俺のパーティが、小学生とJKと変態とヤクザ。勇者になれない俺の異世界漫遊記

ぴよぴよ

第1話 小学生が仲間になった


「それで、大学は?どこ大?」「え??」

「だから最終学歴!」

異世界に着いて、しばらくして。俺は何故か他の勇者候補と一緒に面接会場に来ていた。くたびれた俺の姿を見た瞬間、面接官らしき騎士は、不快そうに眉をひそめる。


会場は王宮近くの演習場横。数多の異世界から来た勇者候補たちが、勇者に相応しいか否か、厳しい面接を受ける。剣を携えた筋肉ダルマに威圧されると、元の世界の面接何て比べ物にならないほど恐ろしい。来ている連中は老若男女、種族問わず多種多様だった。


「東京パピヨン国際大学グローバル科です」

それを聞くと、 鎧を着た彼らはぷっと笑った。何で異世界に来てまで学歴を尋ねられているのだろう。これが夢なら覚めて欲しい。


「マルコ団長、東京パピヨン国際大学何て聞いたことありますか?」

「ないなぁ・・うち、第七世界のニホンから来た人だと、旧帝大以上しか取らないから」

(勇者に学歴関係あるのかよ)

既に血管が切れそうな俺の前で、騎士団長がパラパラとデータベースらしき本を開いては閉じた。

「そして~、ギフトが『繁忙期』って、ナニコレ?ん?」

そんなの俺がききたい。

異世界に召喚された人間は「ギフト」と言って、必ずスキルを授かる。俺も例に漏れず、ギフトを授かったのだが、「寝ずに労働可能」というしょうもないものだった。

そんなの社畜しか使わない。過労死まっしぐらのスキルである。


「そういうわけで、もういいよ。帰って」

あっさりこう言われて、倒れそうになった。就活の苦しみ再体験中。蘇るトラウマが脳みそを揺らしていく。


「待ってください!確かに私はFラン大学卒ですが、誰よりも勇者になりたい気持ちが」

別に勇者になりたいわけではないが、ついむきになってこう言ってしまう。

「気持ちで魔族が屠れますか?ったく最近のやつはやる気だ、気合いだって勇者を何だと思っているのかね~」


この語尾の伸びる喋り方、職場のクソ上司を彷彿させる。俺は筋肉ダルマたちに抗議しようと歩を進めるも、あっけなく取り押さえられて、部屋を追い出された。歴戦の猛者に軽々と抱え上げられ、外に放り投げられる。

「不合格者は、再び元の世界に送還される予定です。それまで異世界召喚者の待機宿にいてください」


「勝手に連れて来ておいて、そりゃあないでしょう!?送還はいつごろになる予定ですか!??」


彼らはそれには答えず、扉が閉められた。放り出された俺の背後には、およそ日本では見られない洋風の市場が広がっている。

最初に異世界召喚された時貰えた「旅人手当」があるものの、たった銀貨十枚だ。それで数日、どうやって大人しく過ごそうか。


ここはエルトガルド。RPG で言うところの「はじまりの町」のような場所だ。異世界から連れてこられた旅人が、まずはこの町で勇者適正検査や面接を受ける。 異世界から来た人間が多いせいか、あらゆる世界線の衣食が売られていた。


もちろん、異世界召喚で定番の「チートスキル」や、一見このように酷い目にあっていても、「実は俺が有能だった」何て話はなさそうだ。

俺たち勇者候補を召喚した、この世界の王は、魔物や魔族討伐のための戦闘員が沢山必要らしい。とにかくあらゆる世界からこの第一世界へ、勇者に相応しいであろう人材を片っ端から召喚しているそうだ。最近だとその精査も滅茶苦茶で、なかなかいい人材は現れない。勇者への投資や支援金も馬鹿にならないらしく、とにかく騎士団が無能と判断した人間は元の世界に送還される。 全く殆ど拉致と変わらない。

ちなみに選ばれし勇者には驚きの特典が付きまくり、勇者の支援者にもお得な何かが与えられるらしい。

俺は待機者。順番が回ってくれば、元の世界に帰れる。宿屋のおばちゃんに教えられた情報だ。

「それにしても・・」

俺は独りぼやきながら、王宮で渡された紙を開いた。卒業証書みたいな質感のそれに、俺に与えられたスキルや突然異世界に召喚してしまったことへの謝罪文、ちょっとした周辺地図が書かれている。

魔法や魔族が存在する異世界。一見、中世的な街並みが広がった古臭い場所だが、俺のいた世界以上に発展している。

ここ周辺のエリアが古風なだけで、町を抜ければ、日本の最先端技術が土下座するほど高度な科学技術が拝める土地もあるらしい。

とにかく様々な世界から人が流れてくるので、あらゆる文明を吸収して、混沌としていた。そりゃあ最初召喚された時は驚いたが、それ以上に「仕事どうしよう」と先に考えてしまった。

俺はいつからこんなに感動が薄い大人になってしまったのだろう。

さて。金は殆ど残っていない。待機者としてエルトガルドからは出られない。そのへんを観光して、適当に順番が来るまで待っていようか。旅人の待機所に戻る前に、適当に腹ごしらえをするとしよう。

おっさん一人の異世界グルメ何て、何か本当に漫画みたいで面白いじゃあないか。

銀貨をチャリンと手の中で回すと、市場を見て回ることにした。 あらゆる種族が店を構えて、接客をしている。本当に映画か漫画でしかみたことのない世界だ。

そこをスーツ姿で歩くのは、少々場違いだが、異世界コスプレを一式そろえる余裕はない。

只管反芻を続ける牛の獣人に声をかけ、適当に赤小麦の粥を頼んだ。

言語だが、不思議なことに日本語が通じる。難解そうな文字もすんなり頭に入る。おそらく魔法みたいな力が絡んでいるのだろう。

牛は壺の底についた小麦をこそぎ取りながら、たっぷり木皿に注いでくれた。桜でんぶみたいな色の粘り気の強い粥だ。 赤小麦とは各もピンク色に染まるものなのか。 食べてみると、麦飯みたいな食感で、悪くない。 付属の黄色のスパイスをかけると、カレーみたいになった。


中東で食べられそうな味だ。いつも俺が食べている底辺飯より何百倍も美味い。

空き缶とティッシュに囲まれた狭いアパートでの食事より、新しい景色を見ながらの食事の方がいい。 面接でコケにされたのはムカついたが、抜き打ち海外旅行と思えば悪くないじゃないか。

商品を積んだリヤカーが通っていく。人々の喧騒と、笑い声。青い空と活気のある町。俺に必要だったのは、風俗でもファミレスで喜ぶ彼女でもなく、解放感だったのかもしれない。

毎日ソシャゲのログインボーナスだけを楽しみに生きて来た。 雑踏に紛れて町に消える日々。同じ毎日の中でふと我に返ると、突然床を掻き毟って泣きたくなる。


(嫌なこと思い出したな)

麗らかな陽気のはずが、仕事のことを思い出すと、冷や汗が首筋を伝った。生物としても社会人としても負け組の俺。それは異世界に行っても変わらない。

もう少しで帰るのだから、この時間をもっと噛みしめなくては。


今の自分から目を背けるように、目線を市場にやると、見覚えのある何かが目に入った。心が死んでいる時に、コンビニの雑誌コーナーで見たやつだ。週間少年誌で連載されている大人気漫画のキャラクター。そいつがプリントされているTシャツが見えた。


(俺と同じ世界から来た子供もいるのか。気の毒にな)


手当たり次第に異世界から勇者候補を連れて来ているのは聞いていたが、まさか小学生くらいの子供まで連れてこられるとは。今頃、親が探していることだろう。

子供なんて興味もないので、さっさと飯を食って退散するとしよう。そう思っていたのに。

市場の喧騒の中で、そいつと目が合ってしまった。小汚い小学生だ。冬場でも半そで半ズボンで乗り切りそうな、餓鬼の代表格。そいつが俺目がけて走ってくる。多分、自分と同じ世界から来ていそうな俺を見て安心でもしたのだろう。

確かに俺は、元の世界の恰好のままだ。

(おい、おい、おい。止めろ。俺は子供の世話なんて出来ないぞ)

心の声など届くはずもなく、子供は猛ダッシュで近寄ってくる。今すぐ器を放り投げて逃げたいが、それも許してくれそうにない。


そうして俺の前まで来ると、子供は急に涙を目に溜め始めた。馬鹿野郎。まさか泣くつもりじゃないだろうな。俺がこう思うのと同時に、口を大きく開け始める。卵みたいな肌に涙が丸い形を保ったまま落ちていく。


「お・・おじさぁああああん!!おれと同じ世界のひとでずかぁああ?!」

泣きながら叫びだした。子供の本気の号泣に、周りの人間がさっとこちらに注目する。俺が泣かしたみたいじゃないか。止めろ。折角解放感に浸っていたのに台無しだ。

「うわああああああああ・・たすげて・・くださ・・いぃ・・!」

子供は号泣しながら、俺のスーツを掴んだ。五月蠅い。喧騒がちょっと霞むくらいの大音量だ。10 歳くらいだろうか。そんなに小さい子供にも見えない。

「ちょっと・・泣かないで・・ね?」

こういう時、どんな言葉をかけていいかわからない。取りあえず慰めてみる。涙でべとべとの手で俺のスーツを掴んだまま、目元を擦りながら子供は頷いた。

あー、面倒くさい。インフォメーションセンターに捨てられたらいいのだが、残念なことにこの市場にそんなものはなさそうだ。


「君、名前は何?」「たかし・・」「たかしくん」


何と平凡な名前だろうか。教科書の例文に載っていた名前だ。 義務教育を終えた人ならご存知だろうが、いつも果物を買いに行き、意味もなく兄弟と時間差で家を出たりしているあの「たかし君」だ。人々の生活に密に関わる重要人物と言えよう。


俺も「田中ひろし」なので、人のことをとやかく言えない。

「たかし君は、待機者なのかな?」

「おれ、勇者になりたかった」

また泣きそうになりながら、たかしがぽつりと呟いた。質問に答えろ。 「勇者になりたかった」か。発想が絵にかいたようなお子様だ。俺だって小学生の時に異世界に来ていれば、伝説の勇者になれる妄想でもしただろうか。


「おれ、めんせつで、勇者になれるそしつあるって言われた。優れた剣の使い手になるだろうって・・」こうして話している間にも再び泣きそうだ。たかし、泣くなよ。自分が選ばれし者だと勘違いしてしまうのは、子供ならよくある話だ。


・・・・・・ん?

「待ってね。たかし君は、面接で勇者の素質があるって言われたのかな?」

俺が面接を受けた時と、えらく評価が違うじゃないか。 俺なんか出身大学を馬鹿にされて、追い出されたのだ。中にはこうして素質のあるやつがいるのか。


もしかして生まれた時から、選別される人間は決まっているのだろう。たかし、なかなか凄い小学生だった。

「でもさぁ・・・」

そう言いながらもたかしの目に涙が溜まっていく。

「小学生ですって言ったら、中卒ですらないなら・・直ぐに勇者になれないって言われたぁあああ」

「なんだぁそりゃあ!?」


俺は思わず、大声を出した。同時に堪えきれず再び泣き出す、たかし。勇者になる資格の中に、どうやら中卒は絶対条件らしい。 義務教育すら終えていないとお話にならないみたいだ。


何と適当なのだろうか。この世界のやつは頭がおかしい。俺は社会人だからまだいいが、こんな子供まで拉致した挙句、しょうもない理由で追い出そうとしている。 知らない世界に放り出された小学生何て、不安しかないだろう。


さて、ここで「そうか、頑張れ」と一円にもならないエールを送って放っておくことも出来るが、俺はたかしに奇妙な縁を感じていた。同じ世界出身で、同時期にこちらに送られて来た日本人。それに低学歴だが、まともに育って来た俺は、こんな子供を放置して逃げられるほど嫌な大人でもない。大人ならば、子供を保護する義務がある。

面倒くさいことこの上ないが、こうなってしまった以上、仕方ないだろう。

泣き崩れるたかしの肩に、何となく手を置いた。小学生の頃担任にこんな風にされた記憶がある。

「おじさんも勇者に選ばれなかったんだ。 子供一人だと危ないから、おじさんと順番が来るまで異世界で待っていようか」

精一杯気持ちを込めて、こう告げると、たかしは目を擦りながら見上げてくる。よく見れば、瞳の大きい整った顔立ちをしている。


しかし次の瞬間、たかしは涙を止め、眉をひそめて俺を睨みつけた。何だ、その眼は。


「はあ!?おっさん、選ばれなかったのかよ!」さっきまで号泣していた、たかしはわかりやすく舌打ちをすると両手を頭の後ろに組んだ。

何だ、その態度は。変態に売るぞ。

「大人の癖に情けねぇー。騎士団にも入団出来ない大人なんているんだな。どうせ、低学歴のちゅうしょうきぎょうでシャチクやってる、低賃金所得者なんだろ!」


何だ、この舐めた餓鬼は。一瞬でも慣れない優しさを見せようとした自分が馬鹿だった。たかしは、ゴミを見るような目で俺を眺めると「使えねぇ」と再び悪態をついた。

よかった。幸いなことに、ここは異世界。元の世界の法律や常識は関係ない。

ここでこいつの内臓を引きずり出して、市場に並べてやろうか。

子供にここまでコケにされる経験がなさすぎて、ついついこんな大人げないことを考えてしまう。まあいいか。俺別にこいつの保護者ではないし、こいつがどうなろうと知ったことではない。せいぜい困り果てろ。


「たかし君はさ、どうして俺に助けを求めに来たのかな?」

俺を馬鹿にする割にはその場を離れない、たかし。


「おれ、おれと同じ世界出身で強い勇者に選ばれたやつを探してただけだから。そんでいろいろ援助を頼もうと思ってたんだよ」

さっきまで、同じ世界出身の俺を見つけて、安堵のあまり号泣していた餓鬼が何を言うのか。

「それに俺は待機者じゃない。勇者のそしつがあるから、この世界に残れる。こっちの世界で学校でも何でも卒業して、騎士団に入ってやるよ」

「たかし君」

たかしのお喋りを遮る俺。平和ボケした日本国出身のクソガキが、異世界で、一人で生きて行くと言っている。気づけば俺の額には血管が浮いていた。


「たかし君はさ、こっちの世界に親戚とか助けてくれる友達がいるのかな?」

「は?」

「食べ物は?住む場所は?服は?学費はどうするのかな?」

「それは・・俺は勇者候補だから・・おっさんも俺に投資しろよ!」

「赤の他人にそこまでしないよ」

するとみるみる元気を無くす、たかし。号泣、嘲笑などさっきからコロコロ表情が変わるやつだ。考えが及ばないところなんか、世の中を舐め切っているクソガキそのものだ。こういうやつが動画投稿サイトでしょうもない動画をアップして、叩かれて泣くのだろう。

・・何かここまでアホだと逆に面白くなってきた。


「あ・・・あの・・おれ」「俺も残念ながら、たかし君の保護者じゃない。それにあんな失礼な態度を取る餓鬼に構ってあげるほど優しくない」

「まあ、勇者目指して頑張れよ。たかし君」

再びたかしの肩が震えだす。 こういう子供にはハッキリ現状を伝えた方がいい。本当を知らないほど、餓鬼はつけあがるのだ。残念だが、たかし君は今すぐ騎士団か何かに頼んで、待機者にしてもらった方がいいだろう。


さっと器を店に返却し、たかしを置いて去る素振りを見せてみる。本当に置いて行かれると思ってなかったのだろうか、たかしはわかりやすく慌てて俺に駆け寄ってきた。


「ま・・待てよ、おっさん!」

「何だ、まだ何かあるのか。もう俺に用はないだろ。子ども好きにでも保護して貰え」

「お、大人のくせに俺を放置するのか!?大人の癖に!!?」

「うるせぇな。現実世界にはない解放感を味わいたいんだよ、おじさんは。今の俺に大人もクソもあるか」

「待って!待てって!置いて行くなら、ここで泣いて暴れるぞ!」

異世界グルメをもっと堪能したい。意外に美味い物が多いみたいだ。帰省の声がかかるまで、この世界の観光地なんか見てみるのもいいだろう。所持金は少ないが、 無料の施設ならそれなりに・・

「おっさん!悪かったって!低賃金所得者何て言って、わるかった!ごめんなさい!!」

元の世界にはない、植物もあるかもしれない。宿の人間に訊いてみるか。この市場でもまだ見たいものが沢山ある。

「おじさん、ごめんなさい!ごめんなさいぃいいい・・うわあああああ」

うるさい。もう、意味が分からないくらいうるさい。


涙の訴えを再開する、たかし。こいつもしかして俺について来るつもりなのだろうか。市場の人間がこちらを咎めるように見てくる。

俺は深くため息をつくと、たかしに向き直った。黙らせるにはこれしかない。


「たかし君、俺は待機者だ。だから元の世界に戻るまでの間になるが、それでもいいか?」

「え!?それって・・・!いいの!?」

たかしは直ぐに号泣を止めて、ぱっと表情を明るくした。何だよ、子供らしい笑顔も見せられるじゃあないか。


「ありがとう!おじさん!」

にかーっと音が出てくるくらい眩しい笑顔だ。 悪くない表情だ。今度ふざけた態度を取ったら、即行売ってやろう。


「ただし、さっきみたいな態度を取るな。愛くるしい少年でいる努力をしろ。そうすれば、一緒にいてやらんこともない」

「・・・わ、わかった」

愛くるしい少年の下りでうっと息を飲んだたかしだが、直ぐに微笑んでくる。 子供って立場を全力で利用しやがって。最初から良い子でいろ。


「そう言えば、おじさん・・名前何て言うんだ?」

「俺か?田中ひろしだ」

「ひろし!?ひろし・・・昭和の漫画に出てくる鼻水垂らした主人公みたいだな!」

おそらくたかしの頭の中には、ランニングシャツと学生帽の昭和チックなタッチの馬鹿そうな主人公でも浮かんでいるのだろう。やっぱりこの餓鬼張り倒そうか。

こいつ、憎まれ口をたたくのが癖になっているようだ。親の顔見たいし、親も殴りたい。


「置いて行くぞ」

「違う!褒めたんだよ!それよりひろし、これからどうする?」

「敬称くらいつけろ。取りあえずどうするかは、所持金で決まる。たかし君、金はいくらある?」

所持金の話しになると、たかしはさっと顔色を変えた。・・・これは、所持金ゼロの顔だ。

「たかしく・・」

「お金ない・・・」

金の使い方なんて小学生がわかるはずもないのだ。呆れ果てていると、たかしは再び肩を震わせだした。

「これに、使った・・」

たかしは持っている袋から、派手な色の剣を取り出した。実用性のなさそうな、玩具コーナーに売ってありそうな、某ヒーローが武器にしそうな剣だ。抜いたら喋るんじゃないか。

「だって、勇者には剣が必要だって、武器屋の人が言って・・・」

確かに中二病患者にはこういう武器が必要だ。

「これでひろしが魔物に襲われたら、俺が倒してやるよ」

うわあ、頼もしい。腹が減ったら、剣でもしゃぶれ。大人の義務とはいえ、アホで中二病のクソガキの世話を引き受けたことに心から後悔した。


「お前、どうするつもりだ。そんなので」

「おっさん・・・どうしよう・・・」

再び泣きそうな顔になるたかし。もう泣けばいいと思うよ、おじさんは。


「わかった。俺の分けてやるから泣くな。飯のクオリティを落とせば、何とか・・」

ああ、俺の解放感。異世界プチ旅行・・・。「ごめんなさい・・ひろし」

何もかも嫌になっている俺の後ろからたかしはトボトボついてきた。宿のやつに勇者手当が適応される場所をもっと訊こう。それか安い飯屋でも探すか。

普通なら異世界召喚何て、魔物を倒すか巨乳か貧乳を助けるところから始まる。俺の場合、クソ生意気な小学生の引率をするところから始まった。現実世界とは違う市場の中を、宿屋目指して小学生と歩を進める俺だった。

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