落第剣士のフェリス
最強が好きな人
最強に
始めに
初めて小説を書いたので拙い部分が多いと思います。そこは目を瞑ってくれると嬉しいです。
ずっと何をやってもやる気が起きない。
ずっと出口のない暗闇を歩きまわっているような。
俺はいつもあいつの影だ。
最初のうちは良かった。
いつか追いついて、抜かせると思っていた。
でも現実はあまりにも無情だ。
どれだけ努力を重ねても追いつくことはなく、更に差が開いていった。
……俺には才能がなかったのだ。
結果がそれを雄弁に語っていたのだ。
方やあいつは神童と呼ばれ、方や俺は落第剣士と呼ばれた。
悔しかった。悲しかった。認めたくなかった。
自分の努力が否定されるのが怖かった。
否定されたくなかった。
でもそんな日々も………もう……
「おはよう!フェリス!」
そう言って笑顔で挨拶してきたのは現在神童と呼ばれ、俺の友人でもある、パウロだった。
「おはよう。パウロ」
俺もなるべく笑顔で返すように意識する。
「あーあ。今日も授業めんどくせぇなぁ。」
パウロはあくびをしながらそう言った。
「確かに最近の授業はちょっとハードだよな。」
俺も同調する。
「それな!!最近の先生さ、気合い入りすぎだよなー。なんか俺にばっか指導してくるし。」
パウロは非常に嫌な顔をしながら語った。
「まぁ。しょうがないんじゃない?だってパウロ大事な大会が近づいてるんだろ?だったら気合いが入るんじゃないかな?」
大事な大会といえば、そう"剣舞祭"だ。
俺たちは王都の有名剣術学院に通っており、そこで優秀な成績を収めた者が年に一度開催される剣舞祭に出場できるのである。
パウロは一年生ながら上級生よりも優秀であることを示したために剣舞祭に出場できるようになったのだ。神童と呼ばれる所以のひとつである。
「そう言えばそうだな……じゃあ仕方ないかー……ってなるか!めんどくせぇのには変わりねぇよ!」
まったく騒がしい奴である。
「まぁまぁ」
俺は興奮するパウロをなだめる。
「でもパウロ言ったろ?剣舞祭で優勝してやるって。」
それを聞いたパウロは顔をしかめ
「言ったけどそれとこれは違うだろ」
と嫌そうに言った。
それに俺は反論する。
「でも生半可な修行で勝てるほど剣舞祭は甘くはないだろ?」
そう。そうなのだ。剣舞祭は神童と呼ばれている者が片手間で優勝できるほど甘くはないのだ。
剣舞祭は学院の優秀生だけでなく、地方の大会を勝ち抜いた者、有名な冒険者、前回の優勝車などなど挙げ出したらキリがないほど強者が集まるのだ。もちろんその中で勝ち抜いた者が最強の名を欲しいがままにできるのだ。
だがパウロは落ち着いた様子で
「ふん。負けねぇよ。絶対優勝してやるよ。何たってお前との"約束"でもあるしな。」
と言った。
「"約束"……か。」
気持ちが少し沈む。
"約束"とは俺らが幼い頃に交わしたものである。
「「二人で最強に!!!」」
あの日誓った光景が浮かぶ。
(結局俺は約束を守れず………か)
情けない話である。
二人で同じだけ努力をしてきたはずなのに立っている場所がまるで違うのである。
「あー。今日は何の修行かなー。」
パウロがそう呟き。俺たちは学院に向かった。
パウロが教室のドアを開ける
「みんな!おはよう!」
パウロが笑顔で告げる。毎回思うが朝から元気なやつである。
「おはようー」
「おはー」
様々な挨拶が返ってくる。
「おはよう」
俺が言うと教室は微妙な雰囲気になる。
(まぁそうだよな)
俺がそんなことを思っていると
「落第剣士風情が…」
誰かが忌々しげに呟いた。
何を隠そうと俺はこの学院でトップレベルに弱いのだ。一番と言っても過言ではないだろう。
「学院の面汚し」「生きている価値がない」そんなような言葉をかけられ続けている。
「………おい」
パウロの顔から笑顔が消える。そして先ほどの生徒を睨みつけた。
「ひっ!」
その生徒はパウロの圧に怯んでしまう。
「パウロ。やめろ。」
俺はパウロを制止する。
「……フェリス。」
パウロは納得がいかないと言う顔をする。
「気にしてないから大丈夫だ。」
俺は悔しさを悟らせないようになるべく気丈に振る舞う。
「だって……お前………」
大丈夫だと言っただろが
「パウロ!!」
パウロが驚く。
「あっ………」
やってしまった。
「…………悪い。」
パウロはバツが悪そうな顔を浮かべて謝罪した。
「いや………俺もごめん。」
やってしまったのだ。パウロは俺のことを心配してくれていたのに。
(あーあ。俺ってどうしていつもこんなんになっちゃうんだろうな………)
キーンコーンカーンコーン
「着席してください。」
担任が告げるとみんな自分のせきに戻った。
俺らも例外ではない。
ただ普段と違うことといえば、俺とパウロの間に気まずい空気が流れているということだろう。
「遅刻欠席ともになしですね。連絡事項はありません。1時間目の準備をしてください。」
そう言われるとパウロはあくびをしてめんどくさそうに準備を始めた。
放課後
「よし。フェリス行くぞ。」
授業を終えた俺たちはいつもの場所に向かう
「………うん。」
(き、気まずい)
今朝のことがあってから俺はパウロにどう接したらいいかわからなくなっていた。
(よし。もう一回謝ろう。)
「パウロ。今朝はごめん。」
パウロは狐に包まれた顔をする。
そして大笑いし始めた。
「ははっ!なんだフェリス!お前今朝のことずっと気にしてたのか。」
「えっ?」
どうやら気にしていたのは俺だけだったらしい。
「おいおい。長年一緒に居てそんなのも分からないわけないだろ?」
パウロは笑顔でそう告げる。
「お前が色々考えてるのも知ってるし、俺に迷惑かけないようにしているのも知ってる。」
俺の考えは全て筒抜けだったようだ。
恥ずかしい。
「フェリス。ひとつだけ言っておくけど俺がお前を見限ったことは今までも、そしてこれからも絶対にない。」
そう言われた瞬間に胸が締め付けられそうになった。
パウロは信頼しているのだ。フェリスという存在を。
「……………………うん」
俺は酷く情けなくなった。
俺はこいつの相棒でいいのだろうか。
「ていっ」
パウロが俺の後頭部に手刀を入れてきた。
「いてっ!何すんだよ!」
俺は怒気を含めて言う。
パウロは真面目な顔で語った。
「お前は考えすぎなんだよ。そんでもって自分を最大過小評価している。」
俺はムッとした表情になる。
「フェリスは強くなってる。あの日から確実に。神童と言われてる俺が言うんだ。間違いないね。」
「あの日から………ね。」
あの日とは俺がクラスメイトから寄ってたかってイジメられた時のことである。
武器を取り上げられ、骨も折れ、瀕死になってもあいつらは笑ってイジメを止めることはなかった。
『落第剣士が学院からさっさと居なくなれよ!』
『剣士の恥だな』
『俺だったら生きてけないよ。そんな情けない姿で。ククッ。』
あの時は本気で死を悟ったが後に来た人物により逆にあいつらが瀕死になる事態になった。
その人物とは。
もちろんパウロである。
『てめぇら寄ってたかって!フェリスに何しやがる!!』
パウロはそう言ってその場にいる全員を切り捨てた。
(あぁ。カッケェなぁ。俺もあんな風になれたらな。)
俺はそこで気を失った。
『おい!フェリス!!しっかりしろ!!!……くそっ!!!』
その一件の後、パウロはクラスメイトいや……学校全員から恐れられるようになってしまったのだ。まぁ実質俺が地雷扱いだが。
俺は無力だと感じた。俺が弱いからみんなからイジメられてしまう。俺が弱いからパウロにも迷惑をかけてしまう。
俺が……………
「あっ。そういえば明日は隣町まで行くって言ったけど覚えてるか?」
「………………あっ。うん。」
あの日のことを思い出していたら反応が遅れてしまった。
パウロは別に気に留めず話し出す。
「そうそう。それでさ。フェリスのことを剣舞祭予選にエントリーさせておいたから。」
……………は?
「だから今日は大会の前日ということで気合いを入れてれ………」
俺はツッコむ。
「いやいやいやいや。まてまてまてまて。エイプリルフールは過ぎてるぞ?」
「別にボケてるわけじゃねぇよ。俺は学院の枠で本戦出場だろ?だからお前は地方大会優勝で本戦出場しなきゃ。」
「そんな当たり前みたいな感じで言われても困るんだけど。」
「言ったろ?お前は自分を過小評価しすぎだ。予選ぐらいなら苦労することなく突破できると思うぜ。」
「無理だよ………だって俺は弱いから。」
パウロはふんっと鼻をならした。
「お前のどこが弱いって言うんだよ。」
パウロは真っ直ぐにこちらを見てくる。
「………全部だよ。」
俺は目を背ける。
「もう………もういいよパウロ。俺はもうダメなんだ。」
弱音が自然と出てしまっていた。
「ふーん…………じゃあいいよ。フェリスが明日の大会出ないんだったら、俺も本戦でねぇ。」
「はぁ?何子供じみたこと言ってだよ。」
「だってフェリスが弱いんだったら。俺はあり
えない程の雑魚だぜ?」
パウロは肩をすくめた。
「何言ってんだよ。そもそも俺はお前との手合わせで一度も勝ったことないじゃないか。」
「…………はぁ。」
パウロは心底呆れている様子でため息をした。
「勝ったことがない?確かにそれはそうだな。けどお前は結果にだけしか目がいってないんじゃないか?らしくねぇぞ。」
「結果にしか目がいってない?俺はしっかりと分析した上で言ってんだ。それにパウロ。お前、俺と戦った後はいつも余裕そうじゃないか。」
語気が強くなってしまう。
「……………。」
パウロは黙りこくった。
俺はここぞとばかりに言う。
「ほら。何も言え………」
「恥ずかしかったんだよ」
「え?」
パウロが目を逸らす。
「最初のうちはフェリスの言う通りだよ。余裕だったよ。なんならむかついたよ。二人で最強を目指すって言ったのにさ。」
パウロは嘲笑するように言った。
「…………。」
でも俺は何も言えない。言えるわけがない。
パウロは続ける
「でもさ日に日に強くなっていくフェリスを見て焦ったんだよ。俺も予測できないスピードで成長していくんだから。」
俺は何とも言えない感情を抑え込み、言葉を絞りだす。
「……強くなった?この俺が?冗談はよしてくれよ。努力すらしてない人間が強くなるわけないだろ。」
「努力してない?お前が?」
パウロは怒気を含めて言う。
「じゃあフェリス聞くが、お前なんで毎朝ランニングしているんだ?それも限界まで。」
俺は驚く。
「お前はなんで昼休みに一人で基礎トレーニングをしているんだ?」
呆気にとられる。
「お前はなんで夜寝る前に俺のことを分析して更にノートまで書いているんだ?」
意味がわからない。
「ぱ……パウロ………何で…………それを?」
知られるはずがないのに。
「知らないとでも思ったか?俺は全部知ってるお前の努力を。」
信じられない。信じたくない。パウロが。パウロが。知られたくなかったのに。
「でもな、だからこそ怖かったんだよ。いつかフェリスが余裕で俺のことを倒せるようになったらとか、それでフェリスが俺に失望したらとかな。」
「何言ってんだよあるわけないだろ。」
「分かってたよ。分かってたけど。俺も人間だな。俺はフェリスからの尊敬がなくなるのが怖かったんだ。だからいつでも余裕なフリをしていたんだよ。最近はマジで余裕なくて辛かったけどな。」
パウロが肩をすくめる。
「でも……俺はそんなに強くなんて………」
俺は思ったことを口に出す。
「それがお前の一番の弱点だ。自を過小評価し、蔑み、貶し、他を持ち上げ、『自分なんて弱い』そう言い聞かせて、視界を狭めてきた。」
何も言えない。図星である。
「お前は恐れているんだ。その努力の日々が否定されてしまうのが。だから最初から期待をせず、落胆しないようにしていた。違うか?」
自然と涙が出てくる。
俺は心から叫ぶ。
「じゃあ……じゃあどうしたらよかったんだよ!俺には分かんねぇよ!色々試したけど追いつかない自分に心底絶望して!強くなっていくお前を前に無力だった!俺の気持ちが!!お前に分かんのかよ!!!」
パウロを見る。
あれ?パウロも泣いてる。
そして聞いたことのない声で叫ぶ
「わかんねぇよ!!!言ってくれなきゃわかんねぇだろうがよ!!俺だって………俺だってお前のことをどれだけ心配してたか………フェリス!!!お前に分かんのかよ!!!」
………あぁそうか。そうだったんだな。パウロ。お前も"人"だったんだな。
俺らは互いに期待を乗せすぎていたのかもしれないな…………
何もかも、もう………
そう思ったその時
「フェリス!」
パウロの目には決意が込められている。
「お前は!お前を!自分自身を!フェリスという存在を!……………もう認めてやれよ………っ。」
「っっ!……」
「もう……フェリスを許してやれよ………。」
「…………。ぐすっ。…………………あぁ。そうだな。そうだよな。もう…………認めてやらないとな。」
俺は自分に言い聞かせる。
パウロは優しく言う。
「そうだ。お前はもうをあの日のフェリスじゃないんだから。」
「あぁ。」
俺は決意を固める。
「ふぅ。……………ありがとう。」
パウロはふっと笑う。
「別に友達だからな。」
フェリスはパウロの影だ。
フェリスには才能がなかった。
でもそんな日々も………もう……
「さぁ
落第剣士のフェリス 最強が好きな人 @Anosu065536
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