第14話 初ツイート
『というわけで、ライバー用のメールアドレスと頂いたパスワードで作成したTwitterのアカウントがこちらです。事前にお伝えしていた通り、公式アカウントは事務所との共同管理となります。サブアカウントの作成は自由ですが、一応報告だけはお願いしますね~』
という楠さんからの連絡があって数日後。
初配信が数日後に迫り、ついにエコーリンクの公式サイト及び公式SNSから新ユニット『第6小隊』のデビュー告知が投稿された。
既に俺たちのビジュアルと紹介文、各自のチャンネルへのリンクなどが公開されており、SNSは大盛り上がりだ。
昨日の発表直後からTwitterのトレンドに”エコー新人”、”第6小隊”、”男女ユニット”などの関連ワードが浮上し……同時に”ルナステ”、”同時発表”と言った単語も散見されている。
今のところはこちらの想定通りの反応といった感じだ。想像していたより反発も少なく、順調と言って差し支えないだろう。
掘って行けば男女混合デビューへのお気持ちや批判意見も目に入ってくるが、逆に言えば掘らなければ見えない程度でしかなく、掘り返して”行き過ぎた批判”に対処するのは運営さんに任せるとしよう。
『おー見て見て、まだなんも呟いてないのにもうTwitterのフォロワーが1万人超えちゃった!』
『わたくしのアカウントも同じですね。やはり久しぶりの新人で、男女の混合ユニットという話題性のおかげでしょうか』
『こんなにたくさんの人がわたしたちと出会える日を待ってくれてるなんて……! 気合が入りますねっ!!』
『配信者向きの気質すぎる……おれなんて、今から緊張してしょうがないってのに。うぅ、胃が……』
ヘッドセットから聞こえてくる同期たちのわちゃわちゃした声に、フッと笑みが零れる。
各自のTwitterへの投稿がついに解禁されたということで、第一声をどんなものにするか話し合うためにVCで集まっていたのだ。
「それだけ多くの人に見られてるんだ、下手なことはできないな。先輩方に倣えば顔写真と一言挨拶って感じか」
『画像はウチ用意してきたよー。これ可愛くない?』
そう言ってチャットに共有されたのは、ピンク髪の美少女がぱっちーん☆とウインクをキメている画像だった。
ピンク色の背景の至るところに丸っこい文字で"きゅるんっ♥"や"えぐ盛れ"、"ガチ恋注意☆"など書き込まれている。プリクラか?
『とっても可愛らしいです! 流石みーちゃんですね』
『あまりにもギャルすぎる……っ!? 見てるだけで甲高い笑い声が聞こえてきそうだ……』
「まぁ、一目でどういう人物かわかる写真だな」
『かわいいっ! ウインクもとっても上手ですごいです! どうすればみーちゃんみたいにできますかっ!?』
『コツはやっぱ、カメラがちゃんと認識できるように大袈裟めに表情作ることかなー。ウチはそういうの普段から意識してるからよゆーだったけどね。ギャルですから』
ふふん、と自慢げに鼻を鳴らす自称"ダウナー系イマドキギャル"。俺も見習いたいものだ。
実際の表情をカメラで読み取ってVのモデルに反映させる都合上、ライバーにはそれを前提とした表情作りや動作が求められる。
先輩方が時折配信で言及され、また楠さんからも言われた通り、どうやらこれにはライバーそれぞれで適性というものがあるらしい。
ちなみに俺は適性がない方だ。元々表情の変化に乏しいのもあって、気を抜くと不機嫌そうな仏頂面になってしまう。
『配信前に発声トレーニングと表情筋マッサージをした方がいいかもしれませんね。どうやらわたくしもあまり反映されない側のようでして……』
「俺もそうだな。時々仏頂面をしてるかもしれないが、特に怒ってるとかじゃないからあまり気にしないでくれ」
『たいちょーがガチで怒るとめっちゃこわそー。リアルもVも目元が鋭い系じゃん?』
『それを言うとシラユキさんも怖そうだな……。よく言うじゃん、普段優しい人ほど怒ると怖いって』
『わかります! 部活の顧問の先生も普段はとっても優しいのに、お説教の時だけは頭にツノが生えてるみたいで……!』
『あらあら……』
「何気にその"あらあら"が一番怖いかもしれないな……」
そんな風に他愛無い雑談をしながら、初ツイートの内容や文面を整えていく。
ミュウに倣って各々写真を用意していると、ふとピナが何か思いついたように声を上げた。
『あっ! あの、みなさんっ! みーちゃんのお写真を見て思いついたんですけど……みんなでお互いの写真にコメントを書きませんか!?』
『素晴らしいアイデアです、ぴーちゃん! 少々お待ちを、タップペンを取ってきますね!』
『おー、いいじゃんそれ! 卒業アルバムの寄せ書きみたいな感じね!』
『そ、卒業アルバム……? ウッアタマガ……!!』
「いいアイデアだと思うけど、”卒業”アルバムって例えはちょっと縁起悪い気がするな……」
『男どもうるさーい。がっくんは勝手にトラウマ刺激されてヘタるのウザいからやめなー?』
『…………出会ってからミュウに言われた言葉の中で、今のが一番メンタルに来た……以後気を付けます……』
かわいそう……(小並感)。
ミュウにバッサリと切り捨てられて放心した様子のリュウガに同情しつつ、俺もタブレットとタップペンを手に取った。
「投稿する順番に希望はあるか?」
『ウチはいつでもいいけど、やっぱトリはたいちょーが務めるべきなんじゃない?』
『さんせーですっ!』
『賛成です。最後は隊長さんに締めていただければと』
『おれが最初か最後じゃなければ、何でもいいかな……』
「……わかった。なら初配信の順番にしよう。つまりトップバッターは――」
『わたしですねっ!! お任せくださいっ!!』
気合の入った大音声が響き、その後は打って変わって息を呑むような沈黙が訪れる。
カタカタと少し覚束ないタイピングを、固唾を飲んで見守っていると……『あーっ!』と不吉な悲鳴が鼓膜を劈いた。
『ど、どうしたっ?』
『書いてる途中だったのに……間違えて送っちゃいました……!!』
「あー……」
スマホでTwitterを開き、ピナの投稿を見る。
――――――
日向ピナ✔️@hinata_pinadesu
はじめまして!!!🌞🌞
エコーリンクからデビューします!!第6小隊の一番槍!日向ピナです!!!🐤🕊️ひゅうがじゃなくてひなたです!!🍊これから
――――――
『あわわわ、や、やっちゃったぁ……! えっと、えっと、一旦最初からやり直したほうが……!?』
『まぁまぁ落ち着いてぴなち、びーくーる、すていくーる。消さなくていいし、普通にツリーで追加すればいいよ~』
『は、はいっ!』
――――――
日向ピナ✔️@hinata_pinadesu
ごめんなさい間違えましたごめんなさい🙇🙇
これからよろしくお願いします!!😊✨
お写真の文字はたいちょーさん、がっくんさん、ゆきちゃん、みーちゃんに書いてもらいました!!🌞✨
――――――
満面の笑顔を浮かべたピナの写真には、ミュウとシラユキの可愛さを褒め称えるコメントと、俺とリュウガの割合真面目なコメントが記されている。
登校してから数分と経たない内に、多くのいいねと”デビューおめでとう!”や”ポンコツかわいい”などの好意的なリプライが多く寄せられていた。
『う、うぅ……褒めてくれるのは嬉しいですけど、ぽ、ぽんこつ……!』
『ふふ、リスナーの皆さんは喜んでくれているみたいですね。ピーちゃんの可愛らしさが伝わったようで何よりです』
『ちょっとのミスは愛嬌ってやつだよ。ぴなちのよさがしっかり出てるって!』
「次からは大事な投稿の時は、メモアプリとか活用しようか。んで、次はリュウガだな」
『お、おう!』
――――――
冥前リュウガ✔️@MEIZEN_RYUUUUGA
エコーリンクの新人ライバー、冥前リュウガだ
《第6小隊》の狙撃手(スナイパー)をやらせてもらってる
俺の後ろに立つな…命が惜しければな
――――――
『…………な、なんだよ! 言っていいだろスナイパーなんだから!』
「何も言ってないだろリュウガサーティーン」
『あーなんかで見たことあんなーと思ってたけど、アニメのやつかぁ。ウチそういうのよくわかんないなー』
『ごめんなさい、わたしもわからなくて……さーてぃーんさんっていう人の台詞なんですか?』
『これが、ジェネレーションギャップ……!?』
「お前ら同年代だろ」
『あら、リスナーの皆さんはご存知の方が多いみたいですね。よかったですね、がっくんさん』
『……うん、まぁ、リスナーに伝わったならいいや』
『次ウチね~』
……わいわい、わちゃわちゃ。
お互いの投稿に好き勝手寸評したり、茶々を入れたりしながら――俺たちは広大なインターネットの海に、最初の波紋を刻んだのだった。
――――――
夜桜ミュウ✔️@myumyumyu_yozakura
はろはろー🌸
エコーリンクから第6小隊のメンバーとしてデビューしまーす
ダウナー系イマドキギャルの夜桜ミュウでっす🌸🐈
斥候?スカウト?としてみんなの世界も
バリバリ偵察しちゃうんでよろしくね🪬
#エコーリンク新人
#歌うまギャル
#歌唱力優勝
#うたスキさんと繋がりたい
――――――
――――――
氷室シラユキ✔️@himuro_shirayuki
リスナーの皆様、はじめまして。
この度エコーリンクの末席に連なることになりました、第6小隊の氷室シラユキと申します。
まだ分からないことばかりではございますが、リスナーの皆様と楽しく心踊る時間を共有できましたら嬉しく思います。
どうぞよろしくお願いいたします。 ❄️
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――――――
神代アレン✔️@llen_kamishiro
はじめまして。新トウキョウ都防衛軍第6試験小隊隊長、神代アレンだ。
調査任務と銘打たれてはいるが、せっかくの機会だ。あまり気にせず一緒に楽しんでくれると嬉しい。
部下共々、これからどうかよろしく頼む。
――――――
──────
魔女に鉄槌は与えませんし瑠璃色の甲冑もありませんが、声帯のイメージは大体その辺りです。
妹側の話をしたら初配信編です。(もしかしたら掲示板回が挟まるかもしれない)
フォロー、応援、コメント、☆レビュー等頂けると嬉しいです。
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