第52話【相楽蝶子と濱田耀脩】

 佑真ゆうまの誕生パーティーが終わって、佑真とふたりで暮らしている家に帰って来た蝶子ちょうこと佑真。佑真は嬉しそうにもらったバラを花瓶に生けている。その様子を見ながら蝶子も思わず頬が緩む。しかし、ふとある事が心に引っかかった。


『―俺はの遺した大事な宝物を力で守ってやる事は出来ても、精神的に支えてやる事は出来なかった―』


蝶子

("弟"…確かにあの時そうはっきりと言ったわ)


確認しなくちゃ…。

どうしてかはわからないけれど、確認しなくちゃいけない気がするの…。


 翌週の学校。蝶子はとにかく早く確認したくてかなでを呼び出した。空き教室で奏を待っていると、のんびりとした様子で奏が入って来る。


「お待たせしました。確認したいことってなんですか?」


蝶子

「あなた、言ってたわよね。私と有り得ない縁の糸で結ばれてる組員が居るって」


「はい。それが?」


蝶子

「それってもしかして耀脩ようすけの事じゃないかしら。どうしても確認したくて」


「…それを知ってどうするんですか。訊いてしまった俺が今更どうこう言う権利はありませんが」


蝶子

「嫌なの」


「嫌、ですか?」


蝶子

「知らないままなのは、大事なモノを取り零してしまっているようで嫌なのよ。だからちゃんと知りたいの。ちゃんと知って受け入れて…だって、家族の糸で繋がっているのでしょう?」


「はい」


蝶子

「…」


「そうです。蝶子さんとは繋がっているのに大旦那様とは繋がっていない、その人物は機動隊長の濱田はまだ耀脩です」


蝶子

「やっぱり…」


「詳しい事までは俺にはわかりません。詳しく知りたいのなら大旦那様か、耀脩本人に訊いてみてください」


蝶子

「そうするわ。ありがとう」


 一礼をして教室を出て行く奏。取り残された蝶子はしばらく悩むと決意したように顔を上げ、LIMEで短いメッセージを送り、自分も教室へと戻った。数日後、蝶子は大鷹おおたかの部屋に耀脩を呼び出した。


大鷹佐おおたかのすけ

「訊きたい事があるという事だったな。まぁ、この面々で訊きたい事、といえばひとつしか無いな。お前と耀脩の関係だな?」


蝶子

「はい。以前、奏に私と有り得ない縁の糸で繋がってる組員が居ると聞きました。そして、この間の佑真の誕生日の時、耀脩はお父さまの事を弟と、言いました。私が知るべきではないというのなら深くは聞きません。ですが、数少ない家族だと言うのが本当なのならば、私はちゃんと家族の事が知りたいですし、権利があるはずです」


大鷹佐

「そうだな。家族なのに隠し事は良くないな。…そう。耀脩はお前の父親、鷹幸たかゆきの兄だ。わしから話してもいいが、千代子ちよこさんがどう思うかだな」


耀脩

「じゃあ、お袋に直接訊いてみます?今更、昔の事を引っ張り出して顔赤くする奴も居ないでしょ。親父が良ければ、だけどな」


大鷹佐

「わしは、そうだなぁ…千代子さんが構わないと言うなら良いだろう。耀脩の言う通り、直接千代子さんに会って訊いておいで」


蝶子

「良いのですか?その…」


大鷹佐

「なぁに構わんさ。孫が祖母に会いに行くだけの話だからな。しかし、賢児けんじはもちろん。耀脩、お前もついて行ってくれ」


耀脩

「わかった」


大鷹佐

「頼んだぞ」


蝶子

「…」


 なんだかトントン拍子に話が進み蝶子は拍子抜けした。そして翌日、帰りのホームルームが終わり昇降口を出ると賢児が迎えに来ていた。耀脩を待って、佑真も連れて4人で濱田家へと向かう。相楽の屋敷からさほど離れて居ない場所に家はあり、こちらも立派な日本家屋でインターホンを押すと中から歳を重ねた耀脩にそっくりな年配の男性が出てきて蝶子達を招き入れた。案内された部屋でお茶を出されてしばらく待っていると男性と和服姿の小綺麗な年配の女性が入って来た。女性は手に大事そうにアルバムのような物を抱いている。


女性

「ごめんなさい。お待たせしてしまったわね」ニコ


蝶子

「あなたが私のお婆さまですか?初めまして…」


千代子

「そう。私があなたのおばあちゃん。濱田千代子って言うの。それと初めましてでは無いのよ?昔、まだあなたがうんと小さかった頃に鷹幸が桜子さくらこさんと一緒に何度もあなたを連れて来てくれたのよ。ふふふ」


 「ほら」と言って千代子はアルバムを広げて見せた。そこには幼い蝶子と父親の鷹幸、母親の桜子と祖父の耀司ようじ、祖母の千代子が写っている。耀脩が撮ったらしい。


千代子

「すけちゃんから話は聞いているわ。蝶子ちゃんと耀脩の事よね」


蝶子

「すけちゃん?」


千代子

「大鷹佐だからすけちゃん。私達幼馴染なのよ。昔からとっても仲が良くてね。私と耀司さんが婚約した頃ぐらいにすけちゃんの跡継ぎの話が出てねぇ。相手に私が選ばれたの。私もお断りしたけれどちっとも聞いてもらえなくてね。すけちゃんも連日幹部の方と衝突して…それでも抗議は認められなくて私とすけちゃんの結婚の話が進んだの。すけちゃんは誰も居ない所で泣きながら謝ってくれたわ。何度も何度も…。そして悩んで悩んでその末に子供をひとり産んでくれと、その子供は自分が責任を持って育てるから、君は兄さん耀司の所へ帰ってくれって」


蝶子

「…」


千代子

「耀脩はそうね、あなたにとっては伯父になるのかしら?異父兄弟でも伯父になるのかしらね」


耀司

「あーどうだろうなぁ。まぁ、伯父でいいんじゃないか」


耀脩

「俺はユキちゃんのお兄ちゃんであれば何でもいいけどな」


佑真

「…あの、ちょっといいですか?」


蝶子

「佑真?どうしたの?」


佑真

「いや、耀脩さんが蝶子のお父さんのお兄さんなら、次期組長の候補は耀脩さんなんじゃ…」


蝶子

「…それは、そうね」


千代子

「古株の頭の固い方達はすけちゃんと鷹幸を捨てて家を出た私のもう一人の、しかも組には関係無い耀司さんの子供を担ごうなんて人は居ないわ。蝶子ちゃん。あなたには苦労を掛けてしまうけれどごめんなさいね」


耀脩

「俺も組長なんて無理無理。ガラじゃないし」(ヾノ・∀・`)ムリムリ


蝶子

「でも、順番で言ったらやっぱりあなたが」


耀脩

「俺はね、蝶子さん。ユキちゃんと親父…あぁと、大旦那様に仕えたんですよ。ちょっと病気がちだったユキちゃんを守ってやりたくて機動隊に志願したんです。自分が組長になって皆を引っ張ってくなんて俺は興味無いです。ユキちゃんと親父が居たから仕えたいと思ったんです」


蝶子

「耀脩…」


耀脩

「で、今度はユキちゃんの大事な宝物の蝶子さんと蝶子さんをとても大事にしてくれる佑真に俺は仕えます」


千代子

「耀脩。きっとあなたも良くは思われていないでしょう。よく頑張っているわね」


耀脩

「俺は気に留めないのも、無視するのも得意だから。ぜーんぜん何とも無いよ」╮(´・ᴗ・` )╭


蝶子

「…」


千代子

「あなたはゆうまくんて言うのね。蝶子ちゃんの許婚の子よね。すけちゃんがとても嬉しそうに話していたわ」


佑真

「あ、はい。藤澤ふじさわ佑真といいます」


千代子

「…すけちゃん、頑張ったのね。鷹幸も誰に意見させる事もなく桜子さんと結婚したもの。もう誰も泣かせない、かなしいおもいはさせないってね」


佑真

「あの、おふたりは組の行事には参加されてないですよね。やっぱり、顔出しにくいですか?」


千代子

「そうねぇ。私達が参加して快く思わない人の方が多いと思うわね」


佑真

「…」


千代子

「どうしてそう思ったの?」


佑真

「いや、だって家族じゃないですか」


千代子

「…でも、唯一の繋がりだった鷹幸は」


佑真

「蝶子が居ます。さっきご自分でおばあちゃんだと仰ってたじゃないですか」


千代子

「……ふふふ。そうね。蝶子ちゃんは私の大事な孫娘だわね」


蝶子

「お婆さま…」


佑真

「俺、いつか昔の事を気にしないで屋敷の行事に参加できるような組にしてみせます!」


千代子

「え?」


佑真

「もっと蝶子のお父さんの分まで、色んな蝶子の姿見てもらいたいです」


千代子

「…あなたは若い頃のすけちゃんによく似ているわね」


佑真

「若い頃のじーちゃんに?」


千代子

「えぇ。とっても。自分の事は後回しにして誰かの為に全力を尽くす。でもその道は険しいわよ?頭の固い古株の方は居なくなった訳では無いし、その古株の方の意見に同意する若い組員も居るでしょう?」


 千代子の問に佑真は笑った。


佑真

「蝶子と蝶子に繋がるものを守るのを大変だなんて思いません。だって俺はひとりじゃないですから。俺には味方がいっぱい居ますから。どんなに大変でツラい事があってもきっと大丈夫です」


蝶子

「佑真、あなた…」


佑真

「俺の15年間の人生に比べたらどうって事ないよ」


蝶子

「…」


千代子

「…詳しくは聞かなかったけれど…あなたはとても苦労したのだと、とてもかなしい生き方をせざるを得なかったのだと聞きました。すけちゃんの元に鷹幸を生み捨てた私が言えた事ではないのだけれど…」


佑真

「でも、蝶子のお父さんとお母さんが会いに来た時には受け入れてくれたんでしょう?だからこうして幸せそうな写真が残ってる。おばあちゃんは、千代子さんは鷹幸さんの事を愛してた。だから今日だって蝶子に会ってくれて事情を説明してくれた。でしょう?」


千代子

「でも、私はあの子に組長なんて道を押し付けてしまったわ。私が幸せになる為だけに…」


佑真

「それでも鷹幸さんがあなたに会いに来ていたのは、蝶子を会わせに来ていたのはあなたを愛していたからだと思うんです。俺の親は俺を処分できないゴミだと思ってる。全然違いますよ。そうやって悔いているのが何よりの証拠だと思いますよ」


千代子

「佑真くん…」


佑真

「期待して長生きしてくださいね。俺頑張りますから!それに、いつか俺と蝶子の子供にも会って欲しいですし」クスクス


千代子

「…そうね。長生きしなくちゃ。ふふふ」


佑真

「はい」


耀司

「まだ耀脩の子供も見てないしなぁ」


耀脩

「俺の子供ぉ?俺が親になるとか無理でしょ」


千代子

「あんたにその気が無くても、絢子あやこさんは違うかもしれないでしょう?」


耀脩

「えぇ…」


蝶子

「ふふふ。耀脩がお父さんになるなんて想像できないですね」


千代子

「そうねぇ。ふふふ」


 ひとしきり笑って懐かしい話を沢山聞いて、蝶子の中の小さな棘がすっかり抜け落ちた頃に帰る事になった。帰りの車の中。


耀脩

「あ、賢児。ちょっと花屋に寄ってくれ」


賢児

「花屋、ですか。わかりました。駐車場の無い所の花屋に行きますので早めに済ませてくださいね」


耀脩

「りょーかいりょーかい」


 5分程走ってこじんまりとした花屋の前に車を停める。耀脩は小走りで花屋に入って行った。なぜ突然花なんか?と思いながら3人は耀脩の帰りを待った。戻って来た耀脩は手に小ぶりな花束を2つ持っている。


耀脩

「お待たせ。賢児、次は桜台遠海さくらだいとおみの」


賢司

「あぁ。わかりました。それで花ですね。行きますよ?シートベルトは締めましたか?」


耀脩

「オッケーオッケー頼むわ」


蝶子

「ちょっと、何の話をしているの?」


耀脩

「いやぁ、お披露目がまだだったなって思って」


蝶子

「お披露目?」


 40分程走って海に面した霊園へと車は入った。車を降りて水桶と柄杓、花立を持って相楽家の墓へと向かった。一番陽当たりの良い、眺めの良い場所に相楽家の墓はあった。


耀脩

「ユキちゃーんお彼岸振り。桜ちゃんも」(❁´⌔`❁)


賢児

「まずは綺麗にしませんとね」


蝶子

「ちょ、ちょっと…どうして急にお墓参りなんか…」


佑真

「ここに蝶子のお父さんとお母さんが居るの?」


蝶子

「え、えぇ」


佑真

「そっか。賢児さん代わってもらってもいいですか?」


賢児

「良いですよ。上の方は流したので下をお願いします」


佑真

「はい」


 佑真はどこか嬉しそうに墓の掃除を賢児と代わり、その横で耀脩が花を生け、線香に火を着けていた。


耀脩

「…よしっと。さ、蝶子さん紹介してください」


蝶子

「え?しょ、紹介?」


耀脩

「ほら、ユキちゃんと桜ちゃんに佑真のこと紹介してないでしょ?組ではお披露目したけど」


蝶子

「あ…」


耀脩

「じゃあ俺と賢児は道具片付けて車で待ってますから」


 そう言って耀脩は道具を持って賢児と先に戻って行った。その姿を見送って蝶子は墓石へと視線を落とした。


蝶子

「…」


佑真

「初めまして!藤澤佑真と言います!」(`・ω・´)


蝶子

「!ゆ、佑真!?」ビクッ


佑真

「蝶子が紹介してくれないから自己紹介しちゃった」クスクス


蝶子

「…」ビックリ…


佑真

「初めましてで馴れ馴れしいですけど、呼ばせてください。お父さん、お母さん、蝶子の許婚になりました。これから色々勉強して相楽組の事はもちろん、大事な蝶子の事も守っていけるようになります!いつかそちらに逝った時に蝶子が幸せな人生だったと胸張って言えるように精一杯幸せにする事を約束します!よろしくお願いします!!」


蝶子

「…っ」


 墓石に手を合わせて大きな声ではっきりと伝える佑真。自分の事のように蝶子の家族を大事にしてくれる佑真に過去の苦しんでた佑真の影が重なって胸が苦しくて苦しくて蝶子は泣き出した。


佑真

「言いづらかったら声に出さなくてもいいよ」


蝶子

「…いえ、いいわ」


佑真

「無理してない?」


蝶子

「大丈夫よ…。お父さま、お母さま。蝶子はこの佑真と一緒にお父さま、お母さまの分まで目一杯幸せになります。佑真を支えて一緒に組を作っていきます。どうか、どうか見守っていてください」


 手を合わせて祈りながら泣き続ける蝶子の肩を抱いて小さく笑う。


佑真

「絶対、誰よりも幸せになろうね。…じゃあ帰ろうか。良かった。蝶子のお父さんとお母さんにちゃんと挨拶できて。俺の事認めてくれるかなぁ」


蝶子

「認めさせるわよ。私は、絶対佑真がいいんだから」


佑真

「ふふふ。ありがとう」クスクス


 蝶子と手を繋いで車まで戻る。車を降りて待っていた賢児がドアを開けた。


賢児

「きちんと挨拶は出来ましたか?」


蝶子

「えぇ。ありがとう耀脩」


耀脩

「んぇ?俺は別に。そういえばユキちゃんにまだ佑真のこと紹介してなかったなぁって」


佑真

「俺も蝶子の両親にちゃんと挨拶できてよかったです」


耀脩

「大事な一人娘だからなぁ。認められるかわからねぇぞ?」╮(´・ᴗ・` )╭


佑真

「そこは意地でも認めてもらいますよ!!俺は絶対蝶子と夫婦になって組も継ぐんですから!!」( ・᷅-・᷄ )


耀脩

「だといいなぁ?」ハッハッハッ


賢児

「あまり若をからかわないでくださいね」


耀脩

「悪い悪いw」


 窓の外、遠ざかっていく霊園を見つめながら色んな事を考えている蝶子。


耀脩

「…ま、そういう訳で」


蝶子

「?」


耀脩

「俺は鷹幸の兄貴で蝶子さんの伯父です。困った事があったら何でも相談してください。俺は死ぬまで蝶子さんの味方ですから」


 振り返らずに前を見たまま何でも無さそうに耀脩はそう言った。顔は見えなかったけれど蝶子はすごく嬉しかった。組長の孫娘だから皆優しくしてくれているんだと思っていた中で本気で蝶子の事を想っていてくれる人が居た事が本当に嬉しかった。


蝶子

「ありがとう伯父さま。頼りにしてるわ」クスクス


耀脩

「伯父さまは照れるなぁ」アッハッハッ


蝶子

「ふふ。私も言い慣れないわ。ねぇ、耀脩」


耀脩

「なんですか?」


蝶子

「帰ったらお父さまの話を聞かせてくれないかしら。昔のお父さまの話」


耀脩

「もちろん良いですよ。俺の秘蔵のアルバムも見せてあげますよ」


 謎も解けて、居ないと思っていた祖母に会い、そばで支え続てくれていた耀脩が伯父だと知り、蝶子はあたたかい気持ちで胸がいっぱいになった。そして、今まで目を逸らし続けていた鷹幸や桜子の事をもっと知りたいと思った。優しさで満たされた車内は穏やかな空気を乗せて相楽の屋敷へと帰って行った。



◈◈◈

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【さくらさく本編】 1年生編 雪白@おっさん @yukishiro_ossan8369

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ