闇の選定 約80000字 完結

YOUTHCAKE

第0話 蔓延

巷で、『黒い使徒』という悪の救世主的な存在が、一部の狂信者によって信奉されている。


黒い使徒は、生活苦に悩まされ、生きていくのが辛い世帯にランダムに現れることから、半強制的な人生終了ルーレットとも言われている。


その被害者と言われている世帯は年々増えており、被害例としては、以下のような世帯・人間が粛清されていた。


❶ 児童虐待をしていたとみられる、高校教師『大仁田淳』。彼は、偏差値の低い学校に勤める、不良生徒からの信頼の厚い、愛される教師でありながら、黒い使徒による殺害と噂されたころには、プライベートでは自身の子供に対して性的虐待を繰り返していたというまことしやかな言い伝えが広まった。大仁田が娘を被写体に撮影したと言われている児童ポルノはアンダーグラウンドで高額で取引されており、このことを思春期になってから知った実の娘は自殺している。


❷ 生活保護の不正受給をしていたとみられる、自称精神障がい者の男『五十嵐在昌』。彼は、メンタルクリニックから発達障害及び情緒障害の両方で精神障がい者手帳を受けており、その手帳の受領はクリニックの医師を五十嵐が脅迫した結果得たものだと言われている。また、クリニックの医師は、のちに昔カジノで膨大に膨れ上がった借金を返済するために作った『多重債務』を公に認めており、これを弱みとして握られたと供述している。


❸ ネグレクトをしていた、アル中男性『角松幸彦』。彼は、妻との離婚後、それを大いに憂い、そして悔い、あっという間にアルコール依存症に陥った。その結果、未成年の娘や息子から金銭を徴収してまで酒を購入するなど、素行不良が見られた。子供から金銭を徴収できなかった時には、「言い訳は要らん。盗んで来い。」と店からの窃盗を子供に向かって教唆したうえ、警察が家に来た時には、「そんな子に育てた覚えはないぞ!」と殴って説教するような悪い人間だった。


とこのように、社会に蔓延する癌の様な人間を、まるで原生林の間伐のように行っていくのが黒い使徒の特徴だった。


世論は、「どうしようもないクズは死んで当然」だとか、「この世に対して不誠実だったカルマが大いなる意思となって報復しに来た結果」だとかいう、黒い使徒を是とする意見が蔓延していた。


報道番組では、この黒い使徒の事件を取り扱い、批判するコメンテーターと賛成するコメンテーターが意見を戦わせるコーナーも盛況し、長年にわたる社会問題とすらなっていた。


その原因として、事件のたびに黒い使徒の首謀者とみられていた容疑者が、いずれも「犯人自殺」による事件の閉幕によって、捜査が打ち切られていたことにある。


しかし、その事件はやはり度々起こる。これに関して、社会の世論は、「ヒドラだ。ヒドラのように、世の中では誰かがまた新しい使徒として生まれ変わるのだ。」という説が広まった。


そのため、黒い使徒は、同一犯ではなく、事件のたびに別の犯人説が浮上し、その都度容疑者が変わるという構図が現れていた。


過激な思想を持つ一部の新興宗教団体では、この黒い使徒の登場を、「安住の地へ行き、やがて住まう新人類を守る、守護神」だとする思想も登場し、教祖の思想が迷走するなど、ある面では混乱も起こっていた。

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