野球中継を見て、夜の11時からはまた「プロ野球ニュース」を見ていたわけだから、いかに我々がプロ野球に支配されていたかが思い起こされる。お父さんの贔屓のチームが負けるだけで、家の雰囲気が悪くなるなど、被害甚大だった家も多かろう。


 最近は、何もプロ野球に限らず、例えば、私が大好きなテニスを例に取ってみても、昔は四大トーナメント全部見られたが、今はNHKでウィンブルドンを見られるだけになってしまった。


 以前は、プロ野球選手も一定の活躍をすれば、その後、プロ野球解説者として生活していけた。今の世の中だったらどうか?中継がないのだから、厳しい状況なのかもしれない。


 ついでに言うと、テレビからは深夜番組というものが駆逐されてしまった。まぁ、これはコンプライアンスというものが吹き荒れているからというところが原因だ。以前などは、芸能人水泳大会などかあると、「あっ、この人はきっとポロン人材だな?!」などと予想がつき、かなりの高精度の的中率をマークしていたと思う。


 まぁ、NHKプラスだとか、ティーバーだとか、だいぶ便利になった部分は多数あるが、このコンテンツの変貌ぶりは全く予想出来なかった。


 それもこれも、インターネットやスマホの普及を抜きには語れない。このおかげで、これまた、30〜50年前には想像もつかなかったものたちが絶滅危惧種へと追いやられている。それは、年賀状をはじめとした手紙類、そして、まさかの電話による通話、新聞購読、現金による支払いである。想像もつかなかった世界である。郵政/電話会社/新聞社/銀行と言えばメジャー中のメジャーであったが、今や業態変更や合理化を迫られている。


 また、気候がこんなにも変わるとは思えなかったし、人口がここまで減るとは考えにくかった。小学生の時は、我々の年代が史上最高に人数が多かったこともあり、「人口爆発」による「食糧難」なんてことを習っていたし、お隣の中国は「一人っ子政策」を実際、展開していた。


 あと、カーナビやスマホの発達によって、道や電話番号は覚えなくなりましたなぁ。加えて、これからはAIが普及してくるわけで、一部のそれらを創り出すクリエイティブな人たちと、そうではない一般の「利用者」とでは、使う知能は大きな差が出てくる。ブレークスルーのような「頭で考え抜く」ということが少なくなっていくであろうから、全体では下がっていくことになろう。


 果たして人類は次の100年の間、継続して進化を遂げていけるのだろうか?それとも、退化の始まりを経験していくことになるのだろうか? (終)

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