第七話 翌年の八月『俺の部屋』(横浜)
次の年の八月。 勤務時間中、唐突に髙橋さんから電話が掛かって来た。 仕事中に電話に出ることは難しかったので、終わってから掛け直した。 三回呼び出しの後彼が電話に出た。
「もしもし!」
「もしもし、どうしたの?」
「遠藤さん、今夜、空いてる?」
「ん、空いてるけど…」
「横浜でデートしない!?」
電話が終わったあと、私の身体にまた情念の炎が付けられてしまった……。 私は下着から何から何まで清潔なものに取り替えると、更衣室を後にした。 バスで会社の最寄駅まで出て、そこからJR東海道線に乗り込み、横浜駅を目指した。 ドアーの端に立ち、硝子窓から見える夕日が照りつけた、過ぎては去っていく景色に目をやりながら、一番最初に犯された時の記憶と、去年の五月の最初の逢瀬の記憶を辿る。 そしてあの時の刺激的な男女の交わりを思い出せば、欲望の炎を消し去る事が出来なくなり益々『髙橋』という男が恋しくなった。
……髙橋さんが、欲しい!!
私は服の上から鞄を持ったまま両手で自分の下腹部をぎゅぅと握り締めた。
心臓の鼓動が速くなってくる……。
「やぁ、ごめんごめん!」
「待った!?」
約束の時間を十分過ぎてから髙橋さんが横浜駅の改札前に来た。
「いや、そんなに待ってないよ、それより何処に行く!?」
「そうだなぁ、先ずは、駅周辺を散歩しながら軽く腹ごしらえとするか!」
「兎に角、この駅を出よう!」
私達は駅構内を出る為に、まずエスカレータに乗った。 髙橋さんが前に立ち、後ろを振り向くとそこから私のふくよかな胸を両手でたわませて、
「おっぱい……」
「遠藤さん、今日はエッチなTシャツ着ちゃって……」
「もしかして、ボクのためにそんな淫らな格好してくれてるの??」
私は俯き加減に顔を紅潮させる……。 透かさず、彼がその顔を自分の方へ向けると、さり気なく、私の唇を吸った……。 私の後ろの段には年配の夫婦が立っていて前の段のこの私達『家庭を裏切る者』同士の男女をじろじろと眺めて聞こえよがしに嫌味を言ってきた。
すると彼は、
「何か言いたいことでも!?」
と威圧的な態度を取ってみた。老夫婦は、
「いいえ、別に……」
と、黙り込んでしまった……。
私達は駅構内を出て、周辺の街を散歩し始めた。 もうこの時間になると外が薄暗くなり始めてくる。 私達は隠れられるところを見つけては人目を忍んで抱き合い唇を重ねた。 そんな事をやりながら歩いて街を散策しているとイタリアンバルの店を見付けたので、そこで海老のアヒージョやパルミジャーノレッジャーノ等をつまみにメガハイボールを3杯ずつ煽って程々の処で切り上げて再び街を散策し始めた。 外はもう真っ暗になっていた。
途中、広そうな公園を見付けたので、そこで少しイチャイチャしようということになり、うまい具合に暗い茂みに隠れたベンチや、何やら男女の秘め事をするのに丁度よい円筒形の太い柱の中に入り込み、他の男女の若いペアが抱き合ってスキンシップを取っているのを横目に見ながら、私達も同じ様にちょっとイイことをした……。
程々に楽しんだ後、私達はまた駅周辺に戻ってきた。 真っ直ぐ進めば横浜駅という処で髙橋さんが無理矢理私を引っ張り、ある建物の中へと連れて行く。 そこは、『俺の部屋』という、休憩したり終電を逃し、ホテルが取れなかった人が利用する、一夜を明かす為の宿泊施設だった。 まぁ、ネットカフェよりは休まるところだろう(安全面を含めて) 。
彼はそこで部屋の鍵を借りて案内された部屋に私を誘うと、ドアーを施錠した。
「喉が渇いた!」
髙橋さんはOKと立ち上がると、そそくさと着替えながら、
「じゃ、飲み物買ってくる!」
「何が良い!?」
私は何となく、シュワッとしたものが欲しくなったので、
「ジンジャエール☆」
と、お願いした。
その後は、穏やかなスキンシップを取りながら『まったり』と過ごした……。 こうして八月の夏の夜は更けていった……。
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