ASアルバイター・NK!

豆木 新

第1話

※この物語はフィクションです。

 実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 アダルトショップで仕事をするということは、ストレスとの戦いである。


 これは、俺――南波なんば和絃かいとが一年間、アダルトショップでアルバイトをした上で出した結論だ。


 因みに、俺は他にも色々なアルバイトをしてきた。

 飲食店、販売店問わず、その数は10箇所以上になる。


 そんな俺だからこそ言える、絶対的な経験則に則った言葉。

 それが、「アダルトショップ店員にかかるストレスはバイト界最強」ということ。


 とはいえ、そう言われてもにわかには信じがたいだろう。

 大抵どんなバイトでもキツいことはあるし、人によって「嫌だ」と感じるものも千差万別。「最強キャラクターは誰か」論争と「どの業種が一番キツいか」論争の決着はつかないということくらい、有名すぎて誰でも知っている常識だ。


 むしろ、アダルトショップでアルバイトをするということは、一部の人間からしたら夢のようなことかもしれない。


 だが、俺はそれでも言おう。アダルトショップのバイトはクソである、と。


「ねえ、きききちゃん。何枚出てる?」

「――はい?」


 なんてことを考えていたら、早速ご来店してきやがった。

 アダルトショップのバイトはクソだと言わざるを得ない、九割の原因が。


「だからぁ、きききちゃんだって。今何枚出てんの?」

「あー……はい。少々お待ちください」


 聞き返しただけで露骨に不機嫌そうな顔をするこの客。白髪交じりで黒スーツに身を包んだ、恰幅のいい男。

 まぁ、言い方に気をつけなければただのデブだ。


 そのデブ黒スーツは、ウチの店の常連。

 いや、常連と言っていいかは怪しい。なにしろコイツは商品を買っていかない。

 今みたいに、AV女優のイベントチケットが何枚発行されてるかを聞きに来るだけだ。もの凄い横柄な態度で。


 ただ、今回はいつもより少しまともかもしれない。

 酷いときは女優さんの名前ですら呼び捨てにすることがある。


 いつもお世話になってんだろお前ら。敬称くらいつけろよ。


 何回、そう言いかけたかは分からない。


 そんなことを思いながら、こちらもデブ黒スーツに負けないほど不機嫌な顔をしつつ、レジ内にあるイベントチケットの発行枚数を数える。


「えーと。き☆き☆き☆さんのイベントチケットは二十枚出てます」

「ふーん、あっそう」


 俺が答えたのと同時、一言残して去って行くデブ黒スーツ。


 いや、「あっそう」じゃねーだろ! 「どうも」の一言も出てこねーのか⁉

 二度と来るんじゃねーよクソ野郎!


 とは言えないから、去って行くその後ろ姿にありったけの殺意を送る。

 そういえば。またアイツ何も買ってねーじゃん。

 そろそろ出禁にした方がいいんじゃないの? ねぇ店長。


 そう思っても、いちアルバイトの俺が店長に口出しするのはいかがな物か。

 なんて考えたらやっぱり言い出せず、俺は今日もストレスに耐える。


 そう、アダルトショップのバイトがキツい理由の十割は客だ。

 風呂に入ってないのか異臭を放つ客やら、店員のことを舐めてんのか知らないけど横柄な態度のデブ黒スーツ。他にもまだまだ、怪物客はわんさかいる。


 だから俺は言おう。

 ――本当に、辞めた方がいい。

 アダルトショップでアルバイトをすることだけは。

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