風が通り過ぎた後に
叶葉
ー プロローグ ー
窓の外で、風がゆっくりとカーテンを揺らした。
目を覚ました朝倉陽翔は、見慣れない白い天井をぼんやりと見上げた。
夜の病室は、蛍光灯の明かりがやけに白かった。
テレビではニュースが流れている。
『 勝てば全国 』そんなサッカーの試合で相手のディフェンスにより脚を負傷してしまった。
全国大会を逃したチームの映像が映るたびに、陽翔の指先が強く握られた。
悔しくて、情けなくて。
負けたのは自分のせいだと、何度も心の中で繰り返していた。
『 クソッ__、、 』
「……そんな顔しないでよ。」
カーテンの向こうから声がして、陽翔は顔を上げた。
声の主は、隣のベッドの子だった。
点滴を繋いだまま、静かにこちらを見ている。
「え?」
「さっきから、ずっと同じ顔してたから。
怒ってるのか泣きそうなのか、分かんないけど……見てるこっちがしんどくなる。」
冗談めかして言いながら、湊は少しだけ視線を逸らした。
でも、その口調には優しさが混じっていた。
「……悪い。」
「別に。俺も試合、見てたから。」
「そう。」
「すごかったよ、君。怪我してても最後まで走ってた。俺にはできないから、」
慰めるでも、羨むでもなく、ただ事実のように淡々と話す彼に陽翔は何も言えなかった。
カーテンの隙間から吹き込んだ風が、
二人の間をやわらかく通り抜けていった。
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