リワインド ~ 巻き戻りし世界線 ~
@UBOB
プロローグ ~ 電話 ~
佐々木が塾から帰り、一人自室で勉強しているであろう深夜前の時間帯に俺は思い切って佐々木に電話を掛ける事にした。
一年のひな祭りの時、ほんの出来心から家にあった古いお内裏様とお雛様のセットをひな人形なんぞ飾った事が無いであろう長門に遣るからと殺風景なマンションに持ち込んだ。その礼なのか、長門は腕時計を俺にプレゼントしてくれた。その一見アンティークな時計はユキと二回触れると長門へ連絡がつき、長門からのメッセージを受け取れるというおまけ機能がついており、そいつには結構助けられた。さらに長門は時間伸長とかいう情報操作で赤点すれすれであった俺の勉強時間を確保までしてくれ、なんとかハルヒにどやされることなく俺も進級することができたのだ。
そうして迎えた新学期、SOS団は晴れて新入団員をむかえていた。 その名を『陸奥 なた』という、ハルヒや俺の一年後輩という事になっているが、その実、そいつがマジックポイントを吸い取りそうなハルヒ珍妙な動きで呼び出されたともいえる待望の異世界人というであるというのは、もはやお約束なのかもしれない。
異世界といっても俺たちの存在するこの宇宙とは異なる特性を持つまったく別の宇宙の終焉を救う力を求めてやってきた宇宙船のコアシステム。そいつが長門を模してインターフェイスとして顕現したという異世界人。結局のところハルヒのトンでもパワーのおかげか危機にあったその異世界に救いの手を伸ばすことができたのだが、その過程でかなたはSOS団のかけがえのない一員の地位と長門の妹的存在としての立場を得ていた。そしてかなたも長門のくれた時計に接続できるようになり、カナタと三回触れればかなたにつながるし、かなたからのメッセージも受けとれるようになったのは便利といえば便利だろう。
さて、その『かなたの宇宙を救うためのミッション』の中でのことだ。俺たちは天蓋領域からと思われる妨害を受け、とあるパズルを解かねばならない事態となったのだが、その絶体絶命の危機から俺が脱出できたのは、中学の時にある雑学を教えてくれた佐々木のお陰であるった。そう、佐々木にだけは礼を言わねばならない。話したって笑われるとは思ったが、俺としてはせめて感謝の言葉だけは伝えよう、そう、決意した。
なあ、これって別に悪いことじゃないだろう?
「高校は少々遠距離の通学になるし、帰宅時刻も不規則になるらしい。 そういったわけで進学にあたり僕も携帯を持つことになったのだよ。
ついでといっては何だが一応君にも僕の番号を知らせておく。
別に他意はないのだよ、じゃあな、元気で」
中学卒業を前にそういって渡されたメモを見ながら電話をかける。
どうせ数コールは待たされるかな、そう思い、その間に少しでも心を落ち着かせようとした、俺のその思惑は見事に外された。呼び出し音が鳴ったか鳴らないか、その瞬間に呼び出し音が消え、携帯の向こうに無音が広がる、 どうした、繋がらないのか?
壊れたのか?
恐る恐る呼びかけてみる。
「もしもし、佐々木さん、ですか?」
「……はい、佐々木です……」
佐々木の声、間違いない。
「俺だ、佐々木、忘れたのか?」
「失敬な……忘れる物か、僕だよ。
しかし、『佐々木さん』なんて、君に呼ばれたのは何年ぶりだろうね。
君から電話が来るなんて、まさか僕の声を聴きたくなったなんていう
「済まない、今、時間は良いか」
「良いも何も、外ならぬ君からの電話に僕が否をいう訳はないだろう? 」
久しぶりのその声は依然と変わらず俺を安心させてくれた。 これまで不義理をしていて、一言礼を言うだけなのは気がひけるし、黙ってるのも俺の本意ではない。
「用という訳ではないんだ。佐々木に礼を言わねばならないと思って電話したんだ」
「何の事なのかな? この一年以上君とは殆ど接触すらしていない僕が君に改めて礼を言われる理由は思いつかないね。待ちたまえ、少し考えさせてくれ……だが、わからん。いつからぶりだろうか、君の考えを
尤も殆ど君と出会っていなかったから、これはやむをえない事なのだろうが、少々僕としては残念だね。
仕方ない、もう少しヒントをくれないか」
いつもの佐々木にどうにか戻ってきたのか、最初の緊張が解け、心なしか嬉しそうですらある。
「俺が礼を言いたいのは最近の事では無いんだ、いつも佐々木が俺に色々な事柄を尋ね、教えてくれていただろ? 言うのも変なのだが、今になってその事の有難さが身に染みているんだ」
「不思議な事を言うね、君には学業の足しに成るような話も、そうそう実生活の役に立つような話もした記憶はない。
むしろ、僕の
「以前、ポーランド何とかという計算方法を教えてくれたのを覚えているか?」
「逆ポーランド記法だね、無論覚えているとも。
あれは君に悪い事をしたのではないかと、実は心配していたのだよ。
あそこまで君が見事に理解してくれないので少々君をからかいすぎた、それで君は僕と同じ高校への進学を諦めたのじゃなかったのかい。
僕としては、むしろ当時あの事を君に語ったことについては随分悔やんだものだよ。
僕にもう少し思いやりが有れば、というか僕の
今となってはもう遅いのだけれども」
「そんな、俺が北高を受けたのは俺に意気地がなかったからだし、事実、難しい私学の進学校を受けても受かりはしなかったのは分かっている。
だが、そんな事を気にしていてくれたのか。俺こそ済まない。
実は、ある状況でかなり命がけのゲームをやる羽目になってな、その時の問題を解くのに、その、なんて言ったっけ、『逆、ポーランド』? だったけ、その計算方法を知らないと解きようの無い問題に出くわしたんだ。それで、佐々木があの時、懸命に語ってくれた説明を思い出し、なんとか切り抜けることが出来た。
だから、その事で佐々木に礼を言わなくてはならないと思ったんだ」
「くっ、いまさら、何てことを言うんだ、君は……・」
佐々木、涙声なのか?
俺、何か悪い事を言ったか?
「僕の予想以上に君は真性の馬鹿なのか?
一年も二年も前の、あんな話をずっと覚えていて、いまさら解っただって?
君は全く信じられない奴だ、あの時からずっと無意識下で考えてでもいたのか?」
「そんな事、俺にも分からないさ。
ただ、数のカードと四則計算のマークのカードを並べた例題があって、1、2、+、3、+、4、+の並びが『10=』のカードに繫がっていて、これって、佐々木が教えてくれた、その逆ポーランド何とかじゃないかって気がついたんだ。
それで9と記されたカード4枚と四則演算のカードを組みあわせて、やっぱり十を作るカードの並びを作るのが問題だったんだ」
「待て、君は、その問題を解いたとでも言うのかい、何時間かかった?」
「そんなの、時間なんか計ってる余裕なんて無かったけど、全部で数分とかだったと思う、間に合わなければ俺の友人の命が危なかったんだ」
「……信じられない、まさか、君が、待ってくれ、僕にも解かせてくれないか、四則だから、累乗なんかは使えないんだな、紙も鉛筆もなしに電話口で解くような問題じゃないぞ、いや、四則だから落ち着けば小学生でも解けるんだろうが、うむ……、そうか、解った、しかし、これを君が自分独りで数分で解いて、逆ポーランド法で正確に表記しただって、信じられない、今僕が通っている学校の優秀な生徒だって、逆ポーランド法の知識なしでは無理だろう。無念だ、やはり、君をなんとしても……
いや、悪かったのは全部僕だ、君の潜在力を信じてやれなかった僕なんだよ、一番で入学してやろうなどというつまらない思いに捕らわれず、とっ捕まえてでも君の勉強を手伝うべきだったんだ。
そうしておけば、僕だって、こんな……
ぐ、ぐ、ぐっ、
はぁ、まで、まだでんばをぎるんじゃないど」
「おい、佐々木、大丈夫か、完全に鼻詰まってるぞ。良いから携帯をおいて顔洗ってこいよ、切らずに待ってるから、お前の泣き声なんて、初めてで、俺、どうしたら良いんだ」
カタリと携帯を置いた音がする。
ビビビビ、時計が震える。
KANATA.M> キョン先輩、大変です、今、行きます。ベッドの上空けてくださいね
え、何だ、ベッドの上、何も無いが……
その瞬間、ベッドの上に抱きあった長門とかなたが現れた。
「位置情報書き換え終了」
長門の平坦な声が告げる。
二人ともどうしたんだ? 何が大変なんだ?
「佐々木さんからの情報フレアの量が異常に増加しています」
「会話内容から推測し、過去への時間軸の巻き戻しが起こる確率73.2%」
え、何だって?
「キョン先輩、私から離れないでください」
かなたはそう叫ぶと俺の胸に飛び付くと俺の腰に腕を回し、頬を俺の胸につける。
「私はこの時空でバックアップにあたる」
長門、何が起きるんだ。
「帰ってくることを希望する」
「時間跳躍で逃げましょう!
あ、駄目、時空振動の予震、次、来ます、大きい、大きい、キョン先輩、有希姉さま!」
そんな……・、原因は佐々木なのか? 佐々木の所へ行けないか? あいつは、そんな無茶をする奴じゃない、話せば、きっと解決できる。
「今、飛ぶのは、危険」
「干渉を試みます、少しでも影響が小さくなるよう、良いですね、キョン先輩。
私を忘れないでください、お願い」
かなたは伸び上がると俺の首筋に小さく歯を当てた。ナノマシン?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます