第六話 一夜明けて

 翌日の土曜日、午後四時半頃。 私はカフェテラスから髙橋さんに電話を掛けた。 七回呼び出しをした後、髙橋さんが電話に出た。


「……もしもし」

「遠藤です 」

「や、……やぁ」

「……やぁ」


 しばらくの沈黙の後、私が口を開く。


「昨日はありがとう」

「あ、いえいえ、こちらこそ」

「あれから大丈夫だった?」

「うん、カミさんはまた誤魔化して置いた」

「それより」

「……え?」


「そちらは、どぉ!?」

「何事も無く?」

「いやぁ、遠藤さんのアソコから、初めての『血』が出てたからさ」

「大丈夫かなぁって」

「……痛い?」


 そうだった。 髙橋さんは昨日、私の初めてを奪っていたのである。 よりによって、不倫という形で。 純粋な愛ではなく、穢れた肉欲という、裏切りで。 家族に対する、旦那としての、父親としての『裏切り』で。 それは綺麗なものではない、邪な恋心から来る、過ちだ! それと同時に、彼は、私を傷つけた!!  出血を伴う、痛みを伴わせて。


 私は、下腹部を擦りながら、


「少し、疼きます」

「……でも、大丈夫よ」


「……そう、良かった」




 彼の安堵する声がスマホのスピーカーの奥から聴こえてくる。 少ししてから、


「な、なぁ」

「……うん?」

「また、季節が変わったら逢わない?」

「連絡もちょこちょこ取ろう!」

「いいよなぁ!?」

「……」

「あれ? 」

「……駄目??」


 私はふふっと笑い、


「良いよ!」

「宜しくお願いします」

「……やったね!」




 その後、あれやこれやと話しているうちに、直ぐ時間が経ってしまう。 話が砕け切らないうちに私は電話を切った。 元はと言えば、私は髙橋さんに傷つけられた身だ。恨んでいてもおかしくない立場の筈である。 しかし、今は私にとって、髙橋さんは不純な愛の対象になってしまった。 私の心のブレーキはとうに壊れている。 此処から、私の暴走が始まる。 私はまず、祝杯をあげるために熱い紅茶を啜った……。







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