クルリ〜お母さんとママ〜
坂道冬秋
前編
「大丈夫ですか?」
僕は、思わず声をかけた。路地で女性が倒れていたからだ。
「大丈夫です!すいません!」
彼女は、そう言った。
僕には、彼女が傷だらけに見えた。
どうやら、誰かに嫌がらせを受けたらしい。
その理由は、たぶん彼女が魔族だからだろう。
彼女の頭には、魔族特有の羊のような、巻いた角があった。
「家、近いので一緒に来て下さい。手当しましょう」
僕は、そう言って、倒れた彼女を起こした。
それ程、大きなケガはないようだ。ただ、体中に擦り傷があった。
「でも、私魔族ですよ」
「ええ、そうみたいですね」
僕は、なんでもないように答えた。
「そこのソファに座って下さい」
彼女を部屋まで連れてきた僕は、そう声をかけた。
やや、広めのリビングがあるマンションが、僕達の部屋だ。
ここの生活水準は、現代日本と変わらない。
魔族という種族が隣に国を作っているだけだ。
僕は、静か過ぎるのも緊張するので、リモコンを手に取りテレビをつけた。
「はい」
彼女は、戸惑った表情のまま座った。
僕は、棚から救急箱を取り出し、消毒薬をガーゼに染み込ませる。
「ちょっと、しみますよ」
そう言って、傷口を消毒する。
「ウッ!」
染みたのだろう、彼女はそんな声を出した。
「ただいま〜!」
「ただいま〜!」
二人の声が玄関から聞こえた。
一人は女性で、一人は小さな女の子の声だ。
「おかえり!」
僕は、リビングに入ってきた二人に声をかけた。
「その人は?」
女性の方が、僕にそう質問した。彼女は僕の奥さんだ。
もちろん、小さな女の子は僕の娘だ。
「近くでケガをしてたから、ウチに連れてきちゃった」
僕は、奥さんにそう言った。
奥さんは、ケガをした彼女を、ジロジロと見ていた。そして、
「じゃあ、当分ウチにいなさい!」
全てを察したのか、奥さんが言った。
「でも、私」
「一人だと心細いでしょ!」
奥さんは、強引に彼女を納得させた。
ケガをした彼女は、観念したのか、当分ウチに住む事になった。
今のこの国で、魔族の女性が一人で暮らすのは危険だからだ。
「名前はなんて言うの?」
奥さんが優しく聞いた。
「クルリです」
「クルリさんか〜」
いい名前ね。という感じで奥さんは、答えた。
「クルリちゃん、クルリちゃん」
娘がはしゃいでいた。
「ただいま帰りました」
クルリが言った。昨日、僕がこの家に連れ来て、ここで一緒に住む事になった。
仕事場は近くらしく、今朝はここから通勤して行った。
「おかえりなさい!」
先に仕事から帰っていた僕は、クルリにそう声をかけた。
「あなた!今からクルリさんの家に行って、荷物とって来て!」
奥さんが、クルリの顔を見て僕に言った。
「荷物?」
「当分、ウチで暮らすんだから着替えとか必要でしょ」
奥さんにそう言われるまで、僕は考えもしていなかった。
「そうだね、わかった」
「すいません、私のために」
クルリが恐縮して、そう言っていた。
「気にしなくていいのよ!当分、ここはあなたの家なんだから!」
奥さんが言った。そう言った奥さんを、僕はなんか惚れ直していた。
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